迷宮(ダンジョン)革命

ゼノン

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24.平和な日

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ここ数日じつに平和な日々だった。

田中も田島も反省したのか現れなかった。ちょっと拍子抜けの感じがしなくもないが、あのギラギラした目に追いかけられなくて済むと思うと、アキラは正直嬉しかった。

アキラとマリは、いつもの鬼ごっこをして遊んでいた。

マリの瞬発力には、どうやっても勝てないので、アキラが負けてばかりだった。それでも楽しかったので、いままでは文句はなかった。しかし、そろそろアキラも勝ちたいと思っていた。だから、まずは絶対負けない策を考えてきた。
マリが飛びかかるのを見計らって、五メートル急上昇し、マリを避けた。マリは蹴って飛び上がったが、届かなかった。通常の強化状態ではぎりぎり届かない距離だった。

「アキラ、狡い!反則だわ。それに浮遊魔法禁止って言ったでしょ!」
「いままでも、さんざん浮遊魔法を使っていたんだから。とっくに解禁でしょ?」

アキラはまるでスケートボートに乗ってるかのように、クルクルと空中を滑っていた。

「屁理屈を言ってないで、降りてきなさい、怒るわよ」
「やーだよ」

「もう、怒ったからね!」
マリはお腹に意識を集中し、全身に力を込めた。するとお腹の中から熱いものが込み上げてきて、力がみなぎってきた。

アキラは、マリの体が強く光りだしたのを感じた。
「嘘!自己強化してる?」

その瞬間、マリは凄い勢いでジャンプし、アキラを捕まえ、着地した。

「さあ、捕まえた!」
マリはニヤッと笑って、アキラをブンブン振りました。

「うわ、降参!目が回る」

「とびまわる青春」「目がまわる青春」「ちょっと怖い青春」
いつもながらに横浜隊の面々がつぶやいた。

そこに田所がやってきた。
「これが、彼らの青春かね」

「ええ、そうですよ。普通の青春じゃありませんけど」
「アキラ君とマリちゃんですから」
目黒と朝比奈が笑いながら答えた。

オレは普通の青春がしたいよ、とアキラは叫んでいた。

田所は、二人を呼んだ。
「アキラ君、マリ君ちょっと話があるのだが、いいかな」

「なんですか?」
マリがアキラを抱っこしたまま、ダッシュした。

「品川でダンジョンが見つかった。ダンジョンを消滅させるところを一度見てみたい。お願いしてもいいかな?」

「分かりました」

田所、アキラとマリ、目黒、朝比奈、横浜組が、そのまま品川に向かった。

ダンジョンは品川駅構内にあった。

「今日は新しい魔法を披露しますので、オレひとりで倒します」
アキラは先頭に立って、ダンジョンに入っていった。

ダンジョンに入るとヘビの魔物がいた。

「きゃー、ヘビ!」とマリが大声を上げたのと、同時にアキラが「サンダー!」と叫んだ。

雷が一斉に降り注ぎ、ヘビは瞬時に丸焦げになり、光となって消えた。ヘビの魔石は十個だった。

目黒が感心していた。
「雷魔法も使えるようになっていたのか」

そして、いつものようにダンジョン・コアを破壊した。

田所は残念そうにつぶやいた。
「ふむ、光に包まれただけで、何もおきなったな」

今回も魂の魔法陣は見つからず、アキラはしょんぼりした。

「一万人当たり一個のダンジョンが生まれる。本当なのかね、アキラ君」
田所がアキラを見て、尋ねる。

「はい」
アキラははっきりと頷く。

「東京に千個のダンジョンが、出現しているのか」
「はい」

「七年後には、それが全て崩壊し、また大災害が起こる」
「はい」
田所は苦渋の顔色をしていた。

「あの惨劇が起これば、いまの我々に対抗する術はない。滅ぶしかない…」

田所は大きくため息をついた。
「君にばかり苦労をかけて申し訳ないが、よろしく頼む」
「もちろんです。オレがやりたいんです」

田所はやるせない気持ちでアキラを見つめ、アキラは固い決意で返事をした。


その頃、江田と三島が習志野駐屯地から出てきたところだった。

「江田、習志野といざこざを起こすなと、あれほど言っておいたのに」
「三島、すまねな。だから、お詫びに水を届けたんだろ?」

三島は、江田と習志野が衝突するたびに謝りにいく羽目になり、うんざりしていた。

江田はたからかに笑った。
「これからは習志野と水と物資の交換をするから、争いは起きねえよ」

三島は訝しんだ。
「その水は目黒と交換したものだろう?我々の分の水は大丈夫なのか?」

江田は楽しそうに大笑いした。
「そこは田中先生にお願いするさ。まずは習志野の連中に魔法の水をお披露目して、嘘でないことを見せつけるんだ」


それから数日がたち、市ヶ谷との水と物資の交換の日がきた。

アキラはため息交じりにつぶやいた。
「はぁー、気が重い」

田所は苦笑いをしてアキラを慰めた。
「彼らも自重してくれたんだ。握手をしたら喜んで帰ってくれるだろう」

田中と田島が物資を運んでやってきた。
二人は田所を睨みつけたが、アキラを見ると笑顔になって手を差し出した。

アキラは、その圧に一瞬後ずさりしたが、ゆっくり手を差し出した。
二人は大喜びして、交互にアキラと握手をした。

「田所さん、ちょっとお話があるのですが、よろしいですか?」
「どのような用件でしょうか?」
田中は田所を連れて歩き出した。

それを見た田島がアキラに顔を近づけて、小さな声でささやいた。
「救世主様、お困りのことがあれば、ご相談ください。我々はあなたの味方です」

あんたたちが来るのが迷惑なんだけど、とアキラは思わず口にしそうになったが、心の中に留めた。

水と物資の交換作業が行われていたとき、市ヶ谷の隊員の一人が、こっそりと目黒駐屯地の奥に入っていった。

交換が無事終わると、田中と田島は満足そうに帰っていった。

マリがつぶやいた。
「やっぱり田島って人は要注意ね。変態の気配がする」

えっ?そうなの?変態なの?アキラは不安になった。

その夜、司令官室に、田所といつものメンバーが集まっていた。

田所が苦渋の面持ちでアキラを見た。
「習志野から正式に、水魔法のお披露目の要請がきた」

みんなが驚いた。
「今度は、習志野ですか?」
「習志野も水に困っている。市ヶ谷から水魔法のことを聞いたらしく、本当かどうか確かめたいそうだ」

目黒が不審そうに抗議した。
「水が欲しいなら、物資と交換するだけ良いでしょ。わざわざ習志野まで行かなくても」

マリが不満をぶつけた。
「その水を出すのはアキラなんですけど?」


「習志野の司令官は私の上司で、とても懇意にしていた人でね。正式に要請されると、断りづらい。」
「それなら習志野が目黒に来れば、お披露目します、水も差し上げますよ」
アキラは田所を見た。

田所は頭をかかえた。
「それが市ヶ谷でお披露目をしたいそうだ」

「えっ?なんで市ヶ谷?」
みんな素っ頓狂な声を出して固まってしまった。

田所がため息をついた。
「たぶん田中先生が強引に話をもっていったんだろう」

「田中先生、また暴走ですか」「あの人、きらい!」
朝比奈もマリも、あきれ顔になっていた。

アキラは疲れた顔で了承した。
「もう、これを最後のお披露目にして下さい」

田所は深々と頭を下げた。
「本当に申し訳ない。ありがとう、アキラ君」


同時刻、市ヶ谷の一室。

目黒に潜入していた田島の部下が帰ってきて、田島に報告していた。

「目黒の武器保管庫で例の銃を見つけました」
「江田の言っていたことは、本当だったのか」

田島は江田の作戦に乗ることを決意した。救世主様を救うために。

平和な一日が終わろうとしていた。

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