プロビデンスは見ていた

深月珂冶

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トパーズの憂鬱

トパーズの憂鬱 11

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 私はアクアマリンの指輪を持ち、南海のいる店の玄関に向かう。

 南海は私を見て笑った。

「いやー本当にすいません」
「いいですよ。このまま取りに来なかったらって心配していましたよ」
「あっははは」
 
 南海は頭を掻いた。南海は仕事が忙しいのか、先日会った時より痩せたように見えた。

「あの、痩せましたね?」

 私は南海にアクアマリンの指輪を渡しながら言った。南海はきょとんとする。

「へ?」
「なんかやつれたような」
「そうです?ま、ちょっと色々あって。心配してくれてありがとうございます」

 南海はアクアマリンの指輪を丁寧に鞄に仕舞った。

「あ!そうだ!あの、川本さん。今度一緒に」

 南海の言葉を遮るように、森本ヒカルが店にやってきた。
 私はこの状況に少し慌てた。誤魔化そうと思ったが、すぐに森本が言う。

「川本。おはよう」
「え?あ、おはよう」

 森本は南海を見ると、軽く会釈した。南海もそれに倣って返す。
 南海が川本に言う。

「あの、こちらは」
「同級生で刑事さんの森本ヒカルさんです」
「あ、どうも初めまして警視庁捜査一課の森本ヒカルです」

 森本は自身の警察手帳を取り出し、南海に見せた。南海は少し驚く。

「え?刑事さん!凄いなぁ。はじめまして、俺は南海みなみ啓一けいいちです。外資系ファンドで働いてます。よろしく」
 
 南海は握手を求めてきた。森本はそれに応じる。

「でも、刑事さんが何故、ここに?」

 南海は森本の顔を見る。森本が言う。

「川本は捜査に協力してもらってるんですよ。南海さん」

 森本は丁寧に言った。

 南海は森本を見ながら「へぇー。というか刑事さん、男前ですね」と言った。

「男前?かどうかより、南海さんは川本とどういう関係ですか?」

 森本は取り調べしているような威圧感で言った。南海はその威圧感に引き下がる。私は取り調べが改めて恐いと思った。

「どういった。うーん。俺はお客さんで。一方的に川本さんを想ってるだけで」

 森本は南海が私へ好意を持っていることに反応する。

「想ってる?へぇー」

 森本は私を見る。私は苦笑いをした。微妙な空気に堪えられなくなる。

「ま、とにかく、南海さんはお客さんだよ!で、何?森本?用は?」
「用がなかったら駄目か来たら」

 森本は私を見つめる。私は緊張してきた。

「いやー。そうでもないけども」

 私は動揺する。その様子を南海が見た。

「え?川本さんって」
「あーもう。南海さんも用済みましたよね。じゃ、また」
「え?」

 私は南海の背中を押し、店の外まで送り出す。私と南海は森本を店に残し、店の外に出た。

「川本さん、森本さんが好きなんですか!?」

 南海の大声で私は慌てた。

「ちょっと声が大きいです」
「そうなんですね」

 南海は明らかにショックを受けているように見えた。私は少しだけ申し訳ない気分になってくる。

「……そうです。ごめんなさい」

 私は頭を下げる。南海は涙目になっていた。

「そうですか。解りました。でも、また来てもいいですか?」
「え?」
「川本さんが森本さんのこと好きでも、俺が好きでいても構わないですよね?」

 南海は私の手を取って言った。

「あ、いや、その。別にいいですけど」
「やったー!ありがとうございます!」

南海は嬉しそうな顔をして言った。

「じゃあ、これで。仕事行ってきます!」

 南海は私に挨拶をする。

「行ってらっしゃい」

 私は南海を見送った。南海は私に手を振り、元気よく職場に向かっていく。
 私は南海の姿が見えなくなると、店に戻った。
 森本は何処か苛ついているように思えた。

「ごめんね、お待たせ」
「いや。俺も変なときに来たな。帰るよ」

 森本は帰ろうとする。私は森本の上着を掴もうとして、けそうになった。それを森本が支えた。

「おい、大丈夫か?」
「ごめん。ありがとう。あと、さっきの南海さんだけど、ただの常連客だから」

 私は森本から離れ、南海のことを弁解した。
 森本は少しだけ嬉しそうな顔をしているように見えた。

「そっか。さっき二人で出て行ったからつい」
「うん。ちゃんと断ったから」
「そうか」

 森本は私に近づき、私の右手を両手で包んだ。

「この前のことだけど。どう思っているか。教えてほしい」
「……うん」

 私は真剣な森本に少し、緊張する。息を吐き、言う。

「私も森本のことが好き」
「………」

 森本は私の顔をじっと見つめて、私を引き寄せて抱き締めた。
 森本の心臓の音が聞こえ、恥ずかしくなってきた。

「ありがとう」
「……でも、何時から私のことが好きなの?」

 森本は私を抱き締める力を強くした。

「お前は覚えていないか。残念だ」

 少し落胆した声色だった。

「本当に心当たりが」

 私は思い当たる節がなかった。
 ただ森本と高校の同級生だったこと、警察への協力から関わりが出てきたことぐらいしか浮かばなかった。

「今度、じっくり教えてやるさ」

 森本は私を身体から剥がすと、微笑みながら言った。

「楽しみにしてる」

 私は笑った。森本は私の顔に手をやり、自分の顔を近づける。
 何処からともなく、自然に私と森本はキスをした。

トパーズの憂鬱11(了)
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