上 下
31 / 93
第四章 砂漠の国ハシント

クロードVSハシントの魔法使い

しおりを挟む
クロードだけでなく、ノエリア、シュザンヌも、三人とも、「また騙されているのだろうか」という思いはあったはずであった。しかし、どんなものでもいいから、手掛かりとなる情報が欲しいのもまた事実であった。
「そのお申し出はありがたく存じますが、あいにく我々は―――」とクロードが言いかけた途端、
「その方に会わせてください!私はノエリア、ノエリア・ギヨンと言います」と、ノエリアがベンチから立ち上がって、その男に言ってしまった。
「ノエリア、あんまり本名を旅の途中で口にするなって……」と、クロードがノエリアにささやく。思わず、彼女を止めようと、彼はノエリアの手を引いて、ベンチに座るよう言ってみた。
「クロード、止めないで。今までとは違うタイプの情報が手に入りそうじゃない。その人に、会ってみましょうよ!今は、どんな情報でもほしいでしょ。たとえその情報が違っていたとしても、それでもそれも覚悟の上で、探してみないと、見つかるものも見つからないわ。質より量で勝負よ。下手な鉄砲も数撃てば当たるっていうじゃない!」
「お嬢さんによれば、我々の情報は、どうやら嘘と思われているようで」その男がにこやかな笑みを崩さず言った。
「あっ、いいえ、とんでもない。ただ、そういう可能性もあるってことで……。私たち、なにぶん、この三日間で、かなり騙されてきたものですから……」と、ノエリアが顔を真っ赤にして言う。
「いいんですよ。お気になさらず。我々の情報は、実はドラゴンに関するものからは少し離れたものでして。ドラゴンの里についての情報はないのですが、ユニコーンに関する情報を持っているのです。それをあなた方に提供したいと、その方がおっしゃっています」
「ユニコーンね、なるほど」とクロードが言った。
「伝説というか、噂には聞いています。ユニコーンの中には、ドラゴンと通じるものもいる、と。貴方は、そのことをおっしゃっているのですね。まずユニコーンに会って、そこからドラゴンへ通じる手がかりはないか、探してみるのも一興、ということですか」
「ええ、まさにおっしゃる通り」
「分かりました。そのお話、お伺いしましょう。ただし、その方に会いに行くのは、俺一人で……」
「いいえ、私たちも行きます!」とシュザンヌ。
「お前たちは危ないからここで待ってろよ」とクロードが二人にささやいた。
「私にもできることはあるかもしれないわ!役に立てるかもしれない。行ってもいいでしょ?」シュザンヌは引き下がらない。ノエリアも頷く始末だ。
「分かった……ただし、俺から絶対に離れるなよ」
 そういって、3人はその男に案内されて、バザールの町の喧噪からやや離れた、街の中の路地裏のようなところに入っていった。と言っても、乾燥した赤茶色の土でできた建物が多く立ち並ぶため、日がややかげって、少し薄暗いだけであったものの。
 15分ほど歩いて、三人はとある4~5階建ての建物の中に案内された。
「ここがそのお方の住むお屋敷です。どうぞ、中へ。靴はもちろん、履いたままで結構です」
「分かりました」と言って、クロードがまず先に入る。
 雰囲気の良い玄関だった。観葉植物のような縦に長い植物が、玄関口の左右に飾られている。赤茶色というより、レンガ色、オレンジ色の、落ち着いた雰囲気の壁には、いくつかの小さな絵画が飾られており、それが、その「お方」の財力を示しているように感じられた。
「どうぞ、奥へお進みください」と、男が手で指し示す。
 クロード、ノエリア、シュザンヌの順で中へ進んでいく。少し長めの廊下だ。クロードは、相変わらず、表には出さないが、警戒は解いていない。
 召使いと思われる二人の女性が、廊下の終わりを告げる、大きめの扉を静かに開けた。扉には、草模様の装飾。
 扉を開けた先には、中央に鎮座された、立派な椅子に座る、一人の男がいた。左右には、二人の、少し変わった衣装を着た男が、二人立っている。
 中央の男が、クロード達一行を見るなり、椅子から立ち上がって、両手を広げ、歓迎の意を示した。歳は30代か40代半ばだろうか、まだ若いが、ある程度歳をとっていることは伺える。
「ようこそ、いらっしゃいました、クロード様。お話は伺っております」
「こちらこそ、お招きいただいてありがとうございます」クロードが、ちょっとした違和感を感じつつも、挨拶を返した。
「見たところ、お連れ様お二人は、女性のようで」
 その立派なマントを着た男が、ノエリアとシュザンヌをじろっと眺めた。
「これはいい商品になりそうですね」と、その男が言った瞬間、召使いの女性二人が、3人の後ろの、入ってきた大き目の扉を、手早くしめ、ガチャンと大きな音をたてて、鍵をしめた。
 とっさに、クロードが、ノエリアとシュザンヌ二人の手を握る。そして、二人を自分の近くに引き寄せた。
 よく見れば、男の背後にあった隠し扉から、武装した男たちが、7~8人、ぞろぞろと出てきた。みな、盗賊風情の恰好をしている。今までの温厚そうだった部屋の雰囲気が、一気にガラリと変わる。
 ノエリアが、「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。一方のシュザンヌは、戦闘態勢に入った従兄の雰囲気を察知し、自分も、魔法の剣を出して、役に立とうと、詠唱を始めたところだった。しかし、いかんせん、困ったことに、シュザンヌの魔法の力量では、詠唱しだしてから2~3分しないと、剣を出すことはできない。彼女はもともと戦闘系の魔法なんて習っていないし、魔法の訓練も、たいして受けていないのだ。
「シュザンヌ、やめろ、ここは俺がなんとかするから、お前はノリエアを連れて、部屋の隅へ……っと!」
 クロードが指示を出そうとしたとき、武装した盗賊の一人が、うなり声をあげて3人につっかかってきた。
 クロードは、ちっと舌打ちし、「シャインソード」と小さく呟いて、右手に、彼自身の魔力を使ってできた光の剣を作り出した。しかし、その一瞬、彼は右手に握っていたノエリアの手を、離した。
 クロードは、剣を片手に、二人の前に立ち、かばうようにして、その男と応戦した。クロードと、数人の男が、キーン、という音を立てながら、剣で応戦していく。
 シュザンヌは、はっとして我に帰り、とっくにやめていた詠唱のことは忘れ、ノエリアの手を引いて、部屋の安全なスペースへ逃げようとした。しかし、召使いの女性二人も、気づけば長い槍のような剣を手にして、じりじりと二人にせまってくる。
 クロードの方は、一計があったので、それをすることにした。彼の強力な魔法の剣なら、盗賊の男たちの持つ、金属でできた普通の剣ごと切ってしまうのは簡単であった。
 彼は、魔法の剣で彼らの剣をはじき、剣ごと切り伏せつつ、詠唱を始めた。
 片手で剣を、片手で詠唱のための魔法陣を、空中に描く。
「我、詠唱せす、ここに誓う、来たれ、イフリート!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない

あとさん♪
ファンタジー
わたくしが卒業する年に妹(自称)が学園に編入して来ました。 久しぶりの再会、と思いきや、行き成りわたくしに暴言をぶつけ、泣きながら走り去るという暴挙。 いつの間にかわたくしの名誉は地に落ちていたわ。 ずるいずるい、謝罪を要求する、姉妹格差がどーたらこーたら。 わたくし一人が我慢すればいいかと、思っていたら、今度は自称・婚約者が現れて婚約破棄宣言? もううんざり! 早く本当の立ち位置を理解させないと、あの子に騙される被害者は増える一方! そんな時、王子殿下が彼女を引き取りたいと言いだして──── ※この話は小説家になろうにも同時掲載しています。 ※設定は相変わらずゆるんゆるん。 ※シャティエル王国シリーズ4作目! ※過去の拙作 『相互理解は難しい(略)』の29年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の27年後、 『王女殿下のモラトリアム』の17年後の話になります。 上記と主人公が違います。未読でも話は分かるとは思いますが、知っているとなお面白いかと。 ※『俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~』シリーズ5作目、オリヴァーくんが主役です! こちらもよろしくお願いします<(_ _)> ※ちょくちょく修正します。誤字撲滅! ※全9話

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...