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俺、爆誕
13歩
しおりを挟む誰かが泣いている声がする。
「…どこ…?」
ふわふわと浮く身体で泣き声が聞こえてくる方へと向かう。
うーん。暗くてよく分からないなぁ…。
「…っ…ぅ…」
「!!…こっちかなぁ」
キョロキョロと辺りを見渡していると案外すぐ近くから声が聞こえてきたので、急いでそちらへと行けば女の人と男の人…それに、男の子が寄り添うようにして泣いていた。
どうしたんだろう。何か悲しい事があったのかな。
顔を覆って泣いているから誰なのかは分からないけど、慰めることは出来るはずだ。
3人の前に回り込み「どうして泣いているの?」と問いかけても何も返ってこない。
「…困った。どうしたら涙が止まるんだろう」
うーんうーんと頭を悩ませていると女の人が「そう……そうっ……」と何かを言っているのが聞こえてきて耳を済ませば名前を言っているのだとわかった。
「…そう……そう……なんだろう、聞いた事のある名前のような……」
どこで聞いたんだろう。なんだか思い出さなくちゃいけないような気がする。
なんでこんなに胸が痛いんだ。
気付けば俺も涙を流していて拭いても拭いても止まることはなくて、嗚咽を漏らすと温かなものに手が包まれた。
勢いよく顔を上げれば小さな男の子が俺の手を握っていて、その顔は俺のーーー・・・。
「…快……?」
弟だ。
涙をぼろぼろと流しながら無意識に名前を呼べば俺を見ていた顔が破顔して「にいちゃ!」と嬉しそうに言った。
その顔を見て洪水のように記憶が流れ始め、俺は頭を押さえ蹲る。
そう、そうだ……俺は、この人たちの息子で…病気で死んで………なんで、この間まで覚えてたのに忘れちゃってたんだろう……。
母さん、父さん、快……よかった、顔を見れた……。
…あれ?でも、なんで快は俺が俺だって分かったんだろう。
快が気づいたことに母さんと父さんは気づいていないのか、まだ泣いている。
「……なんで、快は俺だって分かったの?というか、なんでここに…」
「にいちゃ、あそぼ」
「…ごめんな、遊びたいけど、遊べないんだ……ごめんなぁ…」
悲しそうに顔を歪めた弟の頭を撫でながら「母さん、父さん…」と声をかければ驚いたように辺りを見渡し始め「爽!?爽なの!?」と声をあげた。
……なるほど。快はまだ小さいから俺が見えるだけで、2人には見えないのか…。
もしかして今の俺は幽霊みたいな感じなのかな。意識だけ…。
うん、姿が見えなくても声が聞こえるなら、それでいいや。
最期に言えなかったことを沢山じゃなくても少しだけでも伝えたい。
「…母さん、父さん……俺、不出来な息子でごめんなさい。2人に何も出来なかった。ずっと、謝りたかった」
「そんな…そんな事ないわ!貴方は、不出来な子なんかではなかったわ!お願い…!少しだけでもいいから、姿を見せて…!」
「爽…お願いだ……快も寂しがっているんだ…もちろん、俺たちも…!」
悲痛な声が響く。
本当に?本当に俺は、不出来な子供じゃなかった?
「俺、2人の子供でよかった。たくさん、たくさん…愛情をくれた。在り来たりだけどさ、みんながいてくれたから俺、生きていけたんだよ。…俺のこと、忘れてほしくなんかないけど…いつまでもこんな風に泣いてたら、俺、心配でたまらない」
だから…。
「…つらいのなら、俺の事なんて忘れてほしいよ。俺、ちゃんと、幸せだったよ。…確かに治療はキツかったし、もう嫌だって何回も思ったけど…それ以上に幸せだった。みんながいてくれたからだよ」
きっと俺は治療中何度も泣き言言ってたと思う。もう嫌だ、やめてほしい、死なせてほしいって。
それぐらいきつくて、しんどかった。どうせ治らないのにこんな事やっても意味がないって、言ってしまった事もある。
そんな事ないって励ましてくれてたけど、その後泣いてたの俺、知ってる。
なのにみんな俺の事見放さずに最期の最期まで見届けてくれて、これが幸せといわず、なんという?
「…母さん、父さん…快。ずっと、ずーーーっと。大好きだよ。だから、もう、泣かないで。笑って生きてほしい。今日はこんな事があったよって、そんな話が聞きたいな」
ね?と笑いかければ見えてない筈なのに目があった気がした。
そしてそのまま手を伸ばされて、え?と思う前に2人に抱きしめられていて俺は目を白黒させた。
あれ!?俺今見えてるの!?や、やだ!恥ずかしい!
「…爽、ずっと私たちの事見ていたの…?」
「……ん」
「はは、恥ずかしいな…大泣きしてるところを見られてたなんて…」
…あったかいなぁ…。
すり、と2人に擦り寄った後離れて2人の顔見たらもう、泣いていなかった。
…その代わりに、笑みが浮かんでいた。
「…うん、その方が断然2人に似合ってるよ。…快もね」
「……にいちゃ、どこいくの?」
「え?…んー…遠いところかなぁ。…あーほら!泣かないの!…ね、快。今度はさ、快が沢山お父さんとお母さんを笑わせてね。にいちゃん、ずっと見てるから」
「…にこーってしたら、ぼく、いい子?」
「うん!とーってもいい子だ!」
わしわしと頭を撫でてやればにへへとかわいい笑顔を見せてくれた。
撫でる手をふと見ればその手が透け始めていて、もうここから出て行かなくちゃいけないんだなと感じた。
改めて父さん、母さん、快の顔を見て笑う。
「父さん、母さん、快!俺、本当に幸せだった!大好きだよ!……ばいばいっ」
どこかへ強く引っ張られる身体を無理矢理抑え込みながら叫べば「私たちもよ!貴方が私たちの子供でよかったわ!もっと、幸せになって…!」と返ってきて、それを最後にぷつんっと意識が途切れた。
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