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第二章:そばに居られる条件

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 大きめの交差点を突っ切り、河合印刷と書かれた看板の角を右に曲がる。大きな真っ黒の四角い家の角を左に曲がり、突き当たりの川べりを右に進むと、僕の住むアパートが見えてくる。

 彼を按ずる気持ちがどんよりと頭のてっぺんから僕を押しつぶそうとしているようだ。白い息さえ、くすんで見えた。

 隣接しているバスケットのフープで、一人の少年が慣れた手つきでゴールを決めている。
 ここでシュート練習をしている人を見るのは久しぶりだった。日中は近所の子供たちがよく遊んでいるけど、こうやって夜に練習している人を見るのは、どれほどぶりだろうか。
 じろじろ見るのも失礼かと思い、僕はそのままアパートに戻った。エレベーターに乗り、三階で扉が開く。その瞬間、僕の目に赤い自転車が飛び込んできた。

 急いで玄関のドアノブを回したけど、ちゃんと施錠されている。

「そりゃ、そうか!」

 慌てて鍵を開けて中に入った。

「加藤君っ」

 靴を脱ぎ散らかし部屋の中に入ったけど、そこはもぬけの殻だった。寝室にいるのかと思いドアを開けたけど居ない。トイレかと思い扉を叩いたけど返事はなく、そろりと開けるとやはり誰もいなかった。お風呂もキッチンにもいない。ただ確実なのは自転車が置いてあったことと、ここに小さな鞄が置いてあることだけ。

「帰ってきた……生きてる。やばい、帰ってくる」

 そう。鞄があるということは確実にいずれ部屋に戻ってくる。
 まずは謝らなくちゃ。店で会った時のことを。そしてもうあんまり心配をかけさせないで欲しいと伝えたい。
 だけどそれってちょっとウザいかも? 相手はヤクザかもしれないわけだし、どう切り出せばいいのだろう?

 悩んで悩んで出て来た答えは、やはり何も詮索しないということ。外であっても他人のふりをして、今後も引き続き何も詮索しないから、ここに帰って来て欲しい。どれだけ考えてもそれ以外の答えは出てこない。それをウザがられたのなら、もう諦めるしかない。このミステリアスでスリリングな毎日を。

 それにしても、どこに出掛けてしまったのだろうか? ソワソワして全然落ち着かない。どんな顔をして迎え入れるべきだ? 平然とおかえりと言うべき……だよな、きっと。

 もう訳が分からなくなりだし、僕は気持ちを落ち着かせるためにテレビの前に座り込んだ。立っているからソワソワしちゃうんだ。落ち着け……僕。

 テレビも音楽もラジオすら付けず、加藤君を待つ。部屋の中にはただ時計の音だけがチクタクと鳴り響いた。五分、十分、十五分──。

 彼は帰ってこない。
 最寄りのコンビニは川を挟んだ向こう側。歩いても五分かかるかどうかってところだ。そろそろ帰って来ても可笑しい時間じゃない。それなのに 一向に彼は帰ってこない。

「なんでこんなにすれ違いなんだよ」

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