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過去:野田優臣

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 圧勝だった。ちょっと物足りないくらい弱かった。
 地面に転がった男三人から財布を抜き取り、中から札だけを引き抜く。一部始終を目の当たりにしている野田が絶句しながら俺を見ていて、抜き取った計一万八千円を扇に広げて野田へと差し出した。

「ほらよ。治療費に使えよ」
「治療……費?」
「怪我してんだろ? こいつらに負わされた傷だ。貰って当然だろ?」

 野田は学生鞄を抱きしめたままふるふると首を振った。

「い、い……要らない。大丈夫……」

 怯えてる。俺のせいか……? そりゃそうか。

「から……沢くん、だよね?」

 恐る恐る聞いてくる野田が、そろりとこちらに近づいて来て、伸びている男三人に息を飲む。
 変装しているのに、バレている。まぁ、でも……大体バレるんだけど。うまくやり過ごせた経験はほとんどない。それでも無駄なあがきを俺は止めない。諦めるつもりはない。

「ほら、いいから貰っとけよ」
「要らないよ。人のお金だし」
「お前、こいつらに情けでもかけてんの? 殴られて蹴られて、カツアゲされたのに? ……制服だって汚れてんぞ?」

 うちの制服は薄めのグレーだ。汚れが良く目立つ。だから俺は絶対にこの制服を汚したくない。血も泥も、よく目立つから。

「治療費とクリーニング代だな。一万八千円。足りるか?」

 野田はむっとしながら俺を睨み上げ、頑なに首を振った。

「助けてくれてありがとう。すごく助かったよ。だけど、それは受け取れない」

 頭のかたいやつだ。真面目を絵に描いたような……。

「あ、そ。じゃこれは俺の“お駄賃”だな」

 そう言って一万八千円を別の財布に仕舞い込み、俺は駐輪場へと戻った。ウインドブレーカーをメットインに仕舞うためだ。だけど、その後ろを野田がついてくる。

「ダメだって! 返した方がいいよ、お金!」

 うるさいな……。

「また狙われたらどうするの!? 学校はもう特定されちゃってるんだよ!?」
「そしたらまた蹴散らせばいいだろ?」
「そういうことじゃないでしょ! 返そうよ、まだ間に合うから!」
「うるさい。だったらお前の一万八千円を奴らに財布に戻しておけよ」
「は……、はぁ!?」

 野田は素っ頓狂な声を出したが、駐輪場を出る俺の後を慌ててついてくる。そしてまだ路地裏で伸びている男三人を横目に学校へと歩き出す。

「ちょ、ねぇ! 柄沢くんってば!」

 今、一人起きてたな。
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