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りらの誕生日。
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夏休も終盤に差し掛かった8月の下旬。
セミがまだミンミンとうるさい中、
俺は大きな箱を抱えながらりらのいる病院に向かって歩いていた。
秋臣「あっちー・・・。」
今日の最高気温は38度。
りらが外に出たら一瞬で倒れる気温だ。
秋臣「今日も散歩はできないな・・・ま、これを渡したらこれで遊ぶか。」
抱えてる大きな箱の中身は・・・りらへの誕生日プレゼントだ。
明日に誕生日を控えてるりらに・・・1日早いけどプレゼントを渡す。
秋臣「喜ぶ・・・といいけど・・。」
そんなことを考えながら病院についた俺はナースステーションを横切ってりらの部屋に向かった。
部屋の前で一旦荷物を置いて汗を拭う。
秋臣「病院の中は冷房効いてるから・・・一気に汗が出てきたな。」
拭えど拭えど汗は止まらない。
秋臣「もうこのままでいっか。」
俺は置いていた荷物を抱え、汗を流しながら部屋のドアをノックした。
コンコン・・・
りら「はーいっ。」
ガラガラとドアを開けて中に入る。
秋臣「おはよ。」
りら「おはよ・・・ってどうしたの?その荷物にその汗・・・。」
秋臣「外、超暑い・・・明日、誕生日だろ?一日早いけど・・・プレゼント。」
そう言ってソファーの前にある小さいテーブルの上にプレゼントが入った箱を置いた。
りら「・・・え!?私、オミくんのとき何もあげてないよ!?」
秋臣「あのときもりらは調子悪かったからな・・・。」
春生まれの俺の誕生日は季節の変わり目だ。
寒い日が数日続いて・・・りらが熱を出したんだった。
りら「なのに・・・・」
秋臣「じゃあ次の誕生日、期待してる。」
りら「!!・・・わかった!」
秋臣「とりあえずこれ・・・誰よりも一番に渡したくて今日持ってきた。・・・開けてみて?」
りらは箱をガサガサと開け始めた。
結構大きめな箱から出てきたのは・・・
りら「!!・・・ちっちゃいグランドピアノ!」
秋臣「『トイピアノ』ってやつな。ちゃんと音もでる。」
前にうちに遊びにきたとき、俺のピアノの音を気に入ってたりら。
よくレンタルするCDの中に、ピアノオンリーのCDもよくある。
ピアノの音が好きそうだったから・・・これにした。
りら「押してもいい!?」
秋臣「キレイな音がすると思うよ。」
りらは人差し指で一つ鍵盤を押した。
♪~・・・
りら「すごい・・・!」
秋臣「気に入った?」
りら「こんなすごいのもらっていいの・・・?」
秋臣「指輪・・・とかのほうがよかった?」
付き合い初めて一年。
アクセサリー系を買ってもよかったけど、それは大事な時に取っておきたかった。
りら「!?・・・やっ・・!そんなのもったいないし・・・!」
秋臣「?・・・まぁ、調子が良くても出れない時に遊んで?」
りらはトイピアノが気に入ったのか、ベッド脇の小さな棚に置いた。
棚はベッドの高さとほぼ同じで・・・寝ながらも手を伸ばせば鍵盤を押せそうだ。
りら「・・・ありがと。」
トイピアノを撫でながら俺を見て笑うりら。
その姿が可愛くて・・・俺は両手を広げた。
秋臣「りら、抱きしめていい?」
手を繋ぐことはほぼ毎日ある。
キスも・・・何度かした。
その先に進みたいと思うこともあるけど、りらの身体には負担がかかる。
・・・抱きしめるだけでも・・・十分だ。
りら「・・・いいよ?」
そう言ってりらは俺の前まで歩いてきて・・・ぎゅっと抱きついてきた。
秋臣「・・・ちっさ。」
ぎゅっと抱きしめ返して・・・りらに言う。
秋臣「16歳、お疲れ。17歳の一年も楽しく・・・一緒にいような。」
りら「!!・・・・うんっ。」
いつもにこにこ笑いながら部屋で勉強したり・・・学校に来たりしてたりら。
外の暑さが少しマシになってきたころ、俺たちはまたあの海に行ったり・・外でデートをしたり・・・。
『運動』という制限を除けば、普通のカップルと同じような時間を過ごしていってた。
時々発作を起こしたり熱を出したりすることもあったけど、とても大きな病気を抱えてるようには見えなかった。
でもそれは『見えない』ってだけで・・・病魔は着実にりらの命を喰っていってた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
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ーーーーーー
秋臣「・・・また発作ですか・・。」
暑い季節は終わって、寒い季節になった。
その寒さにやられたのか、りらはよく発作を起こすようになってきた。
学校に行くために迎えにくると・・・点滴をしながらりらはベッドで横たわっていた。
葵「そんなにデカくはないんだけど・・・ちょっと続き過ぎてるな・・。」
ベッドで苦しそうに息をしてる姿が・・・見ててこっちも苦しくなる。
りら「はっ・・はっ・・・。」
葵「薬、効いてきたら楽になるからな。」
りら「だ・・いじょぶ・・・。」
胸を押さえて身体を丸くしてることから・・・きっと痛いんだと思った。
秋臣「りら?俺にできることある?」
苦しそうだから背中を擦りながら聞いた。
少しでも楽になったらいいと思って・・・。
りら「まだ・・・大丈夫だから・・・がっこ・・行って・・・。」
秋臣「ここにいたいんだけど・・・。」
りら「帰りに・・・寄ってくれたら・・・嬉しい・・・。」
秋臣「・・・・わかった。」
俺は手を伸ばしてりらのトイピアノの鍵盤に触れた。
最近りらが気に入ってる曲のワンフレーズを奏でる。
♪~・・・
りら「・・・・ふふ。」
秋臣「行ってくる。またあとで来るから。」
りら「いってら・・しゃい・・。」
俺は鞄を持ってりらの部屋を出た。
歩きながら・・・自分の胸が嫌な音を立ててる。
秋臣(このまま死ぬとか言わないよな・・・?)
りらが発作を起こすたびに襲われる恐怖。
当の本人であるりらはもっと怖いことだろう。
秋臣(今の医療じゃ治せない。・・・そうお兄さんは言ってた。)
治したくても治せない。
医者にも限界がある。
それはこの1年半、りらとお兄さんを見てきてわかってるつもりだった。
秋臣(時間が限られてるなら・・・もっと一緒に入れる方法ってないのか・・?)
そんなことを思いながら学校につき、俺は授業を受け始めた。
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