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第四章 訪れた旅人

解けた謎

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見れば、ヨハンネスの顔には、顔一面にひっかき傷のようなものがあり、赤く血がにじんでいる。ヨハンは軽く涙目だ。
「お兄ちゃん、どうしたの、その顔……!!」
「ジーーゼーールーー……これにはふかーいわけが……」そう言って、ヨハンがフッと髪の毛をはらう。
「いやぁ、ちょっと猫探しの途中にね……!」とヨハン。ジゼルが、
「お兄ちゃん、こっち来て、治療してあげる」と言った。
 結局、信者が座る会衆席に座ったヨハンを、ジゼルが、
智天使ケルビム救済サリュ」と言って、いつものように治してあげた。
「いてて……」と言いながら、「ありがと、ジゼルちゅわん……」というヨハン。
「それより、お兄ちゃん、大変なの!!失われた鎖ミッシング・リンクの謎が解けたの!!しかも、二つも!!」
「んあ?なんだって?」と、ヨハンネスが前髪をかき分けながら言う。
「え?解けちゃったの??マジで??」と、ヨハンが周りをキョロキョロして、司祭様やシスターたちの様子をうかがう。やや、気が動転しているようだ。
 司祭様やシスターたちが、「マジ、マジ」と言って頷く。
「シェトランドという国から来た、コンラッド君という若者が、教えてくれたんだが……」と言って、司祭様がヨハンネスに説明する。
「ふーむ……」と、手を顎にあてて、ヨハンが渋い顔をする。
「おふくろからのメッセージが、成人したら旅に出よ、目指すべきは海、か……」
(なーんか、おふくろっぽくないっつーかなぁ……)と内心思いつつ、ヨハンはジゼルをちらりと見た。
 ジゼルはジゼルで、謎が解けたことで、だいぶ気分が高揚しているようだ。目をキラキラ輝かせている。
「実はね、ヨハンネス君……」と、司祭様が、手を後ろで組んで、言う。
「君たちリューベック兄妹あてに、君たちの母上様からの手紙を、司祭様は一通、預かっている。中身は、もちろん開けていない。ヨハンネス君、君が成人した暁に、渡すように、との仰せだ。来月、だったかな、君の誕生日は」
「はい、司祭様」と、ヨハンネス。
「うーむ、今渡すべきか、それとも、母上のおっしゃる通りに、来月渡すべきか……」と、司祭様が悩みこむので、ヨハンが笑いながら、
「結構です、司祭様。おふくろがそういうんなら、来月、頂きます」と、言い、ヨハンはジゼルを連れて教会を出た。
 春の風に吹かれながら、ヨハンがジゼルの手を握る。
「お兄ちゃん、私たち、旅に出るのかしら……」
「ジゼル……」
「だって、お母さまからのご命令だもの!!旅に出なくちゃ、行けないの?」
「……そいつは、お母さんからの、俺への手紙を読んでから、判断しよう、ジゼルちゃん!!俺は、それでも遅くないと、思ってるよ!」
「うん、お兄ちゃん……」そう言って、兄妹二人は、仲良く運河沿いの道を歩いて行った。
いつものように。
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