上 下
5 / 41

5.ダンジョン崩壊

しおりを挟む
ついに第二層に入る時が来た。  

「アキラはその盾で彼女をしっかり守れよ」  

隊長が冷やかすような表情で、アキラを鼓舞した。ここからは魔物との戦闘が始まるのだ。アキラもマリも緊張してきた。  

第二層の魔物もネズミだが、第一層の倍くらいの大きさがあり、さらに素早く厄介になり、数も増えるらしい。しかし、ポリカーボネートの盾でまわりを囲えば、安全に倒すことができるそうだ。十二名の隊員全員で円陣を組み、撮影隊と高校生を中に囲んで門をくぐっていった。

マリは震えていた。急に怖くなってきたのでアキラに掴まろうとした。しかし、それより早くアキラがマリの手を握り、彼女を自分の方に引き寄せてつぶやいた。
  
「マリはオレが守る」  

マリはドキッとした。そして思い出した。幼稚園の時に同じようなことがあったのだ。幼稚園の悪ガキから髪を引っ張られるという、いじめを受けた。そしたらアキラが割って入り、両手を大きく広げて叫んだ。
  
「マリはオレが守る」  

アキラは弱虫で、泣き虫で、いつもはマリがお姉さんのように守ってる感じだった。それがあの時は違った。カッコいいと思ってしまった。そう、あの時からアキラを好きになってしまったんだ。

それを思い出したら、急に顔が火照ってしまっていた。  

「ちゃんと守ってよね」  
マリは小さくつぶやいた。

第二層に入った。しかし、何も起こらず、辺りは静寂に包まれていた。  

隊長がいぶかしんだ。
「おかしいな。魔物がいない」  
 
副隊長も腑に落ちない顔をした。
「確かに変ですね。もうリポップしてるはずですが」  

「俺たちの他に別のグループが入ったということはないよな」  
「私が第一層で番をしていましたから、絶対に有り得ないです」  
副隊長がきっぱりと答えた。  

隊長は腕を組んで思案した。
「休憩にする。副隊長とチーフは残ってくれ。あとは自由にしてくれ」  

「緊張して損しちゃった」  
マリがアキラの腕に抱きついてきて、胸を強く押し当ててきた。
  
「う、うん。そうだね。」  

柔らかい感触に思わずドキッとして顔を赤らめた。
マリは門をくぐるとき赤面したので、お返しのつもりだった。  

マリが冷やかし気味に言った。
「あれ?顔が赤いわよ?」  
  
「えっ、そ、そんなことないけど」  
マリは、してやったりとほくそ笑んだ。 

「青春だねえ」  
例の女性隊員がさらに冷やかす。  
もうどうでもいいや。アキラはさらに赤面し、マリは満足していた。

隊長たちは今後のことを話し合っていた。

隊長は今日の撮影を中止することを提案した。こんな事態は初めてだった。予想外のことが起こると対応が後手に回る。だから中止して戻るのが一番良いと考えた。

撮影のチーフプロデューサーはどうしても撮影を完了させたいから、第三層に向かうことを主張した。

本来なら隊長の意見が通るのだが、今回はチーフプロデューサーが参加していた。この企画のトップなので、戦闘以外だと強い権限がある。そのため話し合いは平行線をたどった。

痺れを切らした副隊長が発言した。  
「討伐隊だけで第三層に入り様子を確認。通常通りなら第二層に戻って、撮影隊を伴って第三層に入る。様子が変なら撤退し地上に戻る。というのはどうでしょうか?」  
隊長もチーフプロデューサーもその案で妥協することにした。


「円陣隊形!…他の者はできるだけ出口の近くにいてくれ。」  
隊長がそう叫ぶと、素早く円陣隊形ができた。 
 
「突入!」  
隊長の号令で第三層に入っていった。アキラたちは出口に向かって歩き始めた。

アキラたちが出口近くに着いたとき、討伐隊が戻ってきた。  

「魔物がいない。明らかに異常だ。撤収する!」  

隊長がそう宣言した時、ダンジョンが揺れた!そして辺りが強く光りだした。アキラはマリの手を引っ張って出口に走り出した。大変なことが起ころうとしている、それだけは分かった。
出口に入った瞬間、底が抜けたような感覚に襲われた。このまま死んでしまうのか?そんな考えがよぎった。  

アキラは思わず叫んでいた。
 
「マリ、大好きだ!」  
「私も好き!」  

マリも叫んだ。

二人はしっかりと抱き合った。
「マリはオレが守る」
「アキラ、守って!」

死にたくない。絶対生きて帰るんだ。二人ともそう強く強く念じた。

何かに触れたような気がした。

次の瞬間、虹色に光る円環が現れた。

まるでアニメの魔術の術式、魔法陣みたいだった。
すると、魔法陣からネズミの魔物が出現し、魔法陣は消えた。人間の倍くらい大きい魔物はアキラたちをすり抜けて飛んでいってしまった。まるで3D映像、ホログラムのようだった。

それを皮切りに無数の魔法陣が出現し、大小様々なネズミ、猫、犬、ハト、カラスのような魔物が無数に現れては消えていった。ネズミや猫が合体したもの、犬やカラスが合体したもの、そして三つ首の大犬が現れた。まるでケルベロスだなとアキラは思った。

最後に自分の周りに魔法陣があらわれ、やがて意識が消えていった。

この日、世界は大災害に見舞われた。すべてのダンジョンが光りだし、その中から魔物が次々に現れ、津波のごとく人々を襲っていった。その日のうちに全人類の半数が亡くなった。そして二週間がたったとき魔物はすべて自然消滅し、人類は一割にまで減少していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...