one hour writing short story

深月珂冶

文字の大きさ
上 下
25 / 35

新薬

しおりを挟む
 私は違和感を感じたら、病院に行くようにしている。早期発見がまんびょうを予防できると思っているからだ。
 私の母は乳がんで55歳の若さでこの世を去った。
早期そうき発見はっけん。早期治療していたら違っていた。だから。梨子なしこ。病院へは定期的に行きなさい」
 母は最後に言っていた。私は母の教えの通り、定期検診を受けている。
 私には片頭へんずつうをもう長いこと患っている。
「片頭痛が完全に治る薬」が最近、できたらしい。
 それは「へディックブロ」という薬らしい。日本で早々と承認された新薬だった。
 私は今度、この新薬を処方してもらう予定だ。友達の涼子りょうこにその話をする。
 彼女ならその話を歓迎してくれると思っていた。けれど、反応は全く違うものだった。
「それって本当に大丈夫なの?」
「え?」
「だって、新薬だよ?治験をしてるだろうけど。長期的な予防効果、解っていないじゃん」
「それはそうだけど。そんな神経質になる必要ある?」
 涼子はいつになく医療を疑っていた。そういえば、彼女は以前から医療不審を持っていた。それだからだろう。
「神経質になる必要があるよ。その薬を使って副作用を受け取るのは、梨子。あんただよ」
 私は涼子の指摘つばを飲み込む。「薬に万が一のこと」があっても、それを薬害とされるのは難しい。
 ましてや「この薬でこんな症状が出た」と言ったところで認めてもらえないだろう。
 でも、そんな悪いものを医療が勧めることなんてあるだろうか。
「そ。そうだけど。そんな悪いの勧めてくる?」
「いいか。悪いかじゃなくて。薬は全て良い限らないってことね。決め手があってその薬を選んでるならいいんだよ。情報集めずにそれってのが危険なの」
 涼子は私が一つの情報だけで判断していると思ったらしい。私のために言ってるのだろうが、少し不快になった。
「そこまで言わなくても」
「じゃあさ。そのなんだっけ?片頭痛の薬。ネットで検索した?ネットは嘘ばっかだけど。SNSの忖度そんたくない一般の書き込みも見たほうがいいよ。それから処方するか否か決めたほうがいい」
 私はネットをよく疑うが、SNSの書き込み自体どうなのかと思う。私はスマホを取り出し、渋々「へディックブロ副作用」「へディックブロ効かない」などを検索した。
 様々な書き込みを見て、どうするか考える。良い書き込み、悪い書き込み、色々見ていく。
 私は最終的な判断を心の中で決めた。
「大分、真剣に見てたね」 
 涼子は私の顔を覗き込む。
「うん。結構、参考になったよ」
「で、処方するの?」
「うーん。わからないな」
「そっか。まだ色々あるし、考えるのが大事だから」
 涼子は微笑んだ。涼子にとって私を思ってのことだろう。
 新しい発見や見解を知れたのは本当に良かった。
 薬が一概に全部悪いわけではない。ただ。自分の身体、自分の健康を守れるのは自分自身だけだ。
 医療を否定するのは違う。ただ急がずに情報を集めるのは大事だと思った。
「ありがとう。涼子」
「いえいえ」
 涼子の考えも一理あるなと実感した。
了 48:48  題材 違和感 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...