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第一章 姫巫女の祓魔師
エクソシスト
しおりを挟む第一章 姫巫女の祓魔師
「光あれ。」そう言って、神々は天地を創造された。
主・イエス・キリストによって創造された世界・アラシュアに、ある一つの異変が起き始めていたのは、イブハール歴5900年ごろであった。
近頃、人々の間で、墓地から死者がよみがえり、亡霊としてアンデッドのように、幻影をまとった骸骨が人を襲う出来事が起きていた。
その事態を憂い、世界アラシュアの神々の一人・女神アプロディテが、教会のシスターたちに、とある力を授けた。
死者を地に戻し、さまよえる亡霊を救う術・祓魔師としての力を、授けたのである。魔法としてではなく。
なぜなら、魔法の力を使ってそのアンデッドを殺すと、その魂は天国へは行けず、冥界をさまようことになるからである。
死者を真の意味で救うため、シスターたちによる祓魔師集団が形成された。
その者たちを、人は「祓魔師(エクソシスト)」と呼ぶ。
この物語の舞台は、イブハール歴・5986年の春から始まる。
リラの国西部・ホーリークロス教会で、「姫巫女」と呼ばれているシスターの一人がいた。
「さて、今日もお仕事なのです、マリア!」と、アイリスが同僚の少女・マリアに言った。アイリスとマリアは同級生で、22歳だ。
マリアは、名家の出で、幼いころから教会学校で教えを受け、洗礼をうけ、自らシスターとなる道を選んだ。
兄と姉がいたが、二人は出家はしなかった。
マリア・サン=ジェルマンの兄の名は、ラドクリフといった。姉はシルフィーネといった。
第一子の姉のシルフィーネは、魔法学校へ行き、家を継ぐため、医療魔術師として働いた後、6年前、今のマリアと同じ年で、結婚した。今では勤めていたギルドをやめ、婿入り婚ということで、本家のお屋敷で、夫と暮らしている。子供もいる。
第二子の兄のラドクリフは、魔力を生まれつき持っていなかったため、一般の学校へ通い、優秀な成績で卒業した後、科学を学びたい、ということで、リマノーラに旅立った。そこで就職したと聞く。
一方、第三子のマリアは、魔力ももともと少ししかなく、また、幼いころから通っていた教会の教えや神に興味があったため、出家の道を選んだのだった。
15歳で出家し、洗礼名「マリア」という新しい名をもらったマリアは、教会で、幼馴染のアイリスとともに、楽しく働いていた。
教会の仕事と言えば、教会学校の先生役や、大聖堂の掃除、一般人の懺悔を聞くこと、神父様の仕事の手伝い、ミサの進行、祈りをささげることはもちろん、十字教の布教活動など、多岐にわたった。
身長がやや低めであったマリアは、その見た目と出自のよさと法力の強さから、「姫巫女」と陰であだ名され、みんなからかわいがられた。
女神アプロディテが、世界各地のシスターたちに授けた力・退魔の力(法力)は、もともとの魔力に関係なく、洗礼を受けた修行を受けたシスターたちなら、誰でも持てた。才能によるところも若干あったが。
男性には与えられない力であった。神父様には退魔の力はなかった。
祓魔師になるシスターたちは、洗礼の時、10のセフィロトから1個選び、自身の力とすることができた。これすなわち、神から承りし力である。
マリアは「ティフェレト(美)」、アイリスは「ホクマー(知恵)」のセフィロトを、15歳の時、神父様と話し合って決め、退魔の力を授けられた。
祓魔師のシスターたちには、「夜勤」と呼ばれる仕事があった。それは、退魔の力を持つシスターたちと、魔力を持つ神父様たちで、ホーリークロスの町をパトロールし、アンデッドが人々を襲っていないか、チェックする仕事であった。
とある日、マリアは、アイリスと同じチームで、二人一組で、ある地区の巡回を行っていた。夜勤は、一週間に2回ほどある。ホーリークロス教会のシスターたちは約100名、うち祓魔師は50名ほどである。
アイリスは、魔法も使える祓魔師であった。(魔力をもともと宿していた一族であった)
ランタンの灯りのような、光をともす魔法をアイリスが使い、空中にふよふよと浮かんでいる灯の玉をたよりに、暗い中、二人は教会を出発した。
「まだ冷えますわね、マリア」と、アイリスが言った。
「そうね、夜になると、特に」とマリアが答える。修道服は、まだ冬服バージョンだ。
見回りをしていると、どこからか人々の悲鳴が聞こえた。
「マリア・・・・!!」と、アイリスが頷く。
二人はその声の主のところへ駆け出した。
3分ほど全速力で駆け、そのポイントにたどり着いた二人は、おそらく近くの共同墓地から出てきたと思われるアンデッドが、長い刀身の剣で、とある民家の家の扉を叩いたり、ガラス窓を割ったりしているのを見つけた。
2体のアンデッドだ!
「待ちなさい!」と、マリア。
その声に、アンデッドが、変な角度で首をグギギ・・・・・と動かし、マリアとアイリスの方を向く。
二人の姿を認め、二体のアンデッドが「シャーッ」と言って襲い掛かる。
家の中の一般人は、恐怖の声をあげて縮こまっている。
「マリア!」とアイリスが小さく囁く。
「うん、分かってる!」そう言って、夜勤の時のみ身に着けている、紫色のストール(あくまのくびき)をさっと取りだし、
「悪魔(デーモ)・(ン・)虚無(エクス・)から(ニヒ)の(ロ)創造!」と言って、2体のアンデッドにストールをまとわりつかせ、法力(退魔の力)で動きを封じた。魔力はともかく、退魔の力は、マリアが50人のシスターたちの中で一番強い。
「あとは私に任せて!」と、アイリス。
「シャインソード・紅蓮!」と言って、アイリスが2体のアンデッドに切りつける。
アンデッドが「ギャーー」と叫び声をあげて、ケタケタ笑いをし、やがて動かなくなる。
ストールに巻き付かれ、炎で焼かれるアンデッドに、マリアが最後の「救い」の術をかける。
「ティフェレト(美)!よみの国へ還れ!」
マリアの体から光が放たれ、ストールが黄色に光る。
やがて、アンデッドはじゅっと音を立て、昇天していった。
「天国へお戻りなさい。女神アプロディテの名のもとに……」と、マリアとアイリスが十字を切る。
「シスター様!!」と、その後、家から人が出てきた。
「ありがとうございました、シスター様!おかげで助かりました!!」
「当然のことです、迷える子羊よ、」とアイリス。
「さあ、皆さん、割れた窓ガラスの修理をしましょう。私たちも、手伝います」と、マリア。
「おぉ、祓魔師のシスターさんたちが、助けてくださったぞ!!みんな、早く窓ガラスを治そう!」と、家主の男性。
アイリスとマリアの二人は、家の中に迎え入れられ、アイリスは魔法を使い、割れた窓ガラスを修復してくれた。
お礼を言われ、二人は家を後にした。
「さあ、次の地区へ向かわないと!」と、マリア。
「そうね、マリア」と、アイリス。
こうして、夜は更けていった。
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