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第六章

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「――初めてっだったんだ」

「え、何が?」

「誰かに話しかけてもらったの、井瀬塚が初めてだったんだ」


 祥に、園山が転入してきた当初の記憶がよみがえってくる。

 だが始めは、ヘッドホンを付けっぱなしのクラスメイトを怪訝な目つきで睨みつけるだけだった。


「でもあれ、話しかけるっていうか、怒鳴りつける感じじゃなかったか」


 確か園山への第一声は『おいお前、ヘッドホン外せ』だった気がする。


「それでも嬉しかったんだ、毎日毎日話しかけてくれて。このままヘッドホン外さなかったら、ずっと話しかけてもらえるんじゃないかって思ったりしちゃった」


 そんな中、祥の怒りが爆発して園山を殴ろうとしてしまった。やはりあの時、心を読んで攻撃を見切っていたそうだ。


「でもね、それ以上に、井瀬塚の真っ直ぐな性格が好きになったんだ」

「ていうか、真っ直ぐすぎて逆に短所じゃねえか?」

「そんなことないよ。初めて一緒に帰った時、井瀬塚は俺なんかにも優しくしてくれて、好きなものを偽らなくて、正直で、本当にすごいと思ったんだ」 


 必要以上に褒められて、だんだんいたたまれないような気恥ずかしさに襲われる。


「あ、あんまり言うな! 照れる……」

「そうやってすぐ紅くなっちゃう所も、可愛くて好きだよ」

「っ!」


 こめかみにキスを落とされ、祥は顔といわず耳まで真っ赤に染めた。

 どう対応すればよいか分からず、逃げるように視線を空へと向ける。太陽が眩しかった。


「この屋上も、本当は誰にも教えたくなかったんだ。ここは静かだから、他の人の目や音を気にしないでいられるから。でも、そんな場所を誰かと共有したいって思ったのも、井瀬塚が初めてだったんだ」


 あの後、祥の家に誘われたときも本当に嬉しかったと言う。父子家庭の園山にとって、母の手料理というものが新鮮で、幸せだったと。

 だが、そこで事件が起きた。

 祥がヘッドホンを外してしまったのは大した事ではなかったらしい。問題は、優梨が入ってきたことにあった。

「筑戸がさ、井瀬塚が俺と仲良くしてるのは、俺のヘッドホン外させるためで、俺に好意なんか持ってないって言ったんだ」

「何だそれ! あ、いや確かに最初園山と仲良くなろうとしたのはその通りで、そう言ってくれたのも優梨だけど、あの時はもうそんな事どうでもよくて、素直にお前と仲良くなりたいって思ってた! 優梨が誤解してたんだろ」


 その言葉にショックを受けた園山は祥の家を飛び出した、という訳だ。

 だがあの時優梨は、園山は急用で帰ったと言っていた。なぜ嘘をついたのだろうか。
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