迷宮(ダンジョン)革命

ゼノン

文字の大きさ
上 下
36 / 41

36.転生

しおりを挟む
七年後、松戸で一人の少年が片膝を折り、合掌していた。

「目黒さん、オレがみんなを守ります。見てて下さい」
少年は、そう言って一輪の花を地面に捧げた。

「アキラ!またここに来てたの?帰るわよ」
金髪の美女が空から飛んできた。

「勝手にいなくなったらダメって、いつも言ってるでしょ」
「ゴメン、マリ。」

「帰るわよ。明日から大変なんだから」
「はい、はい、わかってるよ」

金髪の美女はマリだった。ダンジョン崩壊から七年たち二十三歳になっていた。幼かった面影は少し残ってはいるものの、成熟した大人の魅力を身にまとった美女になっていた。
少年は、アキラの生まれ変わりだった。マリは、そのことを知っていたので「アキラ」と名をつけ、溺愛した。マリによく似た顔立ちで、碧い目、黒髪の美少年だ。

二人は市ヶ谷に向けて飛んで行った。

やがて目の前に大きな街が見えてきた。市ヶ谷基地を中心に街の復興が進み、日本中から生き残った人々が集まってきて、いまや人口が五百万になろうとする大都市。周囲を巨大な壁で囲われた、その街は、

「迷宮都市 新東京」

と呼ばれていた。

二人は市ヶ谷基地に降り立った。

朝比奈が二人を出迎えた。
「お帰りなさい。みなさん、会議室でお待ちです」

「分かりました。アキラもいっしょに来てね」
マリが、笑みを浮かべてアキラを見た。

「ええ、やだよ。七歳の子供だよ。みんなと遊ぶ」
アキラが、頬を膨らませて抗議をした。

マリが、アキラを睨んで頬をつねった。
「都合が悪くなると、子供の振りして逃げるのは止めて。これはアキラが計画したことなんだから、責任をとってよね」

「ちぇっ、わかってるよ。」
マリはアキラの手を引いて会議室に向かった。


会議が終わり、田所がアキラとマリのところにやってきた。

「お疲れさま、いよいよ明日だね」
「はぁー、私やっぱり、国主なんてやりたくないです。田所さんがやってください」

マリがため息をつき、田所が困った顔をした。
「マリ君以上に人心を纏められる人はいない。雑務は私たちが引き受けるから、お願いだ」

「一度は引き受けたんだから、逃げちゃダメでしょ」
アキラがさらっと言うと、マリがキッとアキラを睨んで、アキラの両頬をつねった。

「誰のせいで、こうなったと思ってるのよ。アキラのせいでしょ!」
「い、いてて。暴力反対!」

はぁー、マリは大きなため息をついた。

「分かってます。分かりました。もう部屋に戻ります」
「うむ、ゆっくり休んでくれたまえ。では明日」

アキラとマリは最上階の部屋へ飛んでいった。

「今日は、アキラがお風呂を沸かしてくれない?」
「いいよ」

アキラは、いつものように魔法でお風呂の準備をした。生まれ変わって、魔法はマリ以上に、身体能力は以前のアキラ以上に扱えるようになっていた。さらに生まれたときから魔力量が多く、魔石なしで多くの魔法を使えたので、神童と呼ばれていた。

アキラは、さっさと湯を沸かし、先にお風呂に浸かった。
「お風呂湧いたよ」

マリが風呂場に入ってきた。それを嬉しそうにアキラは見つめていた。

「マリ、いつ見ても奇麗だな」
「な、なに言ってるの!アキラのバカ!」

マリは顔を赤らめて、急いでお風呂に浸かった。そしてアキラを抱きしめた。

「もう、離さない。離れないんだからね」
「うん、分かってる」

マリは思い出していた。七年前アキラが死んだ日のことを。悲しくて、辛くて、絶望して泣いた。そのとき魔法陣がお腹の中に現れ、アキラの声が聞こえた気がした。魔法陣はすぐ消えたが、それが魂の魔法陣だと直感した。
その後、市ヶ谷に戻ってから、妊娠三か月だと判明した。

「アキラが私の中にいる!」

マリは生まれてくる子の名前を「アキラ」と決めた。アキラの生まれ変わりだから「アキラ」なのと言って、周りから呆れられていた。しかしマリの喜んでいる姿に、誰も何も言わなかった。

「私のアキラ、私だけのも、もう離さない。絶対離れないから」

そう言って飛び回っては、周りははらはら見ていた。

その時のことを思い出して、マリは恥ずかしくなった。

「ふふ、アキラがお腹の中にいるって分かったときは、本当に嬉しかったわ」
「オレは、転生したって気づいたときは、ビックリしたよ」

アキラも思い出していた。自分が目覚めたときの事を。

夢を見ている気がした。いろんな夢が現れて消えていった。そして「アキラ」という声が聞こえハッとしたが、すぐ眠くなり、また夢に落ちていった。
生後三か月たったとき、長い夢を見た、最後に光に包まれて、マリを見ている夢だった。「アキラ、アキラ、アキラー!」と言う声が聞こえ、急に意識がはっきしりした。

「オレはアキラだ!」

生きている!大喜びした。しかし何かが変だった。

すべてがぼやけて見える。手足が、体が思うように動かせない。喋ろうと思っても泣き声しか出ない。すぐお腹がすいた。すると口に何かが吸いついて飲み物のようなものが流れ込んだ。そしたら眠くなった。
そんな事を三回繰り返したとき、自分が赤ん坊だと気がついた。生まれ変わった!転生した!と理解した。

アキラは起きている間は、魔力操作とダンジョン・コアの解析をした。


「アキラの魔力が強くなったのも、その頃からだったわね」
「あの後マリに転生したことを伝えたくて、必死にがんばってたな」

「がんばって、泣いて、お乳を吸って、うんちしてたわね」
「赤ちゃんだから、当然じゃね?」


「四か月のときだったわね。無性にダンジョン・コアに触らないといけないと思ったのは」
「あの時、マリに思いが届いて良かったよ」

アキラが生後四か月のとき、マリは、ダンジョン・コアに触らないといけないという衝動に突き動ごかされていた。アキラを抱っこしてダンジョン・コアの前に立った。触りたくなかったが、アキラも必死にダンジョン・コアに触ろうとしてるのを見て、決心して触った。

気がついたときはダンジョン・コアの中にいた。

「しまった。戻る方法を知らない。どうしらいいの?」

マリは焦った。

「マリ、聞こえるかい?」
「アキラ、アキラなの?」

突然アキラの声が聞こえてきて、驚き、心が震えてきた。

「うん、オレだよ」
「ああ、アキラと話ができるなんて、嬉しいわ」
「意識が、魂が繋がったからだよ」

「あ、そうだ。戻る方法を知らない?」
「それなら大丈夫、オレが知っているから」
「ふう、良かったあ」

「マリ今から言う事を、しっかり聞いて欲しい」
「え、ええ。わかったわ」

「非常に大切な事を、マリの魂に直接送る」
「え、ええ?」

「混乱するとは思うけど、とにかく無心で受け止めて欲しい」
「???」

「後で、ゆっくりと思い出して欲しい。じゃあ、始めるよ」
「ちょっ、ちょっと待って。意味が分からないわ」

「とにかく何も考えず、頭を空っぽにして」
「わ、わかったわ」

その瞬間、物凄い量の魔法陣が周囲に現れた。そして一気になだれ込んできた。

「え、ええ、ちょっ、ちょっと」

物凄い量の情報が津波のごとく流れ込み、マリは混乱し、そして意識が消えていった。

気がついたときは、ダンジョン・コアの前にいた。

「アキラ、ねえアキラってば!」

マリは生後四か月の赤ん坊をぶんぶん揺すった。赤ん坊は大声で泣き叫んだ。

「もう、こんな時に泣かないでよ!」

泣くしかないだろ!赤ん坊だぞ!とアキラは心の中でため息をついた。

その後マリは情報を思い出し、整理していった。1か月して、アキラの計画の全容が掴めてきた。しかし抜け落ちた情報があった。それでもう一度ダンジョン・コアに触れることした。

「アキラ、いる?」
「うん、いるよ。」

「よかった。分からないことがあるの。教えて」
「わかった。でも、これで最後にしよう。魂が深く混ざり合いすぎると、自我が保てなくなるから」

「え、そうなの?」
「うん、だから手短に、分からない内容をオレに送って。思い浮かべるだけでいいから」
「わ、分かったわ」

しばらくして、
「今から送るから。今度は漏らさないように全部受け止めてね」
「うん、分かったわ」
「いくよ」

そして大量の魔法陣が現れて、マリの中に流れ込んだ。


お風呂の中、マリはその時のことを思い返していた。

あれから自分がどれだけ苦労したか!そして赤ん坊のアキラは、泣いて、お乳を吸って、うんちしていただけだった。沸々と怒りが込み上げてきた。

マリはアキラの両頬を思いっきりつねった。

「い、いてー!急に何すんだよ!」
「ぜんぶ、アキラのせいだからね!」
「はいい?」
アキラは、どうしてこうなったか分からず、涙目になっていた。


アキラとマリはソファーに座って、夕食をとっていた。

窓の外を見た。新東京にたくさんの明かりが灯っていて、多くの人々が暮らしていることが実感された。


「長いようで、あっという間の七年だったわ」
「何とか、間に合った。ありがとう。マリ」
「いっぱい感謝してもらわないと、割に合わないわ」

「いよいよ明日だね」
「ええ、いよいよね」

明日は、二回目のダンジョン崩壊、大災害が起こる日だった。

この日のため、生き残るため、対策を考えて実行してきた。

まずは、魔法を扱える人を増やす。
次に魔法を使って、インフラ、都市の整備。
さらに魔法部隊の設立。
そして関東一円のダンジョンを消すか魔石製造機に変える。
これらと並行して城壁の建築、日本中から人を避難させる。

あとは、全力で事に当たるだけだ。
生存を賭けた戦いの前に、静かな夜が過ぎていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

つかれた

さんかく
大衆娯楽
生きることが意外と疲れるもんだと知った女子高生のお話

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

七海さん

ホットサン
ライト文芸
僕はマンションの屋上から飛び降りた。 そしたら、、        道川洋が体験した不思議な物語。

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~

日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。 女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。 婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。 あらゆる不幸が彼女を襲う。 果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか? 選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

処理中です...