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C7:6/20:水路工事場での激闘!
3:土手の戦い
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茂みの中に潜んだヨモツシコメ二体を倒してしまうと、大根田達はやることが無くなってしまった。
ダチョウ恐竜たちにまたがった大根田達は、一定の距離を保って工事現場を巡回し続ける。
ダチョウ恐竜のモホークは大根田に顔を擦り付け、するすると土手を登った。
水路を作っている広場に出た。
素手で地面を掘り返している三人の男達の後を、女性二人が付いて回っている。女性の一人は腕を組み、男たちが掘った溝を凄まじい勢いで踏み固めている。もう一人の女性はそこに石を目にもとまらぬ速さで埋め込んでいた。
掘り返された土をリヤカーに積んでいた芳治が、大根田の視線に気づいて笑った。
「原始的だろ? 一応、鉛管やらコンクリの水路は使わないことにしてるんだと」
「どうしてです?」
「茅野が言うには、居種宮駅にもいずれは水路を作らなきゃいかんから、そのためにとってあるんだとさ」
「ああ物資不足……ところで、ちょっと質問なんですけども――」
芳治がにやりと笑った。
「ああ、あんたも『その質問』か? さっき八木のお嬢ちゃんにも聞かれたよ。間丘鉄道とJRをどうやって繋げるか、だろ?」
間丘鉄道はJR居種宮線とは繋がっていない。栃木県比嘉郡見木町から茨城県上館までのローカル線なのである。
「普通に考えると、新しく線路を作るってことなんでしょうけど――」
大根田の言葉に芳治は頷く。
「線路を新しく作るってのは大工事だ。まずは資材が無い。だから、線路の一部を引っぺがして再利用するんだよ」
ああ、と大根田は先程の無くなっているレールを思い出した。
「間丘駅から直線で一番近いのはJR岩橋駅だ。距離は十二キロってとこらしい。で、ボコボコになっちまった道路を改造して線路を埋め込んじまおうって計画だ」
大根田は開いた口が塞がらなかった。
「い、いやあ……無茶苦茶ですね……」
「俺もそう思ったがね、まあ、このご時世、誰も車なんて乗らねえだろ? じゃあ、やっちまおうってな」
芳治は笑って、遠くを見やった。
大根田も視線を追う。
壁があった。
「……あんなでかい壁ができる世の中だ。無茶苦茶だって、やってやれねえことは無いってね」
大根田は目を瞬いた。
不安の象徴としか見られていないと思っていた壁が、『そういう風』に見られているとは……。
「……そうですね。そうかもしれませんね!」
大根田の笑顔に芳治も満面の笑顔で返した、その時――
『来た! 北の方から凄い速さで向かってきてる! 間違いなく連中だ!!』
芳治が笑顔を引っ込めると、川の方に走る。
大根田もモホークから飛び降りると、芳治の横に並んだ。
眼下に広がるのは元々ここを流れている二木川と、鬼弩川が合体した巨大な川である。
そこを、水しぶきを上げながら黒い塊が無数に進んでくる。
『目視で確認! 間違いなく昨日襲ってきた付喪神です! これより、連中を『輪入道』と呼称します! ええっと、その数――二十三体!!』
『ふふん、そのまんまだな』
『うっせーよ、ヤーさん! うおおお、速いぞこいつら!』
五十嵐と佐希子のやり取りを聞いているうちに、一群が川を渡り終えたのに大根田はゾッとした。
本当に速い。
しかも、どこか統制されたように、V字に隊列を組んでいるのだ。
「登ってくる! 戦闘に自信が無い人は退避してください!」
大根田が小太刀を抜き、赤熱化させると同時に一匹が土手の上に飛び出してきた。
『ぎゃあ、こっちきたぁ!!』
「おまえはどっか隠れてろ! こっちも来やがったぞ!」
『逃げろ逃げろ!』
「くそっ! 昨日よりもでかいのが――」
肉声の悲鳴と怒号、混乱したマナ電話が飛びかう中、大根田は輪入道と対峙した。
簡単に言えば『古タイヤを基にした付喪神』と佐希子は言った。
成程、全体は使い古したような車のタイヤ――恐らくは軽自動車の物――である。だが、その中心には蜘蛛の糸のようなものが絡み合い、まるで羽化し立てのカマキリの卵のように蠢いているのだ。
陰影の調子で顔のように見える瞬間もある。
顔が笑った――ように大根田には見えた。
輪入道が襲い掛かってきた。
「大根田さん! そいつら速いぞ! 直線でぶつかるのだけはヤバい!」
芳治はそう言うと、もう一匹飛び上がってきた輪入道と対峙する。
輪入道は縦に転がってくる。大根田は横に裂けながら小太刀を振るった。
な!? こいつ――
ぼんっという音をあげ、ゴムの焦げた臭いをまき散らしながら輪入道は二度三度と跳ね、着地すると、くるくるとコマのように回転した。
大根田は小太刀を中段に構える。
体がゴムでできているから斬撃が効かない! なら、突いてみるか――
輪入道が猛スピードで転がってくる。
正面からは突けない! なら横に躱して――
ぐにゃり、と軌道が変化する。
躱したはずの大根田の正面に輪入道が猛スピードで突っ込んでくる。
しまった! くそ――
芳治が飛び込んできた。
「おっしゃぁ!!」
手にした角材を振り回し、輪入道にブチ当てる。タイヤをへこませると、輪入道は高く跳ねただけで、着地すると再びくるくると回り始めた。
「ああやって、標的を選んでるんだ。突っ込んでくるだけだが、体がタイヤだからどうしよもねえんだよ! ぶっ叩いて下に落とすんだ!」
成程、芳治がさっき戦っていた輪入道は、再び崖を登ろうとしているようだ。
だが、それでは撃退にはならない。
大根田は小太刀を正眼に構え、熱量を上げていく。
「ならば、燃やすのはどうでしょうか?」
いざとなったら、佐希子言うところのインフェルノなんちゃらをやるという手段もある。
「いや、それは――おっと!」
輪入道が襲い掛かってきた。体を傾け、掘り返されたばかりの水路に飛び込むと、傾斜を利用して飛び上がる。
芳治は角材を振りかぶり、落下してくる輪入道を打ち据えた。バムっという鈍い音を立て、この輪入道も登ってきた土手の向こうに飛ばされた。
芳治は苦い顔をした。
「まったく……昨日もこうやって延々とぶっ叩いたんだけど、連中元気いっぱいでな。困ったもんだぜ」
「じゃ、じゃあ、昨日はどうやって撃退を――」
「……しばらくしたら、帰ってったよ」
芳治は汗をぬぐい、息を長く吐いた。
「え? じゃあ、連中何が目的で襲ってきて――」
『は、判明! うっぷ……こりゃ厄介だわ』
佐希子のげっそりした声が脳内に響く。
『佐希子ちゃん! どうしたの? 大丈夫!?』
『いや、あまりだいじょばないんだけど、と、ともかく要点だけ話す!
全員聞いて! なんとなく判ってる人もいると思うけども、連中は接触した人間から生体エネルギー、分かりやすく言うと体力とマナを同時に奪うの!』
大根田は芳治を見た。芳治は額を拭い、なるほどねと小声で言った。
『方法は私達の体の中にあるマナを媒介にしている! マナ自体は屋外だからすぐに充填されるけども、体力は戻らない!』
五十嵐のげっそりした声。
『早く言ってくれよ。両手で受け止めて、ぶん投げちまったよ』
野崎の忌々しそうな声が続く。
『くそっ、それでか。弾き飛ばしたが足元がフラフラだぜ』
佐希子が、いやあと苦い声を出す。
『脳筋軍団とは相性悪すぎだわ、こいつ。
ちなみに連中、能力を使った際に微量に出るマナのカスに引き寄せられていると思うのね。言っちゃえば、二酸化炭素に引き寄せられる蚊みたいなものかな』
『成程。だから作業をしている我々を襲うのですな。マナのカスが一定量以上溜まると、それを探知してくるわけだ』
茅野の感心したような声。
『つまり、輪入道への対策はマナのカスを散らせば――』
土手を再び登って輪入道が現れた。
大根田はすかさず小太刀を突き出す。狙うはタイヤの中心。だが、小太刀が突き立てられる寸前に、蜘蛛の巣のような部分は周囲のタイヤの中に吸い込まれてしまった。
くそっ、と大根田が再び構える前に輪入道は着地し、そのまま体当たりをしてきた。
体を捻るも左の太ももを引っかけられ、大根田は転がった。
と、藪の向こうから大きな音が聞こえた。
転がったまま、土手の向こうを覗くと巨大な木組みの建物が川に崩れ落ちる所だった。
「畜生! また水車がやられたぞ!」
芳治がこめかみに指を当てながら、忌々しそうに唾を吐く。
『おい茅野!』
『判ってる。目の前で今倒れたよ』
大根田は起き上がると、小太刀を腰に構える。
「芳治さん、燃やしちゃいけない理由は!?」
『大根田さん! 燃やすのはダメ! うわ、こっち来た!!』
佐希子の悲鳴。
芳治が角材を構えた。
「連中はタイヤだ! 燃やすと有毒物質が出るんだよ! あと、燃やし切らないと、燃えながらそこら中転がりまわるんだ! 昨日は危うく大火事になる所だった!」
それは――やばい。
輪入道が再び襲ってきた。
大根田は小太刀の赤熱化を解き正眼に構えた。
となれば――
「芳治さん! 奴を横倒しにします! だから、真ん中へそれを!」
芳治がはっとした顔をする前に、輪入道は再び地面の出っ張りを利用して上に跳んだ。
大根田は目を凝らす。
空中に跳んでいるのに、一定の速度で回転し続けている。
つまり、この跳躍は陽動で――
輪入道は大根田の後ろに着地すると同時に、猛スピードで突撃してきた。
だが、大根田はそれを予期していた。
小太刀を鞘に納め両手で掴むと、振り向きざまに輪入道を殴りつけた。手首に酷い衝撃があったが、勢いのついた輪入道は何度もバウンドしながら横向きに倒れた。
「もらったああああっ!!」
芳治は角材を振り上げ、ラグビーのタックルのように輪入道に跳び着いた。
そのまま、勢い角材をタイヤの中心に突き刺す。蜘蛛の巣のような部分は素早くタイヤの中に隠れたが、角材は地面に深々と突き刺さった。
輪入道はすぐさま起き上がろうとした。
だが、角材が邪魔で起き上がれない。
飛ぼうにも横倒しにされているので、真上に跳躍はできないのだ。
まるで輪投げのように、輪入道は捕獲されたのだった。
ダチョウ恐竜たちにまたがった大根田達は、一定の距離を保って工事現場を巡回し続ける。
ダチョウ恐竜のモホークは大根田に顔を擦り付け、するすると土手を登った。
水路を作っている広場に出た。
素手で地面を掘り返している三人の男達の後を、女性二人が付いて回っている。女性の一人は腕を組み、男たちが掘った溝を凄まじい勢いで踏み固めている。もう一人の女性はそこに石を目にもとまらぬ速さで埋め込んでいた。
掘り返された土をリヤカーに積んでいた芳治が、大根田の視線に気づいて笑った。
「原始的だろ? 一応、鉛管やらコンクリの水路は使わないことにしてるんだと」
「どうしてです?」
「茅野が言うには、居種宮駅にもいずれは水路を作らなきゃいかんから、そのためにとってあるんだとさ」
「ああ物資不足……ところで、ちょっと質問なんですけども――」
芳治がにやりと笑った。
「ああ、あんたも『その質問』か? さっき八木のお嬢ちゃんにも聞かれたよ。間丘鉄道とJRをどうやって繋げるか、だろ?」
間丘鉄道はJR居種宮線とは繋がっていない。栃木県比嘉郡見木町から茨城県上館までのローカル線なのである。
「普通に考えると、新しく線路を作るってことなんでしょうけど――」
大根田の言葉に芳治は頷く。
「線路を新しく作るってのは大工事だ。まずは資材が無い。だから、線路の一部を引っぺがして再利用するんだよ」
ああ、と大根田は先程の無くなっているレールを思い出した。
「間丘駅から直線で一番近いのはJR岩橋駅だ。距離は十二キロってとこらしい。で、ボコボコになっちまった道路を改造して線路を埋め込んじまおうって計画だ」
大根田は開いた口が塞がらなかった。
「い、いやあ……無茶苦茶ですね……」
「俺もそう思ったがね、まあ、このご時世、誰も車なんて乗らねえだろ? じゃあ、やっちまおうってな」
芳治は笑って、遠くを見やった。
大根田も視線を追う。
壁があった。
「……あんなでかい壁ができる世の中だ。無茶苦茶だって、やってやれねえことは無いってね」
大根田は目を瞬いた。
不安の象徴としか見られていないと思っていた壁が、『そういう風』に見られているとは……。
「……そうですね。そうかもしれませんね!」
大根田の笑顔に芳治も満面の笑顔で返した、その時――
『来た! 北の方から凄い速さで向かってきてる! 間違いなく連中だ!!』
芳治が笑顔を引っ込めると、川の方に走る。
大根田もモホークから飛び降りると、芳治の横に並んだ。
眼下に広がるのは元々ここを流れている二木川と、鬼弩川が合体した巨大な川である。
そこを、水しぶきを上げながら黒い塊が無数に進んでくる。
『目視で確認! 間違いなく昨日襲ってきた付喪神です! これより、連中を『輪入道』と呼称します! ええっと、その数――二十三体!!』
『ふふん、そのまんまだな』
『うっせーよ、ヤーさん! うおおお、速いぞこいつら!』
五十嵐と佐希子のやり取りを聞いているうちに、一群が川を渡り終えたのに大根田はゾッとした。
本当に速い。
しかも、どこか統制されたように、V字に隊列を組んでいるのだ。
「登ってくる! 戦闘に自信が無い人は退避してください!」
大根田が小太刀を抜き、赤熱化させると同時に一匹が土手の上に飛び出してきた。
『ぎゃあ、こっちきたぁ!!』
「おまえはどっか隠れてろ! こっちも来やがったぞ!」
『逃げろ逃げろ!』
「くそっ! 昨日よりもでかいのが――」
肉声の悲鳴と怒号、混乱したマナ電話が飛びかう中、大根田は輪入道と対峙した。
簡単に言えば『古タイヤを基にした付喪神』と佐希子は言った。
成程、全体は使い古したような車のタイヤ――恐らくは軽自動車の物――である。だが、その中心には蜘蛛の糸のようなものが絡み合い、まるで羽化し立てのカマキリの卵のように蠢いているのだ。
陰影の調子で顔のように見える瞬間もある。
顔が笑った――ように大根田には見えた。
輪入道が襲い掛かってきた。
「大根田さん! そいつら速いぞ! 直線でぶつかるのだけはヤバい!」
芳治はそう言うと、もう一匹飛び上がってきた輪入道と対峙する。
輪入道は縦に転がってくる。大根田は横に裂けながら小太刀を振るった。
な!? こいつ――
ぼんっという音をあげ、ゴムの焦げた臭いをまき散らしながら輪入道は二度三度と跳ね、着地すると、くるくるとコマのように回転した。
大根田は小太刀を中段に構える。
体がゴムでできているから斬撃が効かない! なら、突いてみるか――
輪入道が猛スピードで転がってくる。
正面からは突けない! なら横に躱して――
ぐにゃり、と軌道が変化する。
躱したはずの大根田の正面に輪入道が猛スピードで突っ込んでくる。
しまった! くそ――
芳治が飛び込んできた。
「おっしゃぁ!!」
手にした角材を振り回し、輪入道にブチ当てる。タイヤをへこませると、輪入道は高く跳ねただけで、着地すると再びくるくると回り始めた。
「ああやって、標的を選んでるんだ。突っ込んでくるだけだが、体がタイヤだからどうしよもねえんだよ! ぶっ叩いて下に落とすんだ!」
成程、芳治がさっき戦っていた輪入道は、再び崖を登ろうとしているようだ。
だが、それでは撃退にはならない。
大根田は小太刀を正眼に構え、熱量を上げていく。
「ならば、燃やすのはどうでしょうか?」
いざとなったら、佐希子言うところのインフェルノなんちゃらをやるという手段もある。
「いや、それは――おっと!」
輪入道が襲い掛かってきた。体を傾け、掘り返されたばかりの水路に飛び込むと、傾斜を利用して飛び上がる。
芳治は角材を振りかぶり、落下してくる輪入道を打ち据えた。バムっという鈍い音を立て、この輪入道も登ってきた土手の向こうに飛ばされた。
芳治は苦い顔をした。
「まったく……昨日もこうやって延々とぶっ叩いたんだけど、連中元気いっぱいでな。困ったもんだぜ」
「じゃ、じゃあ、昨日はどうやって撃退を――」
「……しばらくしたら、帰ってったよ」
芳治は汗をぬぐい、息を長く吐いた。
「え? じゃあ、連中何が目的で襲ってきて――」
『は、判明! うっぷ……こりゃ厄介だわ』
佐希子のげっそりした声が脳内に響く。
『佐希子ちゃん! どうしたの? 大丈夫!?』
『いや、あまりだいじょばないんだけど、と、ともかく要点だけ話す!
全員聞いて! なんとなく判ってる人もいると思うけども、連中は接触した人間から生体エネルギー、分かりやすく言うと体力とマナを同時に奪うの!』
大根田は芳治を見た。芳治は額を拭い、なるほどねと小声で言った。
『方法は私達の体の中にあるマナを媒介にしている! マナ自体は屋外だからすぐに充填されるけども、体力は戻らない!』
五十嵐のげっそりした声。
『早く言ってくれよ。両手で受け止めて、ぶん投げちまったよ』
野崎の忌々しそうな声が続く。
『くそっ、それでか。弾き飛ばしたが足元がフラフラだぜ』
佐希子が、いやあと苦い声を出す。
『脳筋軍団とは相性悪すぎだわ、こいつ。
ちなみに連中、能力を使った際に微量に出るマナのカスに引き寄せられていると思うのね。言っちゃえば、二酸化炭素に引き寄せられる蚊みたいなものかな』
『成程。だから作業をしている我々を襲うのですな。マナのカスが一定量以上溜まると、それを探知してくるわけだ』
茅野の感心したような声。
『つまり、輪入道への対策はマナのカスを散らせば――』
土手を再び登って輪入道が現れた。
大根田はすかさず小太刀を突き出す。狙うはタイヤの中心。だが、小太刀が突き立てられる寸前に、蜘蛛の巣のような部分は周囲のタイヤの中に吸い込まれてしまった。
くそっ、と大根田が再び構える前に輪入道は着地し、そのまま体当たりをしてきた。
体を捻るも左の太ももを引っかけられ、大根田は転がった。
と、藪の向こうから大きな音が聞こえた。
転がったまま、土手の向こうを覗くと巨大な木組みの建物が川に崩れ落ちる所だった。
「畜生! また水車がやられたぞ!」
芳治がこめかみに指を当てながら、忌々しそうに唾を吐く。
『おい茅野!』
『判ってる。目の前で今倒れたよ』
大根田は起き上がると、小太刀を腰に構える。
「芳治さん、燃やしちゃいけない理由は!?」
『大根田さん! 燃やすのはダメ! うわ、こっち来た!!』
佐希子の悲鳴。
芳治が角材を構えた。
「連中はタイヤだ! 燃やすと有毒物質が出るんだよ! あと、燃やし切らないと、燃えながらそこら中転がりまわるんだ! 昨日は危うく大火事になる所だった!」
それは――やばい。
輪入道が再び襲ってきた。
大根田は小太刀の赤熱化を解き正眼に構えた。
となれば――
「芳治さん! 奴を横倒しにします! だから、真ん中へそれを!」
芳治がはっとした顔をする前に、輪入道は再び地面の出っ張りを利用して上に跳んだ。
大根田は目を凝らす。
空中に跳んでいるのに、一定の速度で回転し続けている。
つまり、この跳躍は陽動で――
輪入道は大根田の後ろに着地すると同時に、猛スピードで突撃してきた。
だが、大根田はそれを予期していた。
小太刀を鞘に納め両手で掴むと、振り向きざまに輪入道を殴りつけた。手首に酷い衝撃があったが、勢いのついた輪入道は何度もバウンドしながら横向きに倒れた。
「もらったああああっ!!」
芳治は角材を振り上げ、ラグビーのタックルのように輪入道に跳び着いた。
そのまま、勢い角材をタイヤの中心に突き刺す。蜘蛛の巣のような部分は素早くタイヤの中に隠れたが、角材は地面に深々と突き刺さった。
輪入道はすぐさま起き上がろうとした。
だが、角材が邪魔で起き上がれない。
飛ぼうにも横倒しにされているので、真上に跳躍はできないのだ。
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キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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