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トパーズの憂鬱
トパーズの憂鬱31
しおりを挟むゆっくりと見えてきた思い出は、刑事が美砂子に【叶井遊作が怪しい】と伝えられてから、幾日か経過している場面だった。
美砂子と遊作が花園遊園地のベンチで話をしている。遊作が美砂子に【澤地とも付き合っている】と次げた遊園地だ。
美砂子の表情は決して明るくなく、遊作は再会の喜びを感じているように見えた。
遊作が言う。
「昔、ここで、俺が「亮子とも付き合っていた」ことを美砂子に言ったな」
「そうね」
「あの時は傷つけたよな。本当ごめんな」
「ええ。そうね。本当にショックだった」
遊作は美砂子の肩を抱き、満足そうな表情を浮かべた。
「あの時から俺は美砂子だけだったんだけど、澤地がしつこくってさ。美砂子と付き合うあら、会社をクビにするだのとかな」
遊作は昔を懐かしむように言った。美砂子はそれをぼんやりと聞く。遊作は続ける。
「思えば、あの時、すぐに会社を辞めて自営業でも何でもすぐにやればよかったよな。今、こうして食べていけているわけだし」
美砂子が何も返事をしないことに、遊作は顔を覗き込む。
「どうした?」
「うんうん。なんでもない」
「何か。美砂子、俺のこと嫌いになった?」
「………そんなこと」
「良かった。何か澤地が捕まってから、美砂子が俺を避けているみたいだし。あんな精神異常者の女に好かれる俺に愛想尽きちゃったかなって心配になって。急に別居とか言い出すし」
美砂子は顔色が悪くなり、隣にいる遊作から離れようと肩の手をはがそうとする。
遊作はそれに気付き、手のほうを見る。
遊作の手は力強く、剥がすことはできなかった。
「まだ解らない。それに」
「それにって。亮子の裁判が終わっていないからか。亮子のことを気にしているのか?」
「………」
美砂子は遊作を見るも、すぐに目を反らす。遊作は含み笑いをする。私は恐くなってきた。
遊作は子供連れの家族を見て言う。
「由利亜がもう少し大きくなったら、この花園公園にまた行こうぜ。いいよな。これで晴れて三人。邪魔が入らない」
「ねぇ。遊作」
「何?」
「聞きたいことがある。本当のことを教えてほしい」
「ん?」
美砂子は遊作の顔を見る。その表情は真剣だった。
遊作は何かを感づいたのか、徐々に表情を変えていく。遊作の表情は険しいものになっていた。
美砂子は刑事から聞いた内容を遊作に聞くのだろうか。
それは事実上の決別になるかもしれない。私はその様子を見ることしかできない。
「遊作は、私が和義と結婚した後、どう過ごしていた?」
「どうって?」
「どう思っていたかってこと」
「っははは。さっきも言ったけど、後悔していたよ。ずっと。何でこんなことになったのかって」
遊作は両手を組み、力を込めた。遊作は美砂子を見る。
「正直、裏切られたと思った。俺じゃなくって、なんでアイツなんかと」
私はその様子が少しだけ恐い気がした。美砂子が言う。
「澤地さんは本当に、自分の意思だけでやったの?」
「ん?何を言っているの?アイツは元々、頭がイカれているからなぁ」
遊作は笑いながら言った。私はその姿が恐くて、背筋が凍った。
「澤地さんが、遊作から「美砂子に嫌がらせしたら、結婚してやる」と言われたって証言しているの」
美砂子は少し震えながら言った。遊作は美砂子を見る。その表情はなんともいえない険しい顔をしていた。けれど、すぐに表情を変える。
「何を言っているんだよ。俺がそう言うか?何したって、俺が亮子となんて結婚しない。美砂子も亮子の言うことを信じるのか」
「………」
美砂子は遊作と座っているベンチを離れようとするが、遊作に手を押さえられた。
美砂子は遊作が嘘をついていると思った。遊作は美砂子がどう思っているか察したようだ。
美砂子が問いただす。
「本当のこと、教えて。お願い」
「そうだよ。そう言ったよ。けどな、まさか、美砂子が信号待ちしている中、押すなんてな。本当、ぞっとしたよ。だから、俺は亮子を突き放した。そしたら、今度は「私を無視するなら、あなたに言われて美砂子に嫌がらせをしたって警察に言う」って言ってきてさ。本当、参ったよ。で、仕事辞めて、亮子の前から姿を消して自営業を始めたんだよ」
私は遊作の自分勝手な言い分に寒気がした。
本当に好きな人を思い通りにできなかったからって、嫌がらせを指導する。
心底、気持ち悪い男だと思った。美砂子の顔が青ざめていく。
「……信じられない。酷い」
「酷い?そうだな。俺は最低で酷いよ。けど、解ってくれ。俺には美砂子しかいないんだ。それに由利亜のことだって」
遊作は美砂子の肩を掴む。美砂子はそれを振り払った。
トパーズの憂鬱31 了
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