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ミイラ取り
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私が務めている会社「レプリカント」はデザインの会社だ。
個人から企業までの依頼を受けて主に本や、ホームページ、広告のデザインをやっている。
最近、社員の所持品などがなくなる事件があった。
先日は女性社員で営業の田村の大切にしていた腕時計がなくなったり、冷蔵庫の昼食がなくなった。
金額が大きくないことで会社は警察に相談しなかった。
田村は納得いかなかった。
なので富田光が社長の安田希市に掛けより、「会社側」で田村の腕時計を保障するのとになった。
会社内の朝礼でこの話題について社長の安田が言及した。
「今回の件は全く、犯人が解らないこと。被害金額が大きくないことから、社内調査はなしになりました。被害の補償は会社側で負担することになりました」
安田はいつになく真剣な表情だった。社員たちは静かに安田の話を聞く。
「仕事は信頼があって成立するものです。窃盗は犯罪です。どうか、もう次からはやらないでください」
安田の力強い言い方に、社員たちは息を飲む。最近、誰が犯人かみたいな空気があった。
私はその空気が少しでも変わればいいなと思った。
けれど、私自身も誰かを疑っているのは事実だ。同僚の清水麗子を疑っている。理由は彼女が普段、話している内容が”反社会的勢力”っぽいからだ。
どこかのテーマパークで入場料金を払わずに入ったとか、電車をキセルしたとかだ。
更には学生時代に万引きをしたり、自転車泥棒をしたなど。
清水は会社内での仕事の評価が高い。だから、清水を疑うなんていうのはないだろう。私は確信している。彼女が犯人というふうに決めて掛かるわけじゃないが。そういう感覚の人はやりそうに思ってしまう。
そんな中、経理の富田が私に面談を要求してきた。
「少し。お昼前に面談をいいかい」
「あ。はい」
私は一瞬、自分自身が疑われたのかと思った。少しだけ焦る。けれど、富田の様子から違う理由での面談と解った。昼食前の時間になり、富田と私は空いている会議室に向かう。会議室の椅子に座ると、富田が話し始める。
「突然だけど。窃盗のことどう思う?」
「え?」
「だから。犯人は誰だと思う?」
富田がいきなり気になっている本題に入ろうとするので、私は驚く。自分が思い浮かんだ名前を言っていいもの迷う。そんな中、富田が先に言う。
「俺は。清水を疑っている」
「え?」
「アイツの話している内容をちらっと聞いたことがある。素行が悪い」
「富田さんもそう思っていたんですね」
「ああ。だよな。これから、その証拠を集めようと思う」
私は富田が同じ考えで少し安心する。経理の富田なら、清水を問いただすことが出来る。社内での評価が高くても、窃盗は犯罪だ。
それから富田と私で協力して、「清水が犯人である証拠」集めをすることになった。
後日。富田は最近、清水が中高売買している骨董品店で時計を売った証拠を突き止めた。富田は骨董品店の店主に事情を話してそれを聞いたらしい。
「どんな時計かわからん。けれど、もしかしたら田村のかもしれないな」
「そうなんですね。私のほうでも清水さんにそれとなく聞いてみます。あ。富田さん、なんか今日、ネクタイがお洒落ですね」
「そうか。ありがとう」
富田のつけているネクタイは恐らくどこかのハイブランドのものだろう。何かの臨時収入でもあったのだろうか。
富田は身につけているものが新しくなっている気がした。
後日、私は清水に骨董品店でのことを聞く。
「ね。清水さん、骨董品店行ったことある?」
「行ったことあるよ。あ、何か学生時代に使っていた時計を売ったよ」
「へぇ」
私は清水が嘘をついていると思えなかった。本当に学生時代に使っていた時計を売ったのだろう。
これについての嘘はないと思う。清水と話していると社長の安田が「社長室に来るように」と言ってきた。
「最近。富田と話しているらしいな。窃盗の件で」
「はい」
「聞きたいことがある。富田は最近、どうだ?」
「最近、どう?とは」
「何か服装が変わったとかそういう」
「あ。そう言えば。スーツが新しくなったり、ネクタイがハイブランドのものだったり。鞄が」
「そうか」
安田の顔が渋くなっていた。何かあったのだろうか。私はふいに富田が横領しているのではないかと思った。次々に新しいものを買ったり、ハイブランドの商品を買う。それは会社のお金を横領しているのではないだろうか。
まさか。富田がそんなことをすると思えない。
その一週間後。富田光は「レプリカント」の金を三ヶ月にわたり横領していたとして、逮捕された。
更には田村の時計や、会社員の昼食を窃盗したのも富田だった。
「ミイラがミイラ取りになる」とはこのことだろうと思った。
了 題材「ミイラ」 49:05
個人から企業までの依頼を受けて主に本や、ホームページ、広告のデザインをやっている。
最近、社員の所持品などがなくなる事件があった。
先日は女性社員で営業の田村の大切にしていた腕時計がなくなったり、冷蔵庫の昼食がなくなった。
金額が大きくないことで会社は警察に相談しなかった。
田村は納得いかなかった。
なので富田光が社長の安田希市に掛けより、「会社側」で田村の腕時計を保障するのとになった。
会社内の朝礼でこの話題について社長の安田が言及した。
「今回の件は全く、犯人が解らないこと。被害金額が大きくないことから、社内調査はなしになりました。被害の補償は会社側で負担することになりました」
安田はいつになく真剣な表情だった。社員たちは静かに安田の話を聞く。
「仕事は信頼があって成立するものです。窃盗は犯罪です。どうか、もう次からはやらないでください」
安田の力強い言い方に、社員たちは息を飲む。最近、誰が犯人かみたいな空気があった。
私はその空気が少しでも変わればいいなと思った。
けれど、私自身も誰かを疑っているのは事実だ。同僚の清水麗子を疑っている。理由は彼女が普段、話している内容が”反社会的勢力”っぽいからだ。
どこかのテーマパークで入場料金を払わずに入ったとか、電車をキセルしたとかだ。
更には学生時代に万引きをしたり、自転車泥棒をしたなど。
清水は会社内での仕事の評価が高い。だから、清水を疑うなんていうのはないだろう。私は確信している。彼女が犯人というふうに決めて掛かるわけじゃないが。そういう感覚の人はやりそうに思ってしまう。
そんな中、経理の富田が私に面談を要求してきた。
「少し。お昼前に面談をいいかい」
「あ。はい」
私は一瞬、自分自身が疑われたのかと思った。少しだけ焦る。けれど、富田の様子から違う理由での面談と解った。昼食前の時間になり、富田と私は空いている会議室に向かう。会議室の椅子に座ると、富田が話し始める。
「突然だけど。窃盗のことどう思う?」
「え?」
「だから。犯人は誰だと思う?」
富田がいきなり気になっている本題に入ろうとするので、私は驚く。自分が思い浮かんだ名前を言っていいもの迷う。そんな中、富田が先に言う。
「俺は。清水を疑っている」
「え?」
「アイツの話している内容をちらっと聞いたことがある。素行が悪い」
「富田さんもそう思っていたんですね」
「ああ。だよな。これから、その証拠を集めようと思う」
私は富田が同じ考えで少し安心する。経理の富田なら、清水を問いただすことが出来る。社内での評価が高くても、窃盗は犯罪だ。
それから富田と私で協力して、「清水が犯人である証拠」集めをすることになった。
後日。富田は最近、清水が中高売買している骨董品店で時計を売った証拠を突き止めた。富田は骨董品店の店主に事情を話してそれを聞いたらしい。
「どんな時計かわからん。けれど、もしかしたら田村のかもしれないな」
「そうなんですね。私のほうでも清水さんにそれとなく聞いてみます。あ。富田さん、なんか今日、ネクタイがお洒落ですね」
「そうか。ありがとう」
富田のつけているネクタイは恐らくどこかのハイブランドのものだろう。何かの臨時収入でもあったのだろうか。
富田は身につけているものが新しくなっている気がした。
後日、私は清水に骨董品店でのことを聞く。
「ね。清水さん、骨董品店行ったことある?」
「行ったことあるよ。あ、何か学生時代に使っていた時計を売ったよ」
「へぇ」
私は清水が嘘をついていると思えなかった。本当に学生時代に使っていた時計を売ったのだろう。
これについての嘘はないと思う。清水と話していると社長の安田が「社長室に来るように」と言ってきた。
「最近。富田と話しているらしいな。窃盗の件で」
「はい」
「聞きたいことがある。富田は最近、どうだ?」
「最近、どう?とは」
「何か服装が変わったとかそういう」
「あ。そう言えば。スーツが新しくなったり、ネクタイがハイブランドのものだったり。鞄が」
「そうか」
安田の顔が渋くなっていた。何かあったのだろうか。私はふいに富田が横領しているのではないかと思った。次々に新しいものを買ったり、ハイブランドの商品を買う。それは会社のお金を横領しているのではないだろうか。
まさか。富田がそんなことをすると思えない。
その一週間後。富田光は「レプリカント」の金を三ヶ月にわたり横領していたとして、逮捕された。
更には田村の時計や、会社員の昼食を窃盗したのも富田だった。
「ミイラがミイラ取りになる」とはこのことだろうと思った。
了 題材「ミイラ」 49:05
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