one hour writing short story

深月珂冶

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エンターティナー

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 私のクラスには天才作曲家がいる。
 名前はじゅん。あだ名はクボジュン。
 彼の両親は作曲家で、その影響で音楽を始めたらしい。
 ギターを演奏出来、弾き語りはかなりのもの。
 久保田は趣味で曲を作ってはクラスメイトの前で演奏している。
 今日は今から放課後の演奏会だ。
「クボジュンは今日、「俺の尻たたけ」って曲、歌うらしいよ」
 クラスメイトのわい理子りこが言った。 時々、久保田はユーモアを交えた曲を披露してくれる。
 いつものなものと違い、ギャグ満載の曲だ。それもしっかりしたやつだ。
 私は少し楽しみになってきた。恐らくあれはモーツァルトの「俺の尻なめろ」のオマージュかもしれない。
「「俺の尻たたけ」ってどんな曲?」
「あれじゃない?たたけって言ってるだけだったりして?」
 特に久保田と仲の良いクラスメイトは楽しそうだった。以前、久保田に「何でギャグソングとか作るのか」と聞いたことがある。

 その時、久保田が照れくさそうにモーツァルトへの尊敬を話してきた。
「実は俺、モーツァルトを尊敬していて」
「あ。レクイエムとか、魔笛まてきの?」
「おう」
 久保田は相当、尊敬しているらしかった。その様子はすごく、かなり詳しいのが解った。
「昔。知ったんだけど。宮廷きゅうていで曲を披露する際、エンタメ的な要素も必要だったんだ。そこでモーツァルトが作った曲に「おれの尻なめろ」ってのがあって」
「えー。本当に?」
 私はそれだけでも衝撃的で面白かった。
 思わず、大爆笑してしまう。その様子を久保田は満足気にしているように見えた。
「俺はそういうユーモアセンスもいいなって思っていて」
「そうなんだ」
「ああ。だから、みんなの前で披露する曲はギャクセンスのあるものもって決めているんだ」
 モーツァルトの話をする久保田は尊敬の気持ちと、将来を夢想むそうする表情だった。
 本当に心から好きで尊敬している。その気持ちが彼の音楽を豊かなものにしている。そんな気がした。
 モーツァルトを尊敬している久保田の「俺の尻たたけ」を私は楽しみだと思った。

「でも。いつも真面目な曲なのに。ギャグとかどうかなと俺は思う。ちょっと止めてほしい」

 クラスメイトの白川しらかわが言った。白川は久保田の思いを知らずに言っているように見えた。私は少しだけもやもやとする。私が何かを言おうと思ったら、久保田がさえぎる。

「悪いけど。俺。モーツァルトを尊敬していて、その真似まねしている。だから、「俺の尻たたけ」なの。あ。詳しくはモーツァルトの「俺の尻なめろ」で検索けんさくして調べてみて。それ。昔さ、テレビでも取り上げられたことあっから。それでは聞いてください。「俺の尻たたけ」
 
 久保田はアコースティックギターを持ち出し、歌い始めた。
 その歌は想像以上に面白い歌だった。しばらくの間、久保田の「俺の尻たたけ」はクラスじゅうのブームになった。

了 題材「エンターティナー」 29:54


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