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小さな革命
第38話 急 変
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優「北条さんと言えば、今日おもしろいものを見たよ、ね、徳川さん!」
幸「そうそう、聞いてよ、なんとあの北条曹長が、女性と一緒に横須賀の街を歩いていたんだよ。」
城島「へ~、隅に置けないねえ、帰国からまだいくらも経っていないのに、やっぱモテるのかな、戦場帰りの男って、なんだか影があっていいわ~、ってか?」
幸「まったくデリカシーのない男だな城島は。ほら如月、そのお相手、教えてあげなって。」
優「うん、実はね、そのお相手っていうのが、なんと戦闘艦「しなの」の水雷長さんだったんだよ!」
城島「えー!水雷長?ってことは・・・・、男か!」
幸「バカかお前は!水雷長だよ、ほらこの間、私たちにブリーフィングしてくれた海軍大尉の清水伊織さん!」
城島「・・・あ~、はいはい、あの妖艶な美人大尉さんか・・・・え~!、余計におかしいだろそれ!この間、北条さん、なんかブン殴られてたよな、あの人に!」
龍二「へー、そうか、清水大尉がね、北条さんみたいのが好みなんだ。」
幸「なに、なに?、三枝は清水さんみたいな大人びた人が好みなの?へー、私はてっきり、黒髪ストレートな感じの人が好みかと思っていたわ。」
一瞬龍二の部屋が凍り付いた。そして次の瞬間、幸もしまったと感じた。龍二は顔を赤く染めて下を向き、急に本を読み出してしまった。
幸は、浅はかな自分の言動を悔いた。
最初、自分だけが知っている、黒髪ロングのストレートヘアの女性に、とても強い反応を示した時のことを思い出しただけであったが、それは同時に幸しか知らない悪戯であり、またその好みの女性とは、三枝澄先生を指すこともよく理解していたからである。
優「そういえば、もう一組、意外なカップルもいたよね!」
優の一言に「ナイス」と合図を送る幸に意味が理解できない優であったが、幸はこの気まずい雰囲気を破壊する格好のネタとしてこれに食いついてきた。
幸「そうそう!三枝君、それは君にとても関係のある人物なのだよ。」
龍二「ん?俺の関係者?・・・誰?」
幸「ふふん、近くても気づかないものなんだね、ほかならぬ君の弟、昭三君と上条さん!」
龍二は少し驚いた表情を浮かべたが、昨日の学校祭の時に、妙に良いセッションをしていたジャズバンドのことを思うと、まあなるほどと思うのであった。
しかしあの内気な昭三にしては、随分手の早いことだなと。
そして今日はやけに早く家を出た理由が理解できたのである。
龍二「そう、それじゃあ随分早い時間に彼らを見たんだね。」
優「え、なんで?僕たちが見たのはお昼前ぐらいだよ、ねえ徳川さん。」
幸「ああ、そうね、私たちもランチの前だから、そんなに早い時間じゃなかったよ。」
龍二「・・・変だな、随分早く出てったのに・・・。」
この時龍二には、違和感という以外に当てようのない感覚が走っていた。
しかし、それが何なのか判らないとなっては話題にするわけにも行かず、結局話はそれで、可愛らしい高校生カップルが誕生したね、という程度の内容で終わってしまったのである。
ところがこの話題が再び彼らの中で再燃することとなるのである。
それは一本の電話からであった。
三枝家のお手伝いさんが、龍二達の食事の準備を終え、一息入れている時のことである。
龍二達はお手伝いさんご自慢のご当地料理に舌鼓を打ちながら、最近の生徒会活動についての会話と夕食を楽しんでいた。 龍二はその奥で、お手伝いさんが、何か電話を取って対応していることに気づいた。
龍二「あの、何か緊急の電話ですか?」
丁度父は急用で東京へ行っている最中であったため、今日は何かあれば対応するよう父親から頼まれていたことから、電話には敏感になっていた。
「そうなんです、昭三坊ちゃんの学校の方から電話でございまして。」
龍二「昭三の学校?」
龍二は胸がざわめいた。
先ほどの違和感が、何か悪い予感ではなければいいと思っていた矢先のことであったからである。
龍二「わかりました、私が電話、替わります。もしもし、三枝昭三の父兄ですが、いつも弟がお世話になっております。」
すると電話の相手である、陸軍工科学校で昭三の区隊長をしている若い大尉が、龍二に気づいたらしく、事情を説明し始めた。
「三枝中尉ですね、お噂はかねがね。私は昭三君の区隊の区隊長をしております錦織大尉と申します。実は三枝生徒が、帰隊予定時刻を過ぎても帰って来ないんで、ご自宅で何かあったかと思いまして。あ、すいません、ちょっと何か騒ぎがあったようですので、一端失礼します、何か情報がありましたら、こちらまでお知らせください。」
そう言うと、錦織大尉は丁寧に電話を切った。
龍二は先ほどからの情報を集約すると、何かいけない事が発生していると考えた。
もちろんその「何か」は全く不確定なままではあるが。
龍二「みんな、ちょっと昭三のことで何か問題が発生したようなんで、俺はこれから陸軍工科学校へ行ってみる。みんなは食事を楽しんでいってくれ。」
三連休の中日、彼らもまた休暇申請を出していたため、本日は三枝家へ泊まりの予定であった。
当初はゆっくりと生徒会合宿のような雰囲気を味わおうと考えていたが、何か事態の動くのを感じ取っていた。
城島「おいおい、水くさいぞ三枝!俺たちはお前の参謀なんだぞ!」
幸「そうだ、こんなんでも参謀なんだから、使わないと損だぞ!」
城島「何だよ使うって!またオレのことバカにしただろ!」
優「まあまあ、二人とも、ねえ三枝君、昭三君の事でってことは、上条さんのことも気になるね。こんな時だからこそ、だよ。僕たちは生徒会参謀なんだから、防大に事情を説明して、生徒会活動の一環として、彼らの手伝いに行ってはどうかな?」
龍二は良い友人達に囲まれたと少し嬉しい気持ちになった。
正直、これから工科学校へ行くとしても、恐らく龍二単体で出来ることは少ないだろう。
ここは組織力を活かさねばと思うのであった。
龍二「よし、それでは陸軍工科学校へ行こう。」
制服に身を包み、三枝家を出ようとしたその家先に、北条曹長の私有車が止まっていた。
城島「あれ、北条さん?ん、んん?そのお隣には、噂の清水大尉ではありませんか!」
一同、心の中で「おお!」と声を上げたが、北条の表情はあまり良い知らせではないと言うことを物語っていた。
北条「お前等、事情は後回しだ、まずは乗れ!」
一同に緊張が走る。
心なしか、上空にはいつもよりヘリの飛来が多いように感じられた。
それは龍二の嫌な予感を一層深いものにしてゆくのであった。
幸「そうそう、聞いてよ、なんとあの北条曹長が、女性と一緒に横須賀の街を歩いていたんだよ。」
城島「へ~、隅に置けないねえ、帰国からまだいくらも経っていないのに、やっぱモテるのかな、戦場帰りの男って、なんだか影があっていいわ~、ってか?」
幸「まったくデリカシーのない男だな城島は。ほら如月、そのお相手、教えてあげなって。」
優「うん、実はね、そのお相手っていうのが、なんと戦闘艦「しなの」の水雷長さんだったんだよ!」
城島「えー!水雷長?ってことは・・・・、男か!」
幸「バカかお前は!水雷長だよ、ほらこの間、私たちにブリーフィングしてくれた海軍大尉の清水伊織さん!」
城島「・・・あ~、はいはい、あの妖艶な美人大尉さんか・・・・え~!、余計におかしいだろそれ!この間、北条さん、なんかブン殴られてたよな、あの人に!」
龍二「へー、そうか、清水大尉がね、北条さんみたいのが好みなんだ。」
幸「なに、なに?、三枝は清水さんみたいな大人びた人が好みなの?へー、私はてっきり、黒髪ストレートな感じの人が好みかと思っていたわ。」
一瞬龍二の部屋が凍り付いた。そして次の瞬間、幸もしまったと感じた。龍二は顔を赤く染めて下を向き、急に本を読み出してしまった。
幸は、浅はかな自分の言動を悔いた。
最初、自分だけが知っている、黒髪ロングのストレートヘアの女性に、とても強い反応を示した時のことを思い出しただけであったが、それは同時に幸しか知らない悪戯であり、またその好みの女性とは、三枝澄先生を指すこともよく理解していたからである。
優「そういえば、もう一組、意外なカップルもいたよね!」
優の一言に「ナイス」と合図を送る幸に意味が理解できない優であったが、幸はこの気まずい雰囲気を破壊する格好のネタとしてこれに食いついてきた。
幸「そうそう!三枝君、それは君にとても関係のある人物なのだよ。」
龍二「ん?俺の関係者?・・・誰?」
幸「ふふん、近くても気づかないものなんだね、ほかならぬ君の弟、昭三君と上条さん!」
龍二は少し驚いた表情を浮かべたが、昨日の学校祭の時に、妙に良いセッションをしていたジャズバンドのことを思うと、まあなるほどと思うのであった。
しかしあの内気な昭三にしては、随分手の早いことだなと。
そして今日はやけに早く家を出た理由が理解できたのである。
龍二「そう、それじゃあ随分早い時間に彼らを見たんだね。」
優「え、なんで?僕たちが見たのはお昼前ぐらいだよ、ねえ徳川さん。」
幸「ああ、そうね、私たちもランチの前だから、そんなに早い時間じゃなかったよ。」
龍二「・・・変だな、随分早く出てったのに・・・。」
この時龍二には、違和感という以外に当てようのない感覚が走っていた。
しかし、それが何なのか判らないとなっては話題にするわけにも行かず、結局話はそれで、可愛らしい高校生カップルが誕生したね、という程度の内容で終わってしまったのである。
ところがこの話題が再び彼らの中で再燃することとなるのである。
それは一本の電話からであった。
三枝家のお手伝いさんが、龍二達の食事の準備を終え、一息入れている時のことである。
龍二達はお手伝いさんご自慢のご当地料理に舌鼓を打ちながら、最近の生徒会活動についての会話と夕食を楽しんでいた。 龍二はその奥で、お手伝いさんが、何か電話を取って対応していることに気づいた。
龍二「あの、何か緊急の電話ですか?」
丁度父は急用で東京へ行っている最中であったため、今日は何かあれば対応するよう父親から頼まれていたことから、電話には敏感になっていた。
「そうなんです、昭三坊ちゃんの学校の方から電話でございまして。」
龍二「昭三の学校?」
龍二は胸がざわめいた。
先ほどの違和感が、何か悪い予感ではなければいいと思っていた矢先のことであったからである。
龍二「わかりました、私が電話、替わります。もしもし、三枝昭三の父兄ですが、いつも弟がお世話になっております。」
すると電話の相手である、陸軍工科学校で昭三の区隊長をしている若い大尉が、龍二に気づいたらしく、事情を説明し始めた。
「三枝中尉ですね、お噂はかねがね。私は昭三君の区隊の区隊長をしております錦織大尉と申します。実は三枝生徒が、帰隊予定時刻を過ぎても帰って来ないんで、ご自宅で何かあったかと思いまして。あ、すいません、ちょっと何か騒ぎがあったようですので、一端失礼します、何か情報がありましたら、こちらまでお知らせください。」
そう言うと、錦織大尉は丁寧に電話を切った。
龍二は先ほどからの情報を集約すると、何かいけない事が発生していると考えた。
もちろんその「何か」は全く不確定なままではあるが。
龍二「みんな、ちょっと昭三のことで何か問題が発生したようなんで、俺はこれから陸軍工科学校へ行ってみる。みんなは食事を楽しんでいってくれ。」
三連休の中日、彼らもまた休暇申請を出していたため、本日は三枝家へ泊まりの予定であった。
当初はゆっくりと生徒会合宿のような雰囲気を味わおうと考えていたが、何か事態の動くのを感じ取っていた。
城島「おいおい、水くさいぞ三枝!俺たちはお前の参謀なんだぞ!」
幸「そうだ、こんなんでも参謀なんだから、使わないと損だぞ!」
城島「何だよ使うって!またオレのことバカにしただろ!」
優「まあまあ、二人とも、ねえ三枝君、昭三君の事でってことは、上条さんのことも気になるね。こんな時だからこそ、だよ。僕たちは生徒会参謀なんだから、防大に事情を説明して、生徒会活動の一環として、彼らの手伝いに行ってはどうかな?」
龍二は良い友人達に囲まれたと少し嬉しい気持ちになった。
正直、これから工科学校へ行くとしても、恐らく龍二単体で出来ることは少ないだろう。
ここは組織力を活かさねばと思うのであった。
龍二「よし、それでは陸軍工科学校へ行こう。」
制服に身を包み、三枝家を出ようとしたその家先に、北条曹長の私有車が止まっていた。
城島「あれ、北条さん?ん、んん?そのお隣には、噂の清水大尉ではありませんか!」
一同、心の中で「おお!」と声を上げたが、北条の表情はあまり良い知らせではないと言うことを物語っていた。
北条「お前等、事情は後回しだ、まずは乗れ!」
一同に緊張が走る。
心なしか、上空にはいつもよりヘリの飛来が多いように感じられた。
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