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第1堡塁の戦い
第80話 戦闘糧食を
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「本部から送られてきた作戦図と状況図の照合を急がせてくれ、それが済んだら、明日の戦闘予行をするから、各分隊長には時間を知らせてくれ、それ以外の者は、今のうちに休養を取らせてくれ、これは司令からの徹底事項だからな」
昭三は、眠さも疲れも感じることなく、今、自分の頭脳が猛烈な勢いで回転している事が理解出来ていた。
アドレナリン
自分の身体の芯から、アドレナリンが大量分泌されているのが、明白であった。
それは、快楽そのものであり、どんなに的確な指示を与え続けても、それは快楽に似た恍惚に変化してゆくのが解った。
空腹も感じない、自分はどこまでも行ける、そう思えるのであった。
そんな時、自分に話しかけてくる古参の軍人がいた。
「小隊長、少し食事を召し上がってください、最後まで持ちませんよ」
昭三の率いる第3小隊には、54連隊から小隊付軍曹の響鬼(ひびき)軍曹が付いていた。
偶然であるが、響鬼という珍しい名字が軍曹と重なると響(ひびき)鬼軍曹と読めるため、そのまま鬼軍曹と呼ばれていた。
実際にその指揮の補佐や訓練の厳しさは鬼軍曹と呼べる厳しいものがあり、名は体を表すの如く、この人物を理解しやすいネーミングと言えた。
そんな彼だからこそ、小隊長に言える一言もあった。
昭三は、彼が何を言っているのかが、理解出来ないでいた。
しかし、傍から見れば、彼のその的確過ぎる命令指示は、高校1年生のそれを遥かに超える異常なものであった。
「食べろ」と言ってきた古参の軍曹は、これと同じ状況を、過去に見たことがあった。
それは、国防大学校がまだ防衛大学校と呼ばれていた時代、任官間もない防大出の若手小隊長が、今回と同じように北富士第3堡塁に挑んだ時、それは起こっていたのである。
今の昭三と同じように、彼の目はギラギラと輝いて、ほとんど食事を手に付けないでいた。
しかし、そんな状況は長続きせず、恍惚と快楽に任せて勢いよく指揮していた新任小隊長は、最終日を前にして突然、電池の切れた玩具のように、動きが鈍くなり、自制が効かず動けなくなってしまったのである。
これは、優秀な新任小隊長によく起こる現象で、その頭脳故に、自身の作戦が「快楽」となってこだまし、自分のコンディションを掌握できなくなる現象なのだ。
古参の軍曹は、それをよく知っていた。
この昭三もまた、若いものの、そのような頭脳明晰タイプの小隊長であり、いくらスタミナがあっても、それは明日の後半までもたない事が、軍曹には理解出来ていた。
本来であれば、かなり年下の、それも高校生同等の昭三に対し、それでもプロの軍曹として、しっかりとした敬語を用いて小隊長として扱っていた。
それは、プロの軍人のプライドでもあった。
その敬語の裏には、それだけの補職に就いているのだから、それだけの働きをしろよ、という暗黙の了解があった。
もちろん昭三はそれを十分に理解していた。
「軍曹、ありがとうございます。でも、今はまったく空腹は感じませんし頭は冴えてます、大丈夫です」
「だいたい、若い小隊長はみんなそう言うんですよ、でもね小隊長、私の経験から食べない小隊長は勝てない小隊長なんですよ、ですから、無理にでも食べてください。」
昭三は、この古参の軍曹の言うことに従おうと思った。
なるほど、これが古参というものか、それは初めて触れる本物の軍人の気風に思えた、それ故に、このように諭される時こそ、自身は強くなっている最中なのだと感じるのである。
軍曹は、昭三にそんな話をすると、意外にも昭三は自身のコンディションを理解し、指揮を一旦中断し、食事に専念するのである。
食事と言っても、冷たく冷えた戦闘糧食であったが、アドレナリンが放出されている昭三にとって、それは特別なご馳走にすら思えた。
昭三は、それを一心不乱に勢いよく食べ続けるのであった。
それを見た、古参の軍曹は、思わず関心した。
なぜなら、過去に経験のある「動けなくなった小隊長」とは、他ならぬ敵の第1師団第2部長なのだから。
頭脳派として知られ、上条師団長の懐刀として活躍する彼ですら、新米小隊長時代には、そのようであったのだから、まだ16歳の昭三が、しっかりと自分のコンディションに気付いた事が、彼には頼もしく感じられた。
それでも強引に食事を口に押し込むと、昭三は再び作戦図の前に噛り付き、明日の戦いに向け、その頭脳を再起動させた。
明日は、夜明けとともに第2堡塁攻略戦が開始されるのだから。
昭三は、眠さも疲れも感じることなく、今、自分の頭脳が猛烈な勢いで回転している事が理解出来ていた。
アドレナリン
自分の身体の芯から、アドレナリンが大量分泌されているのが、明白であった。
それは、快楽そのものであり、どんなに的確な指示を与え続けても、それは快楽に似た恍惚に変化してゆくのが解った。
空腹も感じない、自分はどこまでも行ける、そう思えるのであった。
そんな時、自分に話しかけてくる古参の軍人がいた。
「小隊長、少し食事を召し上がってください、最後まで持ちませんよ」
昭三の率いる第3小隊には、54連隊から小隊付軍曹の響鬼(ひびき)軍曹が付いていた。
偶然であるが、響鬼という珍しい名字が軍曹と重なると響(ひびき)鬼軍曹と読めるため、そのまま鬼軍曹と呼ばれていた。
実際にその指揮の補佐や訓練の厳しさは鬼軍曹と呼べる厳しいものがあり、名は体を表すの如く、この人物を理解しやすいネーミングと言えた。
そんな彼だからこそ、小隊長に言える一言もあった。
昭三は、彼が何を言っているのかが、理解出来ないでいた。
しかし、傍から見れば、彼のその的確過ぎる命令指示は、高校1年生のそれを遥かに超える異常なものであった。
「食べろ」と言ってきた古参の軍曹は、これと同じ状況を、過去に見たことがあった。
それは、国防大学校がまだ防衛大学校と呼ばれていた時代、任官間もない防大出の若手小隊長が、今回と同じように北富士第3堡塁に挑んだ時、それは起こっていたのである。
今の昭三と同じように、彼の目はギラギラと輝いて、ほとんど食事を手に付けないでいた。
しかし、そんな状況は長続きせず、恍惚と快楽に任せて勢いよく指揮していた新任小隊長は、最終日を前にして突然、電池の切れた玩具のように、動きが鈍くなり、自制が効かず動けなくなってしまったのである。
これは、優秀な新任小隊長によく起こる現象で、その頭脳故に、自身の作戦が「快楽」となってこだまし、自分のコンディションを掌握できなくなる現象なのだ。
古参の軍曹は、それをよく知っていた。
この昭三もまた、若いものの、そのような頭脳明晰タイプの小隊長であり、いくらスタミナがあっても、それは明日の後半までもたない事が、軍曹には理解出来ていた。
本来であれば、かなり年下の、それも高校生同等の昭三に対し、それでもプロの軍曹として、しっかりとした敬語を用いて小隊長として扱っていた。
それは、プロの軍人のプライドでもあった。
その敬語の裏には、それだけの補職に就いているのだから、それだけの働きをしろよ、という暗黙の了解があった。
もちろん昭三はそれを十分に理解していた。
「軍曹、ありがとうございます。でも、今はまったく空腹は感じませんし頭は冴えてます、大丈夫です」
「だいたい、若い小隊長はみんなそう言うんですよ、でもね小隊長、私の経験から食べない小隊長は勝てない小隊長なんですよ、ですから、無理にでも食べてください。」
昭三は、この古参の軍曹の言うことに従おうと思った。
なるほど、これが古参というものか、それは初めて触れる本物の軍人の気風に思えた、それ故に、このように諭される時こそ、自身は強くなっている最中なのだと感じるのである。
軍曹は、昭三にそんな話をすると、意外にも昭三は自身のコンディションを理解し、指揮を一旦中断し、食事に専念するのである。
食事と言っても、冷たく冷えた戦闘糧食であったが、アドレナリンが放出されている昭三にとって、それは特別なご馳走にすら思えた。
昭三は、それを一心不乱に勢いよく食べ続けるのであった。
それを見た、古参の軍曹は、思わず関心した。
なぜなら、過去に経験のある「動けなくなった小隊長」とは、他ならぬ敵の第1師団第2部長なのだから。
頭脳派として知られ、上条師団長の懐刀として活躍する彼ですら、新米小隊長時代には、そのようであったのだから、まだ16歳の昭三が、しっかりと自分のコンディションに気付いた事が、彼には頼もしく感じられた。
それでも強引に食事を口に押し込むと、昭三は再び作戦図の前に噛り付き、明日の戦いに向け、その頭脳を再起動させた。
明日は、夜明けとともに第2堡塁攻略戦が開始されるのだから。
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