69 / 160
第九章:ゼロ距離
7
しおりを挟む
テレビの前にしゃがみ込んでいる日下さんの背中を見つめる。また涙を拭い直す仕草。そして、すっくと立ち上がり、俺を振り返った。
赤くなっている目が、俺を捉える。
ヤバイ。俺いま、顔面緑色にでもなっているかもしれない。こんなに緊張したの……何年ぶりだろうか?
だけど、視線を逸らすことも出来ない。答えを……、聞かなきゃ。
日下さんは右手にディスクを持ったまま何か言いかけて、ぐっと口を噤むと俺の隣まで歩いてきた。そして左手が伸びてきて、俺は性懲りも無くドキっとして身を縮めたが、実際彼の手はDVDのケースを取っただけだった。
どぎまぎしながら、すぐそこにいる日下さんをちらりと盗み見る。
それに気付いた日下さんが俺に目配せして、ディスクをケースにカチっと収めると、それ持ったまま ”もう我慢の限界だ” と言わんばかりにくっくと肩を揺らして小さく笑った。
な……、なにが可笑しいんだよ!! すげぇ失礼だな、てめぇ!!
カッと顔が熱くなった。だけどすぐに日下さんは俺に向き直ってDVDケースを見せる。
「アイドルだろ? こんなの、全国のファンが失望する」
あぁ……そうだろうよ。けどそれがなんだって言うんだよ。俺だって人間なんだ。人を好きになる感情くらい持ってる。女に取られるくらいなら男に取られた方がましって言い張る女は、世の中に溢れかえってるだろう。ファン一筋の芸能人なんか居るわけねぇんだ。
「バレなきゃ問題ない」
「僕に口止め?」
日下さんは目を丸くする。
あぁ、もうお終いだ。口止めとか言われた時点でこの恋は終わった。一人芝居な片思いだったな。
自然とため息が出た。
「どうせ言えないだろ? 男から告白されたなんて」
もはや投げやりだった。俺は日下さんから離れて、テレビの前に置き去りにされている自分の鞄へと向かった。
傷は浅いと思い込む。好きだって気付いたのはつい最近だ。だからこんなの……なんてことないさ。ちょっと、人としても大好きで、尊敬出来て、すげぇ憧れていた人と、バイバイするだけ。
なんてことないさ。
「確かに言えないね」
後ろから聞こえる冷徹な返答。
……人として好き? 憧れ? 尊敬? いいや、この人たまに鬼だぞ。
鞄を掴む。だけどその時気付いた。
俺、手……震えてる。
ぐっと力を込めて鞄を掴み上げるとそのまま肩に引っ提げた。一緒に暮らし始めておよそ一年。これで終わる……。昨日、草食系男子になると誓っておきながら、やっぱ無理だったな。そんでやっぱがっついたらこの結果だ。ざまぁねぇよ。
赤くなっている目が、俺を捉える。
ヤバイ。俺いま、顔面緑色にでもなっているかもしれない。こんなに緊張したの……何年ぶりだろうか?
だけど、視線を逸らすことも出来ない。答えを……、聞かなきゃ。
日下さんは右手にディスクを持ったまま何か言いかけて、ぐっと口を噤むと俺の隣まで歩いてきた。そして左手が伸びてきて、俺は性懲りも無くドキっとして身を縮めたが、実際彼の手はDVDのケースを取っただけだった。
どぎまぎしながら、すぐそこにいる日下さんをちらりと盗み見る。
それに気付いた日下さんが俺に目配せして、ディスクをケースにカチっと収めると、それ持ったまま ”もう我慢の限界だ” と言わんばかりにくっくと肩を揺らして小さく笑った。
な……、なにが可笑しいんだよ!! すげぇ失礼だな、てめぇ!!
カッと顔が熱くなった。だけどすぐに日下さんは俺に向き直ってDVDケースを見せる。
「アイドルだろ? こんなの、全国のファンが失望する」
あぁ……そうだろうよ。けどそれがなんだって言うんだよ。俺だって人間なんだ。人を好きになる感情くらい持ってる。女に取られるくらいなら男に取られた方がましって言い張る女は、世の中に溢れかえってるだろう。ファン一筋の芸能人なんか居るわけねぇんだ。
「バレなきゃ問題ない」
「僕に口止め?」
日下さんは目を丸くする。
あぁ、もうお終いだ。口止めとか言われた時点でこの恋は終わった。一人芝居な片思いだったな。
自然とため息が出た。
「どうせ言えないだろ? 男から告白されたなんて」
もはや投げやりだった。俺は日下さんから離れて、テレビの前に置き去りにされている自分の鞄へと向かった。
傷は浅いと思い込む。好きだって気付いたのはつい最近だ。だからこんなの……なんてことないさ。ちょっと、人としても大好きで、尊敬出来て、すげぇ憧れていた人と、バイバイするだけ。
なんてことないさ。
「確かに言えないね」
後ろから聞こえる冷徹な返答。
……人として好き? 憧れ? 尊敬? いいや、この人たまに鬼だぞ。
鞄を掴む。だけどその時気付いた。
俺、手……震えてる。
ぐっと力を込めて鞄を掴み上げるとそのまま肩に引っ提げた。一緒に暮らし始めておよそ一年。これで終わる……。昨日、草食系男子になると誓っておきながら、やっぱ無理だったな。そんでやっぱがっついたらこの結果だ。ざまぁねぇよ。
2
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
僕の大好きな旦那様は後悔する
小町
BL
バッドエンドです!
攻めのことが大好きな受けと政略結婚だから、と割り切り受けの愛を迷惑と感じる攻めのもだもだと、最終的に受けが死ぬことによって段々と攻めが後悔してくるお話です!拙作ですがよろしくお願いします!!
暗い話にするはずが、コメディぽくなってしまいました、、、。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
とある隠密の受難
nionea
BL
普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。
銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密
果たして隠密は無事貞操を守れるのか。
頑張れ隠密。
負けるな隠密。
読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。
※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。
運命の番と別れる方法
ivy
BL
運命の番と一緒に暮らす大学生の三葉。
けれどその相手はだらしなくどうしょうもないクズ男。
浮気され、開き直る相手に三葉は別れを決意するが番ってしまった相手とどうすれば別れられるのか悩む。
そんな時にとんでもない事件が起こり・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる