上 下
27 / 61
第二章:約束

しおりを挟む
 その勢いは俺を圧倒した。

「いいなぁ。やっぱり土田さんは優しい人だ! 貴方に担当してもらう新郎新婦は幸せ者ですね! そんな風に、一緒に、親身になってくれるプランナー……、俺やっぱりいつか結婚する時は、あなたのいる式場で挙げたいです! 貴方にお願いしたい!」
「ご結婚のご予定でもあるんですか?」

 思わず聞いてしまう。

「ない! ないんですけども!」
「無いんじゃないですか!」

 ツッコむと、彼はコロコロと楽しそうに笑って、「だって、愛し方が分からない」と笑い飛ばした。どうしてそんなに「人を愛すること」が苦手なんだよ。

「昔から苦手なんですか?」
「ん? 何がです?」

 とぼけるところじゃないだろ。
 そう思うが、悪気もなさそうだ。

「人を愛することですよ。今まで好きだなとか、可愛いなって思った彼女、一人もいらっしゃらないんですか?」
「いや……、なんだろうな。愛せないというよりは、もしかして好きになるのが怖いのかもしれないですね」

 無駄に、心臓を一突きされた気がした。
 怖い?

 理解が追い付かないわけじゃない。でも、一番に思ったのは「一人の方が怖いだろ」という思いだった。
 でも、そうじゃないのだ。この人は誰かを好きになって傷つくくらいなら、一人の方がいいと思っている。俺とは少し違う。俺はだって……。

「俺は、一人は……嫌です」

 脳裏に浮かぶは、夢の欠片。
 俺の名前を叫ぶ誰かが、顔の見えない誰かに引き摺られて姿を消してしまう。「彼を助けて」「お願い」「離して」と叫んで、足の動かない俺を……一人にするんだ。

 でも、俺が「行け」と言った。確かにそう言った。だけど本当は、この足を引きちぎってでも一緒に居て欲しかった。邪魔な足なら切り落とせばいいんだから。それで少しでも俺の体が軽くなるのなら、そうでもして一緒に連れて行って欲しかった。離れたくなんかなかったんだ、本当は。

 だから俺は……俺は、あぁ、そうだ。真っ赤な空を見て思った。

「来世でもいい……今度こそ、一緒に、と」

 そうだ。

 俺はそう祈った。そう祈ったんだ──!

 目の前が一気に拓けた気がした。
 華頂さんは俺の言葉にきょとんとし、「来世?」と聞き返す。

 そうだよ、来世だ。俺……っ、夢の中で何度もそれを祈った!

「……えぇ、来世です。来世でもいいから、俺は、好きな人とずっと一緒に居たいと、そう思います」

 誰と一緒に居たかったのかは分からない。だけど、俺の名前を叫んで連れて行かれた人は、俺の愛する人だったのだろう。

 華頂さんは俺の言葉に恥ずかしそうに微笑むと、「いいですね」と囁いた。

「そんな風に愛してもらえる女性は、幸せ者だ。羨ましいな。俺が立候補したいくらいだ」

 そんなどうしようもないことを言って、華頂さんはアイスコーヒーを一口飲むと、「ちょっとお手洗いに失礼します」と席を立った。

 目の前から華頂さんが居なくなり、俺は誰にも気付かれないように、涙を拭いた。

 トイレに行ってくれて良かった。夢の内容を思い出して泣いているなんて……、知られたくはないから。

 泣き叫びながら連れて行かれたキミは……、

「……一体、誰なんだ」




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

処理中です...