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28.罠

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市ヶ谷お披露目の日の午前三時、目黒駐屯地から多くの隊員が市ヶ谷へむけて出発した。襲撃を警戒し、移動の安全を確保し、市ヶ谷を監視するためだった。そして夜明け前、田所は先行して出発した。市ヶ谷に行く前に習志野と接触し、アキラの安全をより確実にしたかったからだ。

日が昇って危険性がないことが確認されて、ようやくアキラたち一行は市ヶ谷に向けて出立した。

とくに何事もなく、市ヶ谷基地に到着した。

門に入ると、「救世主様」「救世主様」「救世主様ばんざい」と歓迎の声が巻き上がった。門から広場まで、大勢の人が集まっていたて、アキラたちを待っていたのだ。
以前にもまして、すごい熱気にアキラたちは圧倒された。

朝比奈、目黒、アキラが感想を述べた。
「歓迎ぶりが凄くなってますね」
「襲撃するような殺気はないな。というか、これじゃ分からんか」
「こんな状況で誘拐とか、無理でしょ」

田中、江田、三島がアキラたちを出迎えた。

田中が笑顔で挨拶した。
「ようこそいらして下さいました、救世主様」

三島が尋ねた。
「ところで田所さんは?」

目黒が答えた。
「田所司令は遅れてきますが、ご心配なく」

「お披露目まで、まだ時間があります。部屋でくつろいで下さいな」
江田が先に歩いていった。
「先生と三島は、もうすぐ来られる習志野の方を出向えに行ってください。俺は救世主様を部屋にご案内しますから」

田中はアキラと離されたことに不満顔になったが、「先生、はやく」と三島から手を引かれて、広場の壇上近くに連れていかれた。

江田は建物に入り、一階の部屋の前に来ると、「どうぞ」と言ってドアを開け、みんなを招き入れた。アキラたちが部屋に入ると、江田が不敵に笑った。

「ようこそ、手を挙げてもらおうか」

ドアの横に、隠れて待機していた隊員たちが、アキラたちに銃をつきつけた。
ドアの外の隊員も拳銃を構えていた。

「くそ、やられた」目黒が怒鳴る。

「先日誘拐されかけたのに、のこのこやってくるとは、ほんと甘ちゃんだぜ」

アキラ以外、手足を縛られた。

「こんな縄くらい簡単にぶち切れる。隙を見て反撃しよう」とマリは考えた。
しかし、江田がマリの腕に注射をした。マリは急に眠くなり、フラフラと倒れてしまった。

「マリに何をした!」
アキラが怒鳴る。

「ただの睡眠薬だよ。こいつは、馬鹿力なんだってな。暴れられたらこまるからさ」
江田は、笑ってアキラを見た。

「救世主様には、俺の命令に従ってもらう。もし逆らえば…」

江田がマリに銃を突きつけ、アキラを睨みつけた。
「恋人が痛い目をみるぜ」

「わ、わかった」
アキラは、苦渋に満ちた顔でうなずいた。

江田は、アキラを引っぱって部屋を出ていった。

江田がアキラを伴って、壇上に立った。

「みんな聞いてくれ!たったいま俺達は救世主様を救った!」

「救った?」「何の話だ?」会場がざわついた。

「救世主様は、目黒に脅されていていたんだ。」

「脅されてた?」「どうゆうことだ?」会場から大声がした。

「救世主様は、弱みを握られいて、毎日毎日へとへとになるまで水を出すことを強制されていたんだ。」

「弱み?」「強制?」「毎日へとへと?」会場のざわつきは大きくなった。

「毎日こき使われていたんだ。そうですよね。救世主様」

アキラは、涙をこらえて、うなずいた。

「嘘だろ?」「ひでー!」「救世主様に、なんてことしやがる」

「だから、救世主様を目黒の連中からお救いした!そうですよね?」

「マリ、みんなゴメン」心の中でつぶやきながら、アキラはうなずいた。

おおお!と大歓声と拍手が鳴った。

「目黒は必ず救世主様を取り返しにやってくる。救世主様を守るため、奴らを叩き潰せ!戦いだ!みんな武器を取って集合だ!」

広場はもはや戦いへの興奮に包みこまれたいた。

アキラが壇上から降りた時、田中がやってきてた。
「江田君、よくやった!」

そして、アキラに声をかけよう顔を近づけた時、アキラの形相に驚いた。

アキラは田中を怒りの目で睨みつけ、小さくつぶやいた。
「おまえたちを、一生ゆるさない」

田中はアキラの反応にとまどった。
「きゅ、救世主様?」

「江田君、これはいったい…」

「先生、ここはじき戦場になります。危ないですから安全なところにご案内します」
江田は田中の言葉をさえぎって、アキラを連れていった。そのうしろから江田の部下が田中を別の部屋に連れていった。

「三島、戦争の指揮はまかせたぞ」
「ああ、分かってる」

三島は準備してあった戦車に乗り込み、門を出た。その後ろに、続々と武器を携えた隊員が集まってきて、行進した。さらに後ろから戦車三台が加わった。

遠くから、双眼鏡で監視していた目黒の偵察隊は、市ヶ谷が戦闘態勢に入ったと判断し、すぐさま信号弾を打ち上げた。赤2発、最悪の緊急事態を知らせるものだった。

市ヶ谷と目黒の戦争の火ぶたが切って落とされた。

その頃、田所は習志野の部隊が来るのを、今か今かと待っていた。

「市ヶ谷から、信号弾!赤2発!」
「罠だったか!至急戻るぞ!」
田所は号令をかけて、車に乗り込んだ。

目黒駐屯地も信号弾を確認していた。
「最悪の事態か!基地を放棄、作戦に従い、散開して市ヶ谷へ」

目黒駐屯地は一気に騒がしくなった。準備が整った小隊が、次々と駐屯地を出て、目的に向かっていった。

三島は目黒に向けて進軍していた。

「田所を途中で捕まえる予定だったが、やつめ感づいて目黒に引き返したか?」
こっちに向かっているはずの田所の姿を発見できず、三島はイライラしていた。

三島の作戦はこうだ。
まずは田所を捕らえること。田所さえ捕らえてしまえば、目黒を降伏させることは容易だ。田所を捕らえられなかった場合、圧倒的数で目黒駐屯地を包囲し、降伏させるというものだった。水が絶たれた目黒は数日で降伏するはずと踏んでいた。

目黒駐屯地が射程圏内に入った。目黒の動きはなかったので、籠城を決めたのだろうと三島は判断した。

「包囲するんだ。こちらからは発砲するな。非戦闘員が出てきた場合は、身体検査をして武器を所持していない場合、そのまま通せ」

「田所のやつは、どう出る?」
包囲が完了するまで、三島は動かずに目黒を見据えていた。

そのころ田所は市ヶ谷の近くのビルの中にいた。そこは、有事のときの連絡場所のひとつだった。監視係と連絡係の隊員がすでに待機していて、状況報告をした。

「捕虜の位置は分かったか?」

監視員が、とある建物を指さした。

「市ヶ谷基地内には敵が三十名ほどが残っており、そのほとんどが、この建物に配置されていますので、この建物の中であることは確実です。ただ正確な場所までは…」

「救出部隊は、あとどれくらいで集合できそうか?」
「一時間くらいかと」
「では、その間、救出ルートを調べておいてくれ。救出部隊が到着次第突入だ」
「はっ!さっそく取り掛かります」
「市ヶ谷の部隊が戻ってくる前に、救出しなければ…」

「最悪の場合、アキラ君だけでも…」
田所は苦渋の面持ちで市ヶ谷を見据えた。
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