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第六章 マリウス・ホフマン

ユニコーンの少女たち

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「分かった。事情は呑み込めた。あとは、今日か明日、ユニコーンの少年少女たちに会って、ドラゴンの里へ行く手助けを頼んでみることかな。こちらの事情も伝えて、と……。もちろん、君たち一行の事情のことだよ、クロード君。彼らは、君たちのような、困っている人間のことには、耳を貸してくれるかもしれないからね」
「分かりました。そこは、マリウスさんに交渉を頼みます。俺からも、話はしますが」
「うん、まぁ、僕に任せて。これでも、彼らに一度は会っている身だから」
 そう言って、二人はシュザンヌとノエリアの待つ野営地へと戻った。
「今日のうちにでも、ユニコーンの少年少女たちの住む家までは行ける距離だけど、あえて明日の朝、余裕をもって行こうと思う。それでいいね?」と、マリウスが念を押す。
「はい、マリウスさん!」と、シュザンヌ。
(きっと、いい方向へことは動くと思う)と、マリウスの首筋から出てきたセルフィが、シュザンヌの周りを飛んで言う。
「ありがとう、セルフィちゃん」
 その後、一行はシチューを頂き、床についたのだった。
 その晩、シュザンヌは夢を見た。ハンスがいる夢だ。
「ハンス!」と、シュザンヌはハンスに向かって駆けだした!「無事だったのね!」と、彼女は言った。
「シュザンヌ……」と、ハンスがこちらを振り向く。どこか青白い顔をしている。
「シュザンヌ、俺たち、さようならしないといけないんだ……」
「え?」
「シュザンヌ、これは、さよならへのプレリュードなんだよ……」と、ハンスは言って、青白い顔のまま、くるりとシュザンヌに背を向け、立ち去ろうとした。
 慌てて、シュザンヌがその手をつかもうとする。
 気が付くと、暖かかった夢の中と違って、びゅうびゅうと風の吹く、吹雪の朝だった。
 涙が一粒、つつー……と、シュザンヌの頬を伝っていた。
 見ると、マリウスがすでに起きだし、丸太の椅子に座って、セルフィと指で戯れている。マリウスは、中央のたき火をじっと見つめている。
 シュザンヌは、泣いているのを見られたくなくて、思わず寝返りを打った。なぜ自分は泣いているのだろう……そうだ、昨日見た夢のせいだ。ハンスが、あんなこと言うから……。
 『さよならへのプレリュード』。これは、聞いたのは2回目だった。一度、そんな夢を見た。遊園地で、迷子になり、最後に『さよならへのプレリュード』と言われる夢。
 一体どういう意味なのか。なぜ同じような夢を二回も見るのか。ただの夢ではない気がして、彼女はぞっと寒気を覚えた。
 その時、マリウスがはっとして丸太から立ち上がった。
「お久しぶりです、マリウスさん……」
 その声に、クロードが目を覚ます。
「貴方がおひとりではなく、大勢を連れて来たので、手紙のお約束を変えて、こちらから出向かせていただきました。僕たちユニコーン側の安全のためでもありますが……」
 それは少年だった。まぎれもない、普通の美少年。落ち着いた雰囲気。不思議な雰囲気をまとっている。
「フォーマルハウト君……!!」と、マリウスが言った。
「マリウスさん?この方はもしかして……」と、クロード。
「うん、クロード君。この人が、僕が話していた、ユニコーンの少年だ。僕たち一家を助けてくれた恩人だ」
「そこのお嬢さん」と、フォーマルハウトと呼ばれた、15歳ぐらいに見える金髪の少年が、シュザンヌに向かって言った。
「貴方が見られた夢は、僕が天界からの予言を伝えたものです。僕の声、お聞きになったことがおありでしょう?」と、フォーマルハウト。
「貴方、もしかして……『さよならへのプレリュード』って、もしかして、貴方が……?」
「そんなところです」と、フォーマルハウトが言って肩をすくめる。
「それよりマリウスさん、僕らもちょっと驚きです。まさか、二度目にお会いするのが、こんなにも早く、そして、ましてやご自身のことではなく、他人のために僕らを呼んだことが」
「そのことに関しては、謝る、フォーマルハウト君!」と、マリウスが軽く頭を下げる。
「いいんです、マリウスさん。それより、あなた方……あなたとセルフィちゃんは、お元気ですか。お変わりないですか」
「ああ、そのことに関しては。大丈夫です、フォーマルハウト君。セルフィも、僕と勉強を続けている」
「そうですか、それはよかった」
「今日君を呼んだのは、僕の後輩にあたる、クロード・グラニエ君及び、彼の守るべき人であるシュザンヌちゃんに関することなんだ」
 フォーマルハウトの視線が、マリウスとセルフィから、シュザンヌ・ノエリア・クロードの3人にうつる。
「彼女のことは、大体の事情は分かっていますし、知っています、マリウスさん。前も言いましたが、ユニコーンとはこの世界アラシュアの魂の守護者、魂の導き手なのですから……。心のただしき者で、困っていらっしゃる方がいれば、助けるのがユニコーンの役目です」
「しかし、フォーマルハウト君、君はシュザンヌちゃんとは会ったことはないはず……。まぁ、いいか、君もご存じなのなら、話は早いね。フォーマルハウト君、君はクロード君のことは知っていますか?」
「僕が知っているのは、シュザンヌさんと、その婚約者ハンスさんのことのみ。ハンスさんにも、夢を通じて、『さよならへのプレリュード』のことは伝えておきました」」
「……」マリウスが絶句する。
「それじゃあ、クロード・グラニエ君と、ノエリアちゃんのことは、僕から説明してもいいかな」と、マリウスがフォーマルハウトに言う。
「ええ、お願いします、マリウスさん」
「シュザンヌ!」と、ノエリアが小さく叫び声をあげ、シュザンヌに語り掛けた。
「フォーマルハウトさんの影、ユニコーンの角とたてがみが見える……!影だけが……」
「しっ、ノエリア。今は、黙っておきましょう」と、シュザンヌ。
 フォーマルハウトの外見は、角も生えていないし、普通の少年なのに、ノエリアの言った通り、影だけはユニコーンの形をしていたのだった。
「こちらは、改めて紹介しよう、シュザンヌちゃんの従兄にあたる、クロード・グラニエ君。僕が宮廷で働いていたとき、新人として入ってきた、部署は違うが後輩にあたる人だ。護衛チームの一員だった方だ。魔力の腕は相当、剣の腕も相当だ。それから、こちらはノエリア・ギヨンちゃん。シュザンヌちゃんの、幼少期からの親友だ。これまでの経緯を説明すると……」
「僕からも紹介します」と、クロード。
 マリウスとクロードによる、一行の旅の目的及び紹介が終わると、フォーマルハウトは「ふむ」と相槌を打ち、しばらく押し黙ったまま、遠くを見つめるような目で空を見ていた。
「なるほど、大体の事情はつかめました。我々としても、ドラゴンに会わせたいのはやまやまですが……」
 そういって、フォーマルハウトは、背後にいる二人の少女(どちらもユニコーンの少女だ)をちらりと見やった。
「クロード・グラニエくん、君が悪魔と契約しているのだけは、見逃せませんね」
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