迷宮(ダンジョン)革命

ゼノン

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21.救世主降臨

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二日後、アキラたちは市ヶ谷基地に招かれた。

広場には、大勢の人々が集まっていた。

田中が朝礼台の上から、挨拶をはじめた。

「世界は滅びかけました。傲慢な人間に神が罰を与えたのです。しかし神は人間を見捨てたわけではありません。生き残った人間が悔い改め、生きていけるように「救世主様」をお遣わしになったのです。」

田中はアキラに手を向けた。
「救世主様、ではお願いします」

アキラは朝礼台に上がった。

金髪美少女が優雅に一礼した。

「ほおお」
どこからともなく感嘆の声が聞こえた。

アキラが、ゆっくりと一回転して大きく叫んだ。

「雨よ!」

そして杖を優雅に大きく振った。すると、広場に雨が降り始めた。

「雨だ!」
誰かが叫ぶと、それをきっかけに

「ほんとうに雨が降ってきた!」「水だ!」「奇跡だ!」「救われた!」
などと大合唱が起こり、広場が興奮に飲み込まれていった。

どこからか「金髪美少女」という声が聞こえると、一瞬場が静かになったが、

すぐに「女神だ!」「天使だ!」という別の興奮が巻き起き、やがて

「救世主様」「救世主様」「救世主様」
の大合唱に変わっていった。

田中が大きく両手をあげると、場はシーンと静まり返った。

「これから、救世主様自ら水をお与えくださいます。みなさん、感謝して受け取ってください」

アキラの前にポリタンクやバケツを持った人々が列を作った。アキラはひとつひとつ丁寧に、笑顔で水を注いでいった。その姿に、誰もが見惚れ、感激し、礼を言いながら水を持って行った。

最後に田中がアキラに手を差し向けた。

「これが神の御業です。救世主様に感謝を!」

広場には割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響いた。

セレモニーが終わったあと、一行は会議室に通された。
そこには江田、田島、三島が待っていた。

「江田君、田島君、三島君、ご苦労さま。おかげで無事終わることができ、感謝します。どうです。救世主様は素晴らしい方だったでしょう。これから目黒と市ヶ谷が一体となって頑張っていこうでありませんか」
田中が誇らしげに言った。

「先生の役に立って嬉しいですよ」
江田はアキラを見ながら、田中と握手をした。

田島が興奮冷めやらぬ様子で、田中と握手をしながらアキラを見つめていた。
「救世主様にお会いできて感激しております。生きていて本当に良かったです。私も田中先生とともに救世主様のお役に立ちたいと思います」

「おお、田島君!私たちは、もう同志です。これから一緒に救世主様を支えていきましょう」
田中もその言葉に感激し、田島と強い抱擁をした。

三島は、アキラをちらっと見た。
「田所、相変わらず、おまえは悪運が強いな。とりあえず水の件は感謝する」

「三島、お互い生き残ったんだ。手を取り合おう。今後は水と物資の物々交換といこうじゃないか」
田所は三島に握手の手を差し出したが、三島はその手を取らなかった。

三島は田所の同期だった。だが、先に出世した田所が嫌いだった。互いに生き残り、今度は自分が市ヶ谷のトップになり、田所を見返してやったと内心喜んでいた。それが水を出せる魔法少女の登場で、また逆転された。その運の良さが妬ましかった。しかし水不足には困っていたので、今回の取引は渡りに船だった。

田島はアキラを熱い目でじっと見ていた。実はアイドル好きで、いまだ独身だった。ダンジョン崩壊の前日、ここ市ヶ谷でマリを見かけていたのだ。そして金髪美少女に一目ぼれして、テレビ局から写真をもらっていた。その美少女と再会できて感激していたのだった。

江田は、アキラを見ながら、良からぬ事を考えていた。
「目黒が水をいっぱい持っていたのは、こういうカラクリだったのか。しかし魔法とは、恐れ入った。あの女がいれば水には一生困らずに済むのか。いや、この関東を支配できるな」

アキラは、江田、田島、三島の視線が気になって、落ち着かい気分になっていた。
「早く帰りたい」

マリが優しくアキラの頭を撫でた。
「もう少しの辛抱よ」

「おお、なんと羨ましい青春」
田島がアキラたちを見つめていた。

やだ、このオッサンと、アキラとマリは田島を睨んだ。


会談が終わり、アキラたちは、貯水槽のところに向かっていた。
今回貯水槽を満タンにするかわり、食料、燃料、魔石を譲ってもらうことになったのだ。田島が案内係を買って出て、アキラの横にならんで、嬉しそうにしていた。

アキラは、田中と田島に両脇を固められた形になっていて、非常に気持ち悪かった。
オッサン二人に囲まれるとか、どんな罰ゲームだよ、アキラは心の中でつぶやいた。

「魔石があったら、水を出すために、ひとつ貰いたいのですが」
「なら、先に魔石の方に案内しますね」

田島が嬉しそうに先導した。

「ここです」
ほとんど壁だけしか残ってないような建物にやってきて、中に入って驚いた。

魔石が入っている箱とともに、ダンジョンがあったのだ

アキラは田島を見ずに尋ねた。
「ダンジョンがありますね。怖くないんですか?」

「ええ、怖いですよ。でも他に行く当てもありませんし、すぐ崩壊するわけではないでしょう。ここは十分な物資があって生きていけます。それに救世主様が現れたのです、私は、ここに残るつもりです」
田島はそう言って、アキラを見つめた。

アキラは、背筋がゾワゾワした。急いで箱から、魔石をいくつか取って出て行った。
「では、貯水槽に案内してください。水を補給します」

帰り際、「救世主様」「救世主様、ありがとうございました」「救世主様、ばんざい」と大きな歓声が起こった。「魔法少女、ばんざい」「金髪美少女さま」という声も聞こえた。

最後の方は、何か腑に落ちなかったが、悪い気はしなかったので、気にしないことにしたアキラだった。

目黒が驚いていた。
「それにしても、凄い歓迎ぶりだったな」

朝比奈が唸っていた。
「まるで新興宗教みたいになってましたね」

田所が難しい顔をして考え込んだ。
「田中先生が、ちょっと危ない方向に向かっている気がしないでもないな」

マリがアキラを見た。
「田島って人も、なんか怖いわ」

「もう市ヶ谷には行きたくないな。視線が気持ち悪かったよ」
アキラは、江田、田島、三島の視線を思い出し身震いした。


その夜、市ヶ谷の会議室には江田、田島、三島の三人が集まっていた。

田島が、先に発言した。
「水と物資の交換は、私が担当しよう」

「やけに積極的だな」
三島が訝しむような目で田島を見た。まさか目黒に乗り換えるつもりなのかと怪しんだのだ。

江田は、「田島もアキラを狙ってやがる。こいつもアキラの価値に気が付いたか、さてどうしたものか」と思案していた。

江田は田島に提案した。
「それなら田島の部隊を俺に貸せ。江戸川区の物資を、急いで残らず集めたいんだ」

「いいだろう。輸送用の車と護衛用部隊を残して、あとは好きにしてくれ」
田島はアキラに会える口実ができて喜んだ。

「江田、習志野を刺激するなよ」
三島は釘をさした。

「ああ、わかってるよ」
江田は、ニヤッと笑った。

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