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決別
しおりを挟むピピピピッとアラームの音がして目覚めるとそのアラームで公彦も起きたのか「朝か…」と体を起こしていた。
ぼーっと公彦の横顔を見つめていると公彦は俺の顔を見てニコッと笑みを浮かべた。
「今日は休みだし、どこかに出掛ける?」
「…んー…でも、公彦疲れてるだろ?いいよ。気にしなくて」
「もーまたそう言って。俺知ってるんだからな、この映画見たがってただろ」
ずいっとスマホを差し出されて見せられたのは確かに俺が前にTVを見ながらポツリと「面白そうだなぁ」と溢した映画だった。
そんなに見たいのかと聞かれると頷きにくいけど。
そして渋る俺を他所に公彦は俺を抱き起こして甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
いつ切り出して出て行ったらいいんだろ。
ゴミ袋はしれっと出掛けるときに捨ててきた。
あのまま置いてたら怪しまれそうだったし、もう戻るつもりもなかったし。
無理矢理繋がれた手を見つめながら『なんでこいつは身代わりなんかのためにこんなにはしゃげるんだろうなぁ』なんて思っていた。
だって、身代わりって自分の心の平穏のためにつくるものであってその身代わりに尽くしたいからって訳じゃないだろ。
ほんっとこいつはわからん。
「アキラ、ポップコーン食べるだろ?俺買ってくるから待ってて!」
「え、あ……」
ぼーっとしてる間に公彦が走ってポップコーンを買いに行ってしまった。
……最後の思い出が映画……ドラマみたいだな。
公彦の戻りを待っているとき「ショウ!?」と見知らぬ人に声をかけられた。
「…?…俺、アキラですけど…」
「あ…す、んません……俺の知人にそっくりだったから…」
「……そんなに、似てますか」
「…本当に失礼なんだけど、まじでめちゃくちゃ似てる」
「…そっか…」
他人が言うぐらいなんだ。あいつがそう思ってたって、仕方ないのかも知れない。
この人のいうショウ、とあの写真の人が同一人物かは分からないけど。
目の前の人は特に聞いてもないのにどこが似てるとか、あーだこーだ言い始めて胃の辺りがギリギリと痛んだ。
そして間が悪いのかそのタイミングで公彦が戻ってきた。
「アキラ!ごめん、待たせちゃった」
「おまっ…公彦!?何やってんだ、こんな所で…つーか、お前…」
「…修平…?」
「……なに、2人知り合いなの?俺はいいから話してきたら?なんか話したいことあるっぽいよ、あの人」
「いや、俺は…」
「ごめん、こいつ少し借りていい?すぐ戻るから」
「どーぞ」
あーあ。
最後に映画デート出来なかったな。
連れて行かれる公彦を見送って俺は映画館を後にした。
図太く待っててやると思ったけど、俺の気持ちぺしゃんこになっちゃった。
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