僕は平凡に生きたい-新-

27

僕は今震えている。
いつものあの恐怖にではなく、目の前に並べられたご飯の美味しさに、だ。


「お、美味しい…！すっごく美味しい！」
「あはは、良かった。俺、料理人目指してんだ。指宿が喜んでくれて嬉しいよ」
「りょうりにん……す、すすごいね…」
「そうか？…指宿がすっげぇ美味しそうに食べてくれるから俺も作りがいあるな。俺たちあんまり話もしねーしさ。もし良かったらこれからも一緒に飯食べねー？」


こうやってまともに話したのは確かに初めてだし、なんだか申し訳なくなってくる。
……菅野くんの良さがこの料理にも滲み出ているような気がしてきた。
こんなに美味しい料理が作れる人が今までに出会った人たちのような行いをするとは思えない。

気がつけば僕は頷いていてそれを見た菅野くんは本当に嬉しそうに笑ってくれた。


「……す、がのくんはいつから、その…」
「料理人目指してたかって？…うーん…俺さぁ昔は本当に料理とかダメで、めちゃくちゃ嫌いだったんだ。でもある日いつも俺らの飯作ってくれてた母さんが熱出してぶっ倒れて。…だけど飯作れるやつなんて母さん以外にいなくてさ、だから母さん熱出てんのに俺らの飯作ろうとしてて……それで、俺が代わりに作るって張り切って作ったんだよ。……まあ、普通に失敗したんだけどな」

その日を思い出しているのか何処か遠くを見つめながら菅野くんは語る。

「でも、母さんは文句も言わず俺の作った飯食ってくれて…不味いからって止めた俺に『沙霧の作るご飯は、すごく美味しいよ』って本当に美味そうに食ってくれたんだ。俺も食べたけどまじで食べれるものじゃなかったんだよ。…それからかなー。母さんの負担を少しでも減らしたいし、もっと美味しい料理作りたいって思い始めて……あーでもこうやって料理人になりたいって思ったのは最近だな。今まではただの料理好きだったしな」
「……やっぱり、菅野くんはすごいよ。うん。すごい。……ぼ、僕には、そんな風にやりたい事なんてないし…そそそれに…ひっ人が怖くて、目を合わせる事も出来ない臆病者で…」


菅野くんの話を聞きながら僕はただただ、すごいと思った。
そして同時に僕は本当にダメな人間なんだなと改めて実感した。
…やっぱり、僕はこの恐怖症を克服したい。

俯いてぐっと手を握りしめていると菅野くんが「でもさ」と口を開く。