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中谷 りら。
しおりを挟む電車に揺られながら思い出すのは・・・
彼女とのこと。
あれは2年半前。
高校1年生の時だった。
暑い夏の季節。
セミがミンミンと鳴いてる外を教室の中から見ていた。
今、数学の先生が授業を進めてる。
本来ならばノートに取ったり、先生の話を聞かないといけないこの時間。
俺は斜め前に座ってる女の子を見ていた。
『中谷(なかたに) りら』。
腰まである長い髪の毛が特徴的な彼女。
真っ白い肌に、掴むと折れそうな細い腕。
『儚げ』という言葉がぴったりだと思えるような女の子だ。
・・・・見た目は。
先生「・・・じゃあ、この問題解けるやつはー?」
先生が黒板に何やら問題を書き始めた。
勉強が嫌いな俺は考える気すらない。
秋臣(今って・・・数学だったよな?)
いろんなアルファベットが並べられていく黒板。
気にもせずにただ黒板を見てる俺は、英語の授業かと錯覚してしまいそうだ。
生徒「あれ、高校のレベルじゃないって・・・。」
生徒「大学レベルじゃね?」
秋臣(・・・わかんないのは俺だけじゃないのか。)
一安心しながらぼーっと黒板を見てると、中谷が手を挙げた。
りら「はい。」
先生「前に出て解いてみろ。」
りら「わかりました。」
中谷は席から立ち上がり、黒板に向かって歩き始めた。
姿勢よく歩く姿は、どこかのモデルかと思うくらいとてもきれいた。
りら「これは、これを代入してーーーーーこの法則をあてはめてーーーーーー。」
すらすらと解いていく彼女。
チョークの音が教室を支配する。
黒板一枚を丸々使って解き進める彼女を、クラスのみんなは唖然と見ていた。
りら「できました。」
先生「・・・正解。」
生徒「すげぇ・・・。」
彼女は学年で一番の成績の持ち主だ。
国語、数学、英語・・・
ほぼすべての教科でトップに君臨してる。
先生「えー・・・今の問題は大学入試に出たことがある問題だ。当時の正解率は1%。」
生徒「・・・1%!?」
先生「中谷なら解くと思った。・・・みんなも努力するように。じゃあ次ーーーーー。」
淡々と進んでいく授業。
席に戻ってきた彼女を、俺はチラッと見た。
何事もなかったかのようにノートを取り始めてる。
秋臣(すげぇな・・・。)
大学入試レベルの・・・それも難問題を高1で解いたとなれば周りからのやっかみを受けるのが『普通』かもしれない。
でも。中谷の場合は違う。
ーーーーーーーーーー
授業が終わった後、数人の男子と女子が中谷を囲った。
生徒「なぁっ、なんであんな難しいの解けたんだ!?」
りら「あれはね、お兄ちゃんにもらった問題集にあったんだー。だから偶然(笑)。」
生徒「あー、りらちゃんのお兄さんってお医者さんだもんね、難しい参考書とかいっぱいありそう・・・。」
りら「何書いてんのか全然分かんないのばっかりだよ(笑)」
笑顔を振りまきながら喋る彼女。
人見知りをせずに誰とも話せるその姿は、みんなの憧れの的でもあった。
生徒「あ、次の授業って体育じゃんっ。早く着替えに行こ!」
生徒「ほんとだ!りらちゃん、行こっ。」
りら「うんっ。」
クラスの女子たちと更衣室に向かって行った中谷。
教室で着替えをする男たちは、中谷の話でもちきりになる。
生徒「中谷ってすげぇよな・・・。」
生徒「成績トップ、性格よし、みんなに好かれて見た目もかわいいとか・・・。」
生徒「あー、誰が中谷と付き合うんだろなー。」
雑に服を脱ぎながらの会話。
結構な人数が中谷を狙ってることは、ここにいる全員が知ってることだ。
生徒「だれか告ってこいよ。骨は拾ってやるから(笑)」
生徒「フラれるのわかってて誰が告るんだよ(笑)」
生徒「先週くらいに先輩に告られたみたいだけど・・・笑顔で振ったらしいぞ。」
生徒「まじか・・・。」
狙ってはいるけど今の関係を壊したくない。
そう考えてクラスのやつらは誰も告白できない状況だった。
・・・俺を含めて。
生徒「オミーっ、行くぞー?」
秋臣「おー。」
着替えが終わった俺たちは、教室から出た。
冷房の効いてない暑い廊下を通って体育館に向かう。
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