上 下
233 / 290
巨人族の戦士

第231話 A中隊、ただちに散開

しおりを挟む
 マキュウェル軍の尖兵中隊を務めるのは、ハイハープ連隊A中隊、つまり重装甲騎兵中隊がマキュウェル軍から500m程度離れた前方に展開し、警戒の目を出していた。

 遥か西方には、フキアエズ軍が同じ方向へ向け前進中であり、本来であれば緊張の糸が張りつめた第一線中隊の兵士達も、比較的長閑のどかな雰囲気で前進中であった。

 先頭で前進していた兵士は、収穫の終わった晩秋の麦畑を横目に、その美しさに見惚れていた。
 


 それは、何の予告も無く始まった。



 収穫の終わった麦畑一帯に展開していたオルコ共和国軍の小銃部隊が、横隊になって射撃線を構成し、一斉に襲いかかったのである。

 それは、正確な射撃であった。
 尖兵中隊の先頭をゆっくり進んでいた兵士の、装甲の無い顔面を目がけて放たれた弾丸は、眉間の中央を正確に貫いた。
 その直ぐ後ろを前進していた騎兵は、突然目の前の兵士が馬からスローモーションのように転げ落ちる様を、不思議に感じながら、ドスンと重量感のある落馬音を聞いて、彼は直ちに後方の小隊長に異常を知らせようと振り返った瞬間、自身にも強烈な弾丸が頭部を貫いた。

「敵、敵襲!」

 小隊長の掛け声に、よく訓練された騎兵たちは、一斉に散開を始めると、最後尾を進んでいた伝令が、素早く本隊に異常事態発生の報を知らせる。

「逓伝《ていでん》!、尖兵小隊の先頭が、襲撃を受けました!敵の状況、不明!」

 A中隊長は、それまで喉かな雰囲気で前進していた隊列が、急速に異常事態に襲われている事を掌握したが、肝心の伝令からの情報が、全く何も伝えきれていない内容であることに苛立った。

「もうよい、私が行く」

「お待ちください中隊長、これは噂に聞く銃声というものです、それもかなり遠方からの、、、」

 中隊長を宥《なだ》めていた、先任下士官が、それを言い終わるより早くに銃撃され、その場に倒れ込んだ。
 
「先任曹長!、、、おのれ、、、A中隊、ただちに散開、敵が見えた者は、速やかに中隊長へ報告!」

 尖兵中隊の騎兵たちは、一斉に散開したが、敵の位置がどうしても解らない。
 無理もない、このような小銃による遠距離からの狙撃などというものに、彼らは初遭遇なのだから。

 しかし、それでもハイハープ連隊の隊員達は、遠くからとは言え、あのハイハープの戦いで、銃撃戦を経験していた。
 そんな彼らであっても、この姿の見えない狙撃は初体験であり、それ故に、未だ緊張感に欠けていた。

「よし、こうなったら、中隊を横隊に編成し、一気に距離を詰める、中隊、横隊傘型陣形を取りつつ、前へ!」

 この中隊長の判断は、一般的な尖兵中隊の行動としては良く出来た行動だっただろう。
 しかし、この大量の狙撃手を前に、それも良く訓練された小銃手の前で、横隊に展開することは自殺行為に等しいものであった。

 横隊傘型陣形を取った隊列の中央に中隊長が位置して指揮を執る。
 それは、勇ましい姿でもあったが、、、、

「中隊長、本隊より伝令が来ています、速やかに後退し、陣形を再編成せよ!、とこ事です」

 A中隊長としては、自身の取った行動に、全くの不備は無かった。
 にも係らず、本隊から後退の命令が出た、、、それは即ち、判断ミスをしたと評価されたことを意味する。
 それを聞いたA中隊長は激昂するのである。

「何と申したか、後退と?、馬鹿にしてくれるな、我が隊は未だ何もしておらぬぞ!、後退などという不名誉、受け入れられぬ。本隊とは連隊本部を指すのか?、怖気付いたか?」

 伝令は、とても言いにくそうに激昂するA中隊長に続けて伝言を伝えた。

「いえ、連隊本部ではありません、軍師長からの直伝になります。

 それを聞いたA中隊長は、益々激昂するのである。

「なんと、軍師長とな?、元連隊長ではないか、出世したらもう臆病風に吹かれたのか、連隊長らしくも、、、、」

 
 A中隊長は、そう言い終わる前に、突然馬から落ちた、、、そして、少し遅れて銃声が麦畑にこだまするのである。

 マキュウェル軍軍師長伝令は、その状況を見ると、その異常性に気付き、直ちに軍師長の元へ走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

暗闇の中の囁き

葉羽
ミステリー
名門の作家、黒崎一郎が自らの死を予感し、最後の作品『囁く影』を執筆する。その作品には、彼の過去や周囲の人間関係が暗号のように隠されている。彼の死後、古びた洋館で起きた不可解な殺人事件。被害者は、彼の作品の熱心なファンであり、館の中で自殺したかのように見せかけられていた。しかし、その背後には、作家の遺作に仕込まれた恐ろしいトリックと、館に潜む恐怖が待ち受けていた。探偵の名探偵、青木は、暗号を解読しながら事件の真相に迫っていくが、次第に彼自身も館の恐怖に飲み込まれていく。果たして、彼は真実を見つけ出し、恐怖から逃れることができるのか?

グリムの囁き

ふるは ゆう
ミステリー
7年前の児童惨殺事件から続く、猟奇殺人の真相を刑事たちが追う! そのグリムとは……。  7年前の児童惨殺事件での唯一の生き残りの女性が失踪した。当時、担当していた捜査一課の石川は新人の陣内と捜査を開始した矢先、事件は意外な結末を迎える。

パンアメリカン航空-914便

天の川銀河
ミステリー
ご搭乗有難うございます。こちらは機長です。 ニューヨーク発、マイアミ行。 所要時間は・・・ 37年を予定しております。 世界を震撼させた、衝撃の実話。

クイズ 誰がやったのでSHOW

鬼霧宗作
ミステリー
 IT企業の経営者である司馬龍平は、見知らぬ部屋で目を覚ました。メイクをするための大きな鏡。ガラステーブルの上に置かれた差し入れらしきおにぎり。そして、番組名らしきものが書かれた台本。そこは楽屋のようだった。  司馬と同じように、それぞれの楽屋で目を覚ました8人の男女。廊下の先に見える【スタジオ】との不気味な文字列に、やはり台本のタイトルが頭をよぎる。  ――クイズ 誰がやったのでSHOW。  出題される問題は、全て現実に起こった事件で、しかもその犯人は……集められた8人の中にいる。  ぶっ飛んだテンションで司会進行をする司会者と、現実離れしたルールで進行されるクイズ番組。  果たして降板と卒業の違いとは。誰が何のためにこんなことを企てたのか。そして、8人の中に人殺しがどれだけ紛れ込んでいるのか。徐々に疑心暗鬼に陥っていく出演者達。  一方、同じように部屋に監禁された刑事コンビ2人は、わけも分からないままにクイズ番組【誰がやったのでSHOW】を視聴させれることになるのだが――。  様々な思惑が飛び交うクローズドサークル&ゼロサムゲーム。  次第に明らかになっていく謎と、見えてくるミッシングリンク。  さぁ、張り切って参りましょう。第1問!

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

闇の残火―近江に潜む闇―

渋川宙
ミステリー
美少女に導かれて迷い込んだ村は、秘密を抱える村だった!? 歴史大好き、民俗学大好きな大学生の古関文人。彼が夏休みを利用して出掛けたのは滋賀県だった。 そこで紀貫之のお墓にお参りしたところ不思議な少女と出会い、秘密の村に転がり落ちることに!? さらにその村で不可解な殺人事件まで起こり――

黙秘 両親を殺害した息子

のせ しげる
ミステリー
岐阜県郡上市で、ひとり息子が義理の両親を刺殺する事件が発生した。  現場で逮捕された息子の健一は、取り調べから黙秘を続け動機が判然としないまま、勾留延長された末に起訴された。  弁護の依頼を受けた、桜井法律事務所の廣田は、過失致死罪で弁護をしようとするのだが、健一は、何も話さないまま裁判が始まった。そして、被告人の健一は、公判の冒頭の人定質問より黙秘してしまう……

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

処理中です...