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少年たちは決起する
第53話 どうか御武運を
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そんな時、緊迫する高級幹部と初級幹部との会話に凍り付くその場の空気を切り裂くように、佳奈は昭三の前に立ちはだかるのである。
佳奈「お父様、佳奈はもはや昭三さんのものとなりました、この刃が昭三さんの御身を貫くのであれば、妻として私も運命を共にするつもりです。」
佳奈と父親との間に、無言の時間が流れた。
彼女にとって、これほどに長い時間を感じるとは思わなかったほどに。
上条「・・・そうか、解った。私も当事者の父親として取るべき責任がある。そこから逃げる気など毛頭ない。ならばこちらからも条件を出す。・・・三枝中尉の提案を受け入れる。第1に、生徒達により編成された部隊により北富士第3堡塁を攻略せよ。第2、この際、後方支援、医療支援には、ここにいる他校の生徒の支援を許可する。第3、対抗部隊は東京第一師団より選抜された編成とする。この部隊編成、及び指揮は直接第一師団長がとるものとする。第4、攻撃部隊の作戦計画、陣頭指揮は三枝中尉及び、国防大学校生徒会参謀部により実施せよ。第5、それに至るまでの期間、訓練計画、調整は国防大学校生徒会により運用されたい。以上に関する件、国防大学校監事、陸軍工科学校長へは正式な書簡により第一師団からの請願として手続きされる。各学校のカリキュラムに影響の無いよう細部調整されたい。規定に関しては以上だ。」
その場にいた多くの生徒達はざわめいた。
その意味を理解し咀嚼するのには少々の時間がかかったが、それが途方もない事であることは陸軍工科学校の生徒達には理解出来た。
上条「そして規定以外の条件についてもう一つ。佳奈、お前は当日に行われる出場予定だった全日本ピアノコンクールに参加し、優勝すること。これらを全て達成した場合のみ、佳奈の現婚約は破棄するものとし、後は自由にしなさい。ただし、これらの一つでも達成出来なかった場合、私の指示に従いなさい。もし、それも嫌だと言うのならばここにいる生徒達には反逆罪と誘拐罪を適応する。」
恐らく父親として、第一師団長としての最大限譲歩であったのだろう。
しかし、佳奈の耳にはそう聞こえてはいなかった。
が、しかし、これまで二人の仲を公認させる術の皆無であったこの事件の先に、僅かでもゴールと思える糸口が姿を現したこともまた事実である。
佳奈はこの争乱を抑え、ささやかな二人の未来に賭けるためにも、父親の提案を受け入れるしかないと感じていた。
佳奈「昭三さん、私、父の提案を受け入れようと思います。また貴方にお会い出来る日を待ちわびながら、日々を過ごします。どうか御武運を。」
昭三「・・・佳奈さん、僕は絶対に負けません、そして貴女を正面から堂々とお迎えにあがります。その時まで暫しの別れです。コンクール、頑張って。」
静かに二人の時間は流れた、佳奈は少し昭三を見つめた後、控えめに昭三に抱きつくと、頬にそっとキスをした。
昭三は、少し驚いた顔をしたが、彼女の小さな唇の感触と爽やかな残り香が、まだしっかりと余韻を残す中、彼女は父親の元へ向かい走り出す。
ヘリの激しいダウンウォッシュが佳奈の長いおさげ髪を盛大になびかせながら、父親と共に機上の人となった。
機内からは、佳奈が昭三の方を見ていることが昭三からも視認出来た。
航空機はゆっくりと機体を上昇させ、生徒達の頭上を大きく左旋回しながら北の空へと去ってゆく。
去り際に、機体の窓から見えた地上の光景は、戦闘服の生徒と他校の生徒数千人で埋め尽くされた校内の様子であった。
佳奈はこの光景を目に焼き付け、必ずコンクールで優勝し、この愛おしい風景の中へ戻ることを固く誓うのであった。
そして、昭三もまた自らの決意とともに、その機体を、もう見えなくなるまで北の空を仰いだ。
昭三は前にもこんなことがあったと思い返す。
それは学校祭の日の夜、佳奈を見送ったあの日のバスであった。
しかし今日の航空機は、あの日のそれとは違う、お互いの気持ちに確固たる再会を誓い合っての別れである。
昭三は、佳奈の唇の感触を守るように頬をそっと手で覆いながら、まだ立ち尽くしているのであった。
佳奈「お父様、佳奈はもはや昭三さんのものとなりました、この刃が昭三さんの御身を貫くのであれば、妻として私も運命を共にするつもりです。」
佳奈と父親との間に、無言の時間が流れた。
彼女にとって、これほどに長い時間を感じるとは思わなかったほどに。
上条「・・・そうか、解った。私も当事者の父親として取るべき責任がある。そこから逃げる気など毛頭ない。ならばこちらからも条件を出す。・・・三枝中尉の提案を受け入れる。第1に、生徒達により編成された部隊により北富士第3堡塁を攻略せよ。第2、この際、後方支援、医療支援には、ここにいる他校の生徒の支援を許可する。第3、対抗部隊は東京第一師団より選抜された編成とする。この部隊編成、及び指揮は直接第一師団長がとるものとする。第4、攻撃部隊の作戦計画、陣頭指揮は三枝中尉及び、国防大学校生徒会参謀部により実施せよ。第5、それに至るまでの期間、訓練計画、調整は国防大学校生徒会により運用されたい。以上に関する件、国防大学校監事、陸軍工科学校長へは正式な書簡により第一師団からの請願として手続きされる。各学校のカリキュラムに影響の無いよう細部調整されたい。規定に関しては以上だ。」
その場にいた多くの生徒達はざわめいた。
その意味を理解し咀嚼するのには少々の時間がかかったが、それが途方もない事であることは陸軍工科学校の生徒達には理解出来た。
上条「そして規定以外の条件についてもう一つ。佳奈、お前は当日に行われる出場予定だった全日本ピアノコンクールに参加し、優勝すること。これらを全て達成した場合のみ、佳奈の現婚約は破棄するものとし、後は自由にしなさい。ただし、これらの一つでも達成出来なかった場合、私の指示に従いなさい。もし、それも嫌だと言うのならばここにいる生徒達には反逆罪と誘拐罪を適応する。」
恐らく父親として、第一師団長としての最大限譲歩であったのだろう。
しかし、佳奈の耳にはそう聞こえてはいなかった。
が、しかし、これまで二人の仲を公認させる術の皆無であったこの事件の先に、僅かでもゴールと思える糸口が姿を現したこともまた事実である。
佳奈はこの争乱を抑え、ささやかな二人の未来に賭けるためにも、父親の提案を受け入れるしかないと感じていた。
佳奈「昭三さん、私、父の提案を受け入れようと思います。また貴方にお会い出来る日を待ちわびながら、日々を過ごします。どうか御武運を。」
昭三「・・・佳奈さん、僕は絶対に負けません、そして貴女を正面から堂々とお迎えにあがります。その時まで暫しの別れです。コンクール、頑張って。」
静かに二人の時間は流れた、佳奈は少し昭三を見つめた後、控えめに昭三に抱きつくと、頬にそっとキスをした。
昭三は、少し驚いた顔をしたが、彼女の小さな唇の感触と爽やかな残り香が、まだしっかりと余韻を残す中、彼女は父親の元へ向かい走り出す。
ヘリの激しいダウンウォッシュが佳奈の長いおさげ髪を盛大になびかせながら、父親と共に機上の人となった。
機内からは、佳奈が昭三の方を見ていることが昭三からも視認出来た。
航空機はゆっくりと機体を上昇させ、生徒達の頭上を大きく左旋回しながら北の空へと去ってゆく。
去り際に、機体の窓から見えた地上の光景は、戦闘服の生徒と他校の生徒数千人で埋め尽くされた校内の様子であった。
佳奈はこの光景を目に焼き付け、必ずコンクールで優勝し、この愛おしい風景の中へ戻ることを固く誓うのであった。
そして、昭三もまた自らの決意とともに、その機体を、もう見えなくなるまで北の空を仰いだ。
昭三は前にもこんなことがあったと思い返す。
それは学校祭の日の夜、佳奈を見送ったあの日のバスであった。
しかし今日の航空機は、あの日のそれとは違う、お互いの気持ちに確固たる再会を誓い合っての別れである。
昭三は、佳奈の唇の感触を守るように頬をそっと手で覆いながら、まだ立ち尽くしているのであった。
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