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アデュー・トリステス ~月明かりの夜、今度こそ、君と~

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1 受肉

 ここはどこだ?俺は誰?記憶が……ぼんやりとだが、ある……だが、はっきりとは、思い出せない……。
 頭痛もする。なんだ、ここは……?やけに、温かい場所だが……。

 俺は頭上を見上げる。そこは温室のようなところだった。透明なガラスケースのような部屋に、俺は入れられている。とても暖かいところ、居心地のいいところだ。どうも今は時刻は夜らしい。俺は自分を見た。服を着ていない。代わりに、白い毛布がかけられている!

 ここは、本当に温室らしい。背後には、樹木が生い茂っているし、世界中の植物を集めたかのような、植物が生い茂っている。展示してある花々が、競うように咲きほこっている。

 ここはどこなんだ……?俺の名は……?俺は、今まで何をしていた……?
 なにも、思い出せない……。

「ようこそ、少年……魂が宿ってから、体と一致するまで、まる1日は普通かかるものです、安心なさい……」と、女性の声がした。
 見れば、美しい身なりをした女性が一人、立っている。温室の入り口に。
「星が綺麗ですよ、少年。流れ星です。さあ、見てみなさい」と言って、温室のガラス越しに、流れ星を見るように、と女性が言った。にっこりと微笑んでいる。

「あなたの名は……」と、女性が言ったところで、俺の記憶は途切れた。


2 宮殿

 一行は、目を開けると、そこは水の流れる小さな水路のある、美しい宮殿の前だった。経験のないシュザンヌにもわかった、「ここがイブハールなんだ、」と。そこまで、宮殿は美しかった。マグノリア帝国の、白亜の神授より、違った意味でまた美しい。聖なる場所、という表現が正しい。
「ようこそ、皆さん」と、エルフの一団が、すでに出迎えに来ていた。
 一行と言っても、シュザンヌは、そう思っていたのだが――周りを見渡すと、カルロス、アンドレイ、シャーウッド、イヴォル、ドラゴンたち6体はいるのだが、クロードとマリウスとセルフィちゃんがいない。
「あ、あの、従兄……クロードは……」と、シュザンヌが思わず口に出した。
 一人の男性のエルフが、前に進み出て、にっこりと微笑む。
「国で腕利きと評判の医者にみせています。ご安心ください。重症とまではなかったですし、致命傷もなかったですし。一応、出血はひどかったのですが、それもシャーウッドが止めてくれたようですしね」
「はっ」と、エルフのシャーウッドが跪く。
「わたくしは、マラルメというエルフです。王族ではありませんが、一応政治においてある立場についております。シュザンヌさん、ドラゴンさんたちの傷の手当も、我々にお任せください。それから、マリウスさんとその娘さんについては、別室でお召し物をご用意しておりますので、ご安心を。この度は、長い旅路、お疲れさまでした」と、マラルメが頭を下げる。
「いえいえ、とんでもございません。ありがとうございます」と、顔を真っ赤にして、シュザンヌが慌てて答える。
「さて、王子……」と、マラルメがカルロスの方を向く。
「勝手に国を抜け出したと思ったら、まったく、あなたという方は……。まぁいいでしょう、あとでゆっくりお話はお伺いしますよ。それより、シュザンヌさん、お疲れでしょう。あなた用の寝室にご案内いたします。さあ、こちらへ」
 その時、アンドレイが、別れ際に、
「俺もあんたのこと、一応ねらってたんだがな」と、冗談っぽく言った。シュザンヌとしては、微笑んでいいのか、困った顔をするべきなのか、わからなかった。
「ハンス殿との幸せを祈っております、シュザンヌ殿」と、イヴォルが言う。
「イヴォルさん、アンドレイさん、シャーウッドさん、、私たちに力を貸してくださって、ありがとうございました!」と、シュザンヌ。
「シュザンヌ殿、また、あとで」と、カルロスが言って、苦笑しつつマラルメから別のエルフのところへ行く。どうやら、王族として、行くべき場所があるようだ。
 シュザンヌは、マラルメについて行った。他に、女性のエルフも何人か、ついてきてくれた。
「明日の朝、タイプ15のあなたのトリステスを、タイプ20のトリステスにする、つまり、貴方をエルフとして我々一族に迎え入れる儀式を致します」と、マラルメが説明した。
「今日はとにかくゆっくり休まれてください。お食事も、部屋にお運びいたします」
「ありがとうございます」シュザンヌが、やや緊張して言う。

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