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本編
ナイフの落とし主と初恋
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魔女の家で治療されてから、僕は魔女が帰り際に言っていた失せ物、変化の時について考えていた。
そんな時だった。 案内所で迷子や道案内、落とし物の捜索などをしてくれるキースが僕を呼んでいた。
ルーカスに拐われた人質を逃がす際、僕は人質の人に成人のお祝いで父から貰ったナイフを持たせていた。身を守るものがあった方が安心するだろうしね。ナイフは大事な物だったけれど、ルーカスの嫌がらせで「テオ」の刻印の上から「テディ」に変えられており、あまり視界に入れたくなかった。人助けで失くすならそれで構わなかった。
何故か毎回、ナイフはキースの所に届けられ戻ってくるんだけどね。余りにも何度もキースが届けにくるので、キースとは仲良くなってしまった。
親方に少し抜けることを伝えてから、呼び声がした方に向かうと呼んだはずのキースはおらず、そこには自分のナイフを抱き締めた金髪の少女が立っていた。
あの時はフードを被っていたし、人拐いの仲間だと思われ罵られても仕方ないと思う。事実だし。そう思うと、何と声をかけていいのか分からず、
「えっと…。いや、その…。」
という情けない言葉しか出てこなかった。
「助けてくれてありがとう。」
そう少女から発せられた。
僕はそのたった一言で、浅ましくも英雄になれたかのように、人を救えた誇らしさで胸が熱くなり、情けないことだが視界が涙で滲むのを感じた。
「泣き虫テオ」と幼なじみ達から馬鹿にされていた事を思いだし、慌てて涙をぬぐう。脳裏に「泣き虫!名前もテディベアみたいに可愛くテディちゃんって呼んでやるよ!」という声が響く。
すると、少女から
「私、ナタリーっていうの。あなたは?」と情けない僕を笑うことなく笑顔で話してくれた。
「え、えと…、テオ…です。」
立ったまま話をするのも失礼だと思い、僕は現場にある今は人が出払っていて無人の事務所へと案内した。
ナタリーは、照れてしまってなかなか話せない僕の事を、笑うことなく話し出すのをゆっくりと待ってくれていた。なんて素敵な人なんだろう。僕たちは時間が経つのを忘れて、お互いの事を沢山話した。仕事を終えた親方が事務所に入ってくるまで話し込んでいた事に気が付かなかったんだ。僕がナタリーに惹かれるのなんてすぐだった。こんな僕とは釣り合わないって分かってるのに。
「さぁ、もう帰らないと家の人が心配するよ。僕なんかじゃ信用できないだろうけど、家まで送っていくよ」
「テオ、僕なんかって自分を卑下してはダメよ。もっと自信を持って!あなたはとっても勇敢な人よ。」
自分を励ますナタリーはお日様の光のようにとても眩しかった。彼女にそう言われると、本当に物語に出てくるような騎士になれたようで嬉しかった。
彼女の家の前に着いてから、僕はいつの間にか彼女と手を繋いでいる事に気付いた。
「わわっ!えっと、その、ごめん!そんなつもりじゃなくて!!」
慌てて、自分が何を言っているか分からなくなった。情けなくて、また泣きたくなってきた…。
手を離そうとすると、ナタリーは逆に強く手を握って、
「私、離す気ないから」
繋いだ僕の手を思いっきり引っ張ったかと思うと頬に口付けをして、ナタリーは家の中に入っていった。
僕は顔に熱が集まるのを感じたがそれどころじゃなかった。心臓が口から出てしまうんじゃないかと思った。自分の家までどう戻ったのかなんて記憶になかった。夢なら覚めないで欲しいと思った。
次の日、親方や同じ職場の先輩達から散々からかわれた。父に至っては、「テオも遂に男になったか…」といって涙まで流している。
夢じゃなかったんだ…。ナタリーに好きだと伝えたら、彼女はどう反応するかな?照れくさいけど、17にもなってやっと初恋なんだ。少しでも彼女と一緒にいたかった。
後になって思うと、この時の僕は浮かれに浮かれていた。ナタリーに夢中になって、ルーカスの存在なんてすっかり忘れて。魔女にも忠告されていたのに。
そんな時だった。 案内所で迷子や道案内、落とし物の捜索などをしてくれるキースが僕を呼んでいた。
ルーカスに拐われた人質を逃がす際、僕は人質の人に成人のお祝いで父から貰ったナイフを持たせていた。身を守るものがあった方が安心するだろうしね。ナイフは大事な物だったけれど、ルーカスの嫌がらせで「テオ」の刻印の上から「テディ」に変えられており、あまり視界に入れたくなかった。人助けで失くすならそれで構わなかった。
何故か毎回、ナイフはキースの所に届けられ戻ってくるんだけどね。余りにも何度もキースが届けにくるので、キースとは仲良くなってしまった。
親方に少し抜けることを伝えてから、呼び声がした方に向かうと呼んだはずのキースはおらず、そこには自分のナイフを抱き締めた金髪の少女が立っていた。
あの時はフードを被っていたし、人拐いの仲間だと思われ罵られても仕方ないと思う。事実だし。そう思うと、何と声をかけていいのか分からず、
「えっと…。いや、その…。」
という情けない言葉しか出てこなかった。
「助けてくれてありがとう。」
そう少女から発せられた。
僕はそのたった一言で、浅ましくも英雄になれたかのように、人を救えた誇らしさで胸が熱くなり、情けないことだが視界が涙で滲むのを感じた。
「泣き虫テオ」と幼なじみ達から馬鹿にされていた事を思いだし、慌てて涙をぬぐう。脳裏に「泣き虫!名前もテディベアみたいに可愛くテディちゃんって呼んでやるよ!」という声が響く。
すると、少女から
「私、ナタリーっていうの。あなたは?」と情けない僕を笑うことなく笑顔で話してくれた。
「え、えと…、テオ…です。」
立ったまま話をするのも失礼だと思い、僕は現場にある今は人が出払っていて無人の事務所へと案内した。
ナタリーは、照れてしまってなかなか話せない僕の事を、笑うことなく話し出すのをゆっくりと待ってくれていた。なんて素敵な人なんだろう。僕たちは時間が経つのを忘れて、お互いの事を沢山話した。仕事を終えた親方が事務所に入ってくるまで話し込んでいた事に気が付かなかったんだ。僕がナタリーに惹かれるのなんてすぐだった。こんな僕とは釣り合わないって分かってるのに。
「さぁ、もう帰らないと家の人が心配するよ。僕なんかじゃ信用できないだろうけど、家まで送っていくよ」
「テオ、僕なんかって自分を卑下してはダメよ。もっと自信を持って!あなたはとっても勇敢な人よ。」
自分を励ますナタリーはお日様の光のようにとても眩しかった。彼女にそう言われると、本当に物語に出てくるような騎士になれたようで嬉しかった。
彼女の家の前に着いてから、僕はいつの間にか彼女と手を繋いでいる事に気付いた。
「わわっ!えっと、その、ごめん!そんなつもりじゃなくて!!」
慌てて、自分が何を言っているか分からなくなった。情けなくて、また泣きたくなってきた…。
手を離そうとすると、ナタリーは逆に強く手を握って、
「私、離す気ないから」
繋いだ僕の手を思いっきり引っ張ったかと思うと頬に口付けをして、ナタリーは家の中に入っていった。
僕は顔に熱が集まるのを感じたがそれどころじゃなかった。心臓が口から出てしまうんじゃないかと思った。自分の家までどう戻ったのかなんて記憶になかった。夢なら覚めないで欲しいと思った。
次の日、親方や同じ職場の先輩達から散々からかわれた。父に至っては、「テオも遂に男になったか…」といって涙まで流している。
夢じゃなかったんだ…。ナタリーに好きだと伝えたら、彼女はどう反応するかな?照れくさいけど、17にもなってやっと初恋なんだ。少しでも彼女と一緒にいたかった。
後になって思うと、この時の僕は浮かれに浮かれていた。ナタリーに夢中になって、ルーカスの存在なんてすっかり忘れて。魔女にも忠告されていたのに。
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