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インボウ論者
しおりを挟むあとある会社の休憩時間のことだった。
『今話題の人気俳優、佐川隆と河合るりの熱愛発覚』
『街の声:めっちゃビッグカップルだと思います!』
社長の沢井はテレビの芸能ニュースを見て、電源を切る。
「もっと報道すべきことあるだろうにね」
女性社員二人が沢井を見た。沢井は二人を見る。目が合うと、沢井は二人に向かって口を開く。
「ね、君らさ。こういうニュースってどう思う?」
「え?たのしいですよね。お似合いだなーとか」と言いながら、女性社員の一人の田宮は弁当を開けた。
沢井は想定していた回答に驚きもなく、なるほどという表情を浮かべる。
「私は好きです!佐川くんの熱愛はショックだけど、ファンなら応援しないと」
もう一人の女性社員の若林は嬉しそうだった。
沢井は二人の女性社員の回答に異論を唱えるつもりも、馬鹿にする様子もなく「そうか」という表情を浮かべる。
「そうか。なるほど、ちょっと若い人はどう思っているのかなと興味本位で聞いてみただけ」
「社長はどう思います?」
田宮は自分の返答が沢井を不快にさせたかもと思い、心配しながら聞き返した。
沢井は手を顎に当てて口を開く。
「そうだな、タイミングを感じるね」
「タイミング?」
「うん。そうだね。芸能ニュースってまあ、いわば娯楽だろう?俺たちの生活に重要ってわけじゃない。誰かが結婚した、不倫しただの。まあ、その芸能人をCMに起用しているような大企業なんかは必要になっていくけど。多くの一般人にはあんま関係ないよね」
沢井は険しい顔をする。田宮と若林は顔を見合わせた。
沢井の言い分も確かだが、若林は沢井が中年で老いてきているから考えが凝り固まっているのかと思ったようだ。
「お言葉ですが、社長。応援する芸能人がいるってたのしいですよね?」
「そりゃあ、たのしいだろうね。生活の活力にもなるよね。そこは共感するよ」
「ありがとうございます」
「でもね」
「でも?」
「なんか本当にどうでもいいことで騒いでるときって、結構、政治的にヤバいのが隠されていることがあんだよな」
「ぷ。なんですか。それ。今、流行の陰謀論ですか?」
田宮が笑う。田宮は先日見たテレビ番組の陰謀論者の特徴が、沢井に似ている気がした。彼女は上司ゆえに馬鹿にするのは失礼だと思い、少し慎む。
沢井はその言葉を気に掛けるでもなく、話を続ける。
「そうだね。陰謀論者だね。俺の考えは人間、誰しも、『誰か』や『なにか』からの影響下で物事を決断していると思っている。それが正か偽か判断もそれに頼っているんだ」
「え?それって今の話と関係なくないですか?」
「俺の言ってることなんて、デタラメだし。基本的に陰謀論者の言い分ってエンターテインメントみたいなものだとも俺は思う、嘲笑したり馬鹿にしてもいい。ただその陰謀論をはっきりと『正』か『偽』、『白』か『黒』かはっきりさせないほうがいいと思うんだよ。俺はこの考え、君たちはこの考え。これだよ」
「そうですか。でも、芸能人のスキャンダルと政治に関連したことが起きてるって?それって考えすぎじゃないですか?」
田宮が首をかしげる。沢井の顔つきが真剣になってきた。
「例えば、政権を執っている政党の内閣総理大臣がある芸能事務所の舞台に出ていたり。それが政治と芸能の協力関係とも言える」
田宮は沢井の言葉があまりにも偏っていて、中年による更年期障害じゃないかと思ってしまった。沢井は話を続ける。
「実際、超人気俳優と超人気歌手の結婚報道の裏で法改正があったしね。選挙期間中に熱愛報道とかね。今度、暇があったら大々的な芸能ニュースが流れたら、「法改正」か「政治家」等々で調べてみてよ。中々、陰謀論を超えて中々に面白いよ」
「うわ。社長ってモロ、陰謀論者ですね。ちょっと引きます」
「俺のような中年の陰謀論者の言い分は「そうなんだ」で思えばいいけど、将来的に自分の身に降り掛ってくる問題も見ていかないといけないよと思うよ。今が良ければ、でいいならいいけどね。これから先も生きていくならね。変なこと言ってごめんね。佐川くんだっけ。良い俳優だと思うよ」
沢井はコーヒーを手に取りながら、休憩室を出て行く。
田宮と若林は社長が突飛で、加齢による異様な感じを覚えた。
田宮は沢井が何かの宗教にでも入っているのかと思い、考えるのを止めた。
若林はもやっとした気分を抱えながら、スマホを取り出して沢井の言うように「法改正」を検索し始めた。こうして、休憩時間は過ぎていった。
了
題材「声」
39:21
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