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第1堡塁の戦い
第71話 不気味な沈黙に
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第一師団司令部は、自分たちこそ作戦の主導を取っていると確信していた。
特に、師団長の奇襲作戦は、かなり効果的に作用していると感じていた。
偵察用のドローンと、偵察衛星情報から、三枝軍の装甲車は、第1堡塁から40分はかかるであろう距離において停車中であることは理解出来ていた。
作戦参謀である第3部長は、あえてこの車両に対し、砲撃を加えず前進する瞬間を待っていた。
それは、師団側の作戦通りに三枝軍が停止し、夜間攻撃の準備に移行しているように見えたからだ。
この時、無謀にも徒歩兵が生身を晒し、要塞に緊迫しているなどとは常識的に考えてはいなかった。
この戦術のプロの頭脳が、三枝軍の非常識ともとれる行動を予想の範囲外へと押しやってしまうのである。
ただ、不気味な沈黙に気付いている人物が二人いた、それは第一師団長である上条中将、そしてもう一人、情報幕僚である第2部長である。
第2部長は、敵の立場から戦場を見ることが専門である、そのため他の司令部要員が気付かない違和感を感じていた。
「師団長、三枝軍はこちらの予想通り、装甲車両を森林内に隠蔽《いんぺい》して夜を待つようです、戦術慣れしていない彼らとしては、よくやっているように感じます。」
「そんなことが言いたい訳ではないだろう2部長、違和感、を感じているのだろう。」
さすがは師団長と2部長は感じつつ、自分の感が正しいものだと証明する手段が無い中で、それを感じている人物が他にもいたことにやや安堵していた。
「師団長閣下は、この作戦図をどう思われますか?」
「そうだね、本来であれば、先ほどの空挺偽降着に対応するため、一端防御の体制へ移行し、敵情が確認できるまではこの体制、というのがセオリーだろうがね、相手が三枝中尉だとすると、正攻法を説くのは性急《せいきゅう》かもしれないな」
「自分も同じ意見です。何か違和感があるとすれば、この距離感があまりに正しすぎる、という点です。」
「私もそう思う。しかし、彼らにあの偽降下を偽物と確証するだけの度胸は無いだろう、我々の裏をかいて行動するならば、夜間攻撃を避けて、明朝の攻撃とする方法もある。」
「はい、しかし、それではメリットがありません。彼らが一番利点を活《い》かすのであれば、夜間攻撃は外せないと感じます。作戦時間軸を考えれば、明日の夜の攻撃では、第3堡塁の攻略は間に合いませんから、この夜が焦点となることは間違いないのですが、何か他にも手段を考えている可能性はあると思います。」
師団長も考えていた、それは2部長が言うとおり、あまりにもこちらが予想した通りの位置で停車していることが不気味だったのである。
もし、師団の作戦が見えているのであれば、ここに停車して、何か別の陽動作戦《ようどうさくせん》を企図しているのではないか、と。
「2部長、君の見積もりでは、この停車中の部隊の前進開始時期は?」
「はい、おおむね14時30分頃かと予想されます。」
「まもなくか、、。」
師団長の言葉が終わるか終わらない頃、無線で情報が入ってきた。
「敵主力の前進開始を確認。」
少し安堵する2部長に対し
「少し考えすぎだったかな、君の見積もり通りに前進を開始している、彼らは夜間戦闘を仕掛けるために丁度の時間に前進を開始した、本日の日の入りを逆算すれば、妥当な時間だな。」
「はい、引き続き警戒します。」
それでも違和感を拭えない2部長であったが、この敵を引き込む誘致導入作戦《ゆうちどうにゅうさくせん》に失敗することは許されないことでもあり、雑念は捨てようと考え直すのであった。
ところが、その30分後、予想外の連絡が師団司令部に入ってきた。
「司令部、こちら第1堡塁防空指揮所、今現在、敵の攻撃を受けています、損耗は軽微ですが、近傍を火炎放射器で焼かれています。」
2部長が、しまったと振り返る、この無線が入った瞬間に、自分の抱いていた違和感が本物であることを証明したのである。
特に、師団長の奇襲作戦は、かなり効果的に作用していると感じていた。
偵察用のドローンと、偵察衛星情報から、三枝軍の装甲車は、第1堡塁から40分はかかるであろう距離において停車中であることは理解出来ていた。
作戦参謀である第3部長は、あえてこの車両に対し、砲撃を加えず前進する瞬間を待っていた。
それは、師団側の作戦通りに三枝軍が停止し、夜間攻撃の準備に移行しているように見えたからだ。
この時、無謀にも徒歩兵が生身を晒し、要塞に緊迫しているなどとは常識的に考えてはいなかった。
この戦術のプロの頭脳が、三枝軍の非常識ともとれる行動を予想の範囲外へと押しやってしまうのである。
ただ、不気味な沈黙に気付いている人物が二人いた、それは第一師団長である上条中将、そしてもう一人、情報幕僚である第2部長である。
第2部長は、敵の立場から戦場を見ることが専門である、そのため他の司令部要員が気付かない違和感を感じていた。
「師団長、三枝軍はこちらの予想通り、装甲車両を森林内に隠蔽《いんぺい》して夜を待つようです、戦術慣れしていない彼らとしては、よくやっているように感じます。」
「そんなことが言いたい訳ではないだろう2部長、違和感、を感じているのだろう。」
さすがは師団長と2部長は感じつつ、自分の感が正しいものだと証明する手段が無い中で、それを感じている人物が他にもいたことにやや安堵していた。
「師団長閣下は、この作戦図をどう思われますか?」
「そうだね、本来であれば、先ほどの空挺偽降着に対応するため、一端防御の体制へ移行し、敵情が確認できるまではこの体制、というのがセオリーだろうがね、相手が三枝中尉だとすると、正攻法を説くのは性急《せいきゅう》かもしれないな」
「自分も同じ意見です。何か違和感があるとすれば、この距離感があまりに正しすぎる、という点です。」
「私もそう思う。しかし、彼らにあの偽降下を偽物と確証するだけの度胸は無いだろう、我々の裏をかいて行動するならば、夜間攻撃を避けて、明朝の攻撃とする方法もある。」
「はい、しかし、それではメリットがありません。彼らが一番利点を活《い》かすのであれば、夜間攻撃は外せないと感じます。作戦時間軸を考えれば、明日の夜の攻撃では、第3堡塁の攻略は間に合いませんから、この夜が焦点となることは間違いないのですが、何か他にも手段を考えている可能性はあると思います。」
師団長も考えていた、それは2部長が言うとおり、あまりにもこちらが予想した通りの位置で停車していることが不気味だったのである。
もし、師団の作戦が見えているのであれば、ここに停車して、何か別の陽動作戦《ようどうさくせん》を企図しているのではないか、と。
「2部長、君の見積もりでは、この停車中の部隊の前進開始時期は?」
「はい、おおむね14時30分頃かと予想されます。」
「まもなくか、、。」
師団長の言葉が終わるか終わらない頃、無線で情報が入ってきた。
「敵主力の前進開始を確認。」
少し安堵する2部長に対し
「少し考えすぎだったかな、君の見積もり通りに前進を開始している、彼らは夜間戦闘を仕掛けるために丁度の時間に前進を開始した、本日の日の入りを逆算すれば、妥当な時間だな。」
「はい、引き続き警戒します。」
それでも違和感を拭えない2部長であったが、この敵を引き込む誘致導入作戦《ゆうちどうにゅうさくせん》に失敗することは許されないことでもあり、雑念は捨てようと考え直すのであった。
ところが、その30分後、予想外の連絡が師団司令部に入ってきた。
「司令部、こちら第1堡塁防空指揮所、今現在、敵の攻撃を受けています、損耗は軽微ですが、近傍を火炎放射器で焼かれています。」
2部長が、しまったと振り返る、この無線が入った瞬間に、自分の抱いていた違和感が本物であることを証明したのである。
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