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少年たちは決起する
第50話 学生たち
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城島「おい、三枝、外柵沿いがなんだか大変なことになっているぞ!」
城島の視線の先には、続々と押し迫る高校生の波が見えていた。それを見た幸は
幸「よし!東海林、でかした!」
と満足そうな表情を浮かべる。この事件の当初に、東海林にメールを打った采配の勝利ともいえた。しかし龍二のその表情は些か険しいものであった。
幸「どうした三枝、何か問題でもあるの?」
龍二は何も言わなかった。しかし優はその変化を見逃してはいなかった。
優「三枝君、落ち着いて。みんな昭三君のために集まってくれた人たちなんだから。変なことを考えてはだめだよ。」
優がそんな言葉をかけている頃、鎌倉聖花学院と他校の生徒は陸軍工科学校の校門の前まで集結し始めていた。
龍二「よし、あの生徒達と合流しよう、混乱を収めなければ」
龍二が最も気にしていたのは、この混乱が、恐らくは昭三の策によるものだと感づいていたこと、そしてこれは何か一つでも間違えれば取返しのつかないこととなる、ということであった。
「現象」として火を点けることは簡単でも、大衆の心を収めるには犠牲が必要であることも、龍二は十分承知していた。だからこそ急がねばならなかった。
陸軍工科学校の校門前では、先に到着していた他校の生徒達の拍手喝采の中を、鎌倉聖花学院の生徒達が列を作って続々と到着してきている最中であった。
それはまるで戦勝を祝う群衆と見間違えるほどに。
三浦海洋高校生徒会長、黒崎高校生徒会長など近傍の生徒会長達は東海林を見つけると、にこやかに語りかけた。
「僕たちも、君たちの考えに賛同する者です。一緒にあの二人を見守りましょう。」
他校の生徒達には、生徒会の情報網をもって同じく趣意書がメールで配信され、東海林が校内の生徒達に向け発信した内容も添付されていた。そのことが一層、この事件への賛同者を一気に集めていたのである。
東海林「ありがとうございます。しかし、私たちは決意あってここに来たのです。皆様に同様のリスクを負わせるつもりはありません。」
すると、各生徒会長達はそのにこやかな表情を一転させ、神妙な面持ちとなりこう語りだす。
「東海林会長さん、決意をもって集まったのはあなた方ばかりではありません、よくここに集まった生徒達を見てご覧なさい、みな、母校の制服に身を包み、陸軍工科学校の生徒諸君と行動を共にする覚悟でここに集っているのです。私たちも、この柵の中にいる生徒達と同じ高校生なのです。」
東海林は彼の言った通り辺りをゆっくり見まわした。
なるほど、確かに不謹慎に冷やかしに来た生徒はいないようである。
それ自体が奇跡と言えた。
これだけの騒動である。
不真面目な態度で押しかける野次馬の存在を覚悟をしていたが、やはりこの時代にあって「正義」に飢えているのは東海林ばかりではなかったということである。
彼女はこの状況を見て、各校生徒会長に対し、ある提案を申し出たのである。
東海林「ありがとうございます。私共の校友、上条佳奈さんのためにここまでお集まりいただきまして。皆さんの本気が良く理解できました。ここで私は一つの提案を致します。ここに集まった各学校の生徒は、横須賀学生同盟として彼らの行動を支持する表明を連名にて日本中に示すのです。」
その場で東海林の声が聞こえた生徒達は、学校の枠を超えて歓声を挙げた、その歓声は、内容が後ろへと伝達される度、再び歓声が上がり、やがて大きな歓声へと盛り上がりを見せるのであった。
「やるな、東海林!」
東海林の耳元でそう言う声が聞こえた、振り返ると幸の姿がそこにはあった。
東海林「幸様・・・・・・。」
東海林がそう言うと、彼女はそのまま声を上げず、静かに目を潤ませた。これまで自らの決意により生徒達を先導してきた、それが正しいことと信じていたものの、やはり幸の姿を見ると安心して、恥ずかしいと思いつつ涙が止められないでいたのであった。
幸「うん、よく頑張ったな、さすがだよ。見てごらん、東海林の起こした現象は、世の中と陸軍を変えようとすらしている。」
東海林「いえ、幸様、世の中を動かしているのは、この柵の中の方々ですわ」
幸「・・・そうだな、彼らの覚悟は多分半端なものではない。」
東海林「・・・陸軍工科学校の皆さんは、これからどうなるんでしょう?」
幸「うん・・下手をすれば全員軍籍抹消、首謀者は・・・・。」
東海林「・・・・・やはり、そういう流れなんですね。」
幸「だからこそ、東海林、お前の協力が必要なんだ」
東海林は、この事件の首謀者が、どのような運命を辿るか、言葉にしない幸の表情からでも十分に察することができた。覚悟を決めた同年代の男子たちがこの柵の中にいる。
そんな二人のやり取りを龍二他、いつものメンバーが見つめていた。
清水「でも、さすがにこの状況はマズいわね。」
清水の言う通り、生徒達の波は、もはや一般道にはみ出ており、通行の妨げとなりつつあった。
テレビカメラの数も時間と比例して増えてゆく。
それ以外にも、特ダネを求めるネット配信者達の人の波も出来始めている。
そんな中、混沌とした校門付近では大きな変化の時を迎えようとしていた。
城島の視線の先には、続々と押し迫る高校生の波が見えていた。それを見た幸は
幸「よし!東海林、でかした!」
と満足そうな表情を浮かべる。この事件の当初に、東海林にメールを打った采配の勝利ともいえた。しかし龍二のその表情は些か険しいものであった。
幸「どうした三枝、何か問題でもあるの?」
龍二は何も言わなかった。しかし優はその変化を見逃してはいなかった。
優「三枝君、落ち着いて。みんな昭三君のために集まってくれた人たちなんだから。変なことを考えてはだめだよ。」
優がそんな言葉をかけている頃、鎌倉聖花学院と他校の生徒は陸軍工科学校の校門の前まで集結し始めていた。
龍二「よし、あの生徒達と合流しよう、混乱を収めなければ」
龍二が最も気にしていたのは、この混乱が、恐らくは昭三の策によるものだと感づいていたこと、そしてこれは何か一つでも間違えれば取返しのつかないこととなる、ということであった。
「現象」として火を点けることは簡単でも、大衆の心を収めるには犠牲が必要であることも、龍二は十分承知していた。だからこそ急がねばならなかった。
陸軍工科学校の校門前では、先に到着していた他校の生徒達の拍手喝采の中を、鎌倉聖花学院の生徒達が列を作って続々と到着してきている最中であった。
それはまるで戦勝を祝う群衆と見間違えるほどに。
三浦海洋高校生徒会長、黒崎高校生徒会長など近傍の生徒会長達は東海林を見つけると、にこやかに語りかけた。
「僕たちも、君たちの考えに賛同する者です。一緒にあの二人を見守りましょう。」
他校の生徒達には、生徒会の情報網をもって同じく趣意書がメールで配信され、東海林が校内の生徒達に向け発信した内容も添付されていた。そのことが一層、この事件への賛同者を一気に集めていたのである。
東海林「ありがとうございます。しかし、私たちは決意あってここに来たのです。皆様に同様のリスクを負わせるつもりはありません。」
すると、各生徒会長達はそのにこやかな表情を一転させ、神妙な面持ちとなりこう語りだす。
「東海林会長さん、決意をもって集まったのはあなた方ばかりではありません、よくここに集まった生徒達を見てご覧なさい、みな、母校の制服に身を包み、陸軍工科学校の生徒諸君と行動を共にする覚悟でここに集っているのです。私たちも、この柵の中にいる生徒達と同じ高校生なのです。」
東海林は彼の言った通り辺りをゆっくり見まわした。
なるほど、確かに不謹慎に冷やかしに来た生徒はいないようである。
それ自体が奇跡と言えた。
これだけの騒動である。
不真面目な態度で押しかける野次馬の存在を覚悟をしていたが、やはりこの時代にあって「正義」に飢えているのは東海林ばかりではなかったということである。
彼女はこの状況を見て、各校生徒会長に対し、ある提案を申し出たのである。
東海林「ありがとうございます。私共の校友、上条佳奈さんのためにここまでお集まりいただきまして。皆さんの本気が良く理解できました。ここで私は一つの提案を致します。ここに集まった各学校の生徒は、横須賀学生同盟として彼らの行動を支持する表明を連名にて日本中に示すのです。」
その場で東海林の声が聞こえた生徒達は、学校の枠を超えて歓声を挙げた、その歓声は、内容が後ろへと伝達される度、再び歓声が上がり、やがて大きな歓声へと盛り上がりを見せるのであった。
「やるな、東海林!」
東海林の耳元でそう言う声が聞こえた、振り返ると幸の姿がそこにはあった。
東海林「幸様・・・・・・。」
東海林がそう言うと、彼女はそのまま声を上げず、静かに目を潤ませた。これまで自らの決意により生徒達を先導してきた、それが正しいことと信じていたものの、やはり幸の姿を見ると安心して、恥ずかしいと思いつつ涙が止められないでいたのであった。
幸「うん、よく頑張ったな、さすがだよ。見てごらん、東海林の起こした現象は、世の中と陸軍を変えようとすらしている。」
東海林「いえ、幸様、世の中を動かしているのは、この柵の中の方々ですわ」
幸「・・・そうだな、彼らの覚悟は多分半端なものではない。」
東海林「・・・陸軍工科学校の皆さんは、これからどうなるんでしょう?」
幸「うん・・下手をすれば全員軍籍抹消、首謀者は・・・・。」
東海林「・・・・・やはり、そういう流れなんですね。」
幸「だからこそ、東海林、お前の協力が必要なんだ」
東海林は、この事件の首謀者が、どのような運命を辿るか、言葉にしない幸の表情からでも十分に察することができた。覚悟を決めた同年代の男子たちがこの柵の中にいる。
そんな二人のやり取りを龍二他、いつものメンバーが見つめていた。
清水「でも、さすがにこの状況はマズいわね。」
清水の言う通り、生徒達の波は、もはや一般道にはみ出ており、通行の妨げとなりつつあった。
テレビカメラの数も時間と比例して増えてゆく。
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