one hour writing short story

深月珂冶

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うつくしい人

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 私の学校は校則こうそくが厳しい。
 髪色は一般的な日本人の基準の黒髪じゃないといけない。生まれつきの案件「両親が外国人」や「診断書」以外は茶色や他の色は許されていない。
 私は学校で風紀委員をやっている。
 勿論のこと、担任の河合かわい先生の意向いこうに従ってクラスメイト全員の風紀の一環で、髪色もチェックする。
 今日は三ヶ月に一度の風紀検査だ。
 私は河井先生から任された表を持ち出す。先生が来てホームルームをする前にチェックをする。

「皆さん。いいですか。三ヶ月に一度の風紀チェックです。一列に並んで私の前に来てください」
「はーい」
 私が教壇の前に立つと他のクラスメイトが一列に並び出す。私はまず先に自分の項目欄にチェックを入れる。
 クラスメイトが並んでいる様子を見ていると、一月前に引っ越してきたばかりの転校生、黒沢くろさわ英子えいこが目に入った。
 私は正直に言うと、このコが苦手だ。寧ろ嫌いだ。
 正確には嫉妬していると言うべきか。外見にかなり恵まれていて、スタイルが良く、顔も小さい。目がはっきりしており、それでいて顔の造形も悪くなく美しいといえる。
 だから、あっとういう間にクラスの人気者になった。
 外見も良く、性格も悪くなさそうだし所謂、品行方正。
 どこの漫画のキャラクター臭さがある気がしている。私はそれがなんとなくしゃくさわった。本当に一方的な嫉妬だ。
 それを否定する気もないし、かといって強く当たる気もない。
 でも、もしかしたら態度に表しているかもしれない。それを日々抑えていた。
 そういえば、英子の髪は茶色だ。違反いはん確定かくていだと私は思い、少しほくそ笑む。
「英子ちゃん。今度。駅前に出来たアイスクリーム屋さんに行こうよ」
「いいね。皆で行こう!」
 英子とその友達の森田りんが話している。
 森田りんは少し前まで、私とかなり仲が良かった。けれど、今じゃ、りんは英子と仲が良い。
 私は英子と仲良くしている人たちは、彼女の外見の良さから利用しているのだとゆがんだ解釈を持ってやり過ごす。
 クラスメイトの一人ひとりのチェックを行い、次で英子だった。私は英子を見る。
「黒沢さん。髪が」
「ごめんなさい。これには事情があって先生にも話していて」
「地毛なの?」
 私は英子に責め立てるように質問した。英子は小さく頷く。私は少し納得がいかなかった。
 英子を援護えんご射撃しゃげきするかのようにりんが口を開く。
「そ、そうだよ。江田えだちゃん」
「そう。わかった」
 私はその場で納得したフリをする。けれど、これを担任に報告しようと思った。
 クラスメイト全員のチェックが終わると、丁度ちょうど良く、担任の河井がやってくる気配がした。
「おーい。ホームルーム始めるぞ」
 担任の河井が戸を開けながら言った。生徒たちは席に座っていく。私はチェックの終えた用紙を先生に渡す。
「ご苦労さん」
「いえ。あの先生。あとでお話が」
「ん?わかった」
 こうして、ホームルームが始まった。
 いつも通りホームルームが終わり、一限目の授業は河井先生じゃないため、先生が出て行く。
午前の授業も何も問題なく終わっていく。
 私はその間も英子への不満を募らせていった。私の勝手なら嫉妬心は一方的感情に過ぎない。
 私は職員室に向かう。職員室で担任の河井の姿を見つけ、そこに向かった。
「先生」
「おう。さっきのか」
「今朝のことですけど」
「もしかして。黒沢英子のことか?」
「はい」
「これ、俺が言っていいことじゃないからごめんな。だから、今回のことは例外ということで」
「どうしてですか?どうして優遇ゆうぐうするんですか?」
 私はいつの間にか、声を荒げていた。
 他の先生と、その場にいた生徒たちが私を見る。私は恥ずかしくなってきた。
「とにかく、落ち着いてくれ。黒沢はなんて言っていたんだ?」
「地毛ですと」
「そうか。じゃあ、それでいいじゃないか」
「おかしくないですか?明らかに地毛じゃないですよね」
「そんなこと言ってもなぁ。色々と事情が」
 その時だった。職員室に英子がやってきた。
 英子は少し緊張した様子で顔がこわばっていた。
 私は怒っているのだろうかと思い、少し身構える。
「あの。江田さん。ちょっといい?」
「な、なに?
 私は英子が抗議するのだろうと思い、どんな言葉を言ってくるのか。
 またはこれまでの対応への苦言を言いたいのかと思った。
「ちょっと。一緒に来て。ここじゃできない話だから。先生。理科実験室使わせてもらいますね」
「おう。いいぞ。これ、鍵な」
 英子は河井から鍵を受け取ると、私と共に職員室を出て行く。
 英子は私の前を歩き、私は後ろをついていく。無言のまま、歩く。
 理科実験室の前に着くと、英子が鍵を開錠する。英子が入り、私が後に入る。英子が鍵を閉めた。
 私は英子が何かをしてくるのかと思い、更に警戒した。戸を閉めた英子が振り向かずに口を開く。
「江田さん。私のこと、嫌いだよね」
「………」
「それはいいの。ただね、髪の毛の件だけど。小児がんって解るかな。私。それだったんだ」
 英子は振り向き、私に向き合う。
 英子は頭をずらしていき、茶色の髪が落ちた。
 正確には茶色のカツラを落とした。英子は髪がなく、頭は坊主だった。
「だからヅラなの。これ。若いのにヅラって本当辛くて。いきなりごめん」
 英子の言葉は重々しいものだった。英子の表情が痛々しいものに思えて、直視できなかった。
 心からの辛いという言葉に思えて、私は何を言えばいいか解らない。ただ謝罪の言葉を述べるしないと思った。
「………。ごめん」
「謝らないで。皆、髪の毛のことで我慢しているのに。茶色の髪だもんね。私も黒色のヅラ、今度発注するからそれまでは許可してほしい」
 私は何もかもが完璧そうに見えた英子の本当の辛さを見た気がした。
 私は自分の嫉妬心を受け入れつつも開き直り、英子を責める手立てを探している自分が恥ずかしいきがした。自分の不甲斐なさを痛感する。
「やっと、抗がん剤の治療が終わっても、髪の毛がないって。普通に生きて学校生活出来るだけでも有難いと思わないといけないのにね」
 英子は無理して笑っている。その表情は痛々しくも思えた。
 私は英子が、自身を敵視てきししている人に弱味を打ち明ける勇気にただ脱帽だつぼうした。これがどんなに恐く勇気のいることだろうか。
「……わかった。………秘密にするよ」
「……ありがとう」
 私はこの時、英子の顔を初めてしっかりと見た。英子の目にはうっすらと涙目だったが、凛とした美しさがそこにはあった。


題材 帽子
46:03
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