上 下
222 / 290
フキアエズ大会戦

第220話 オルコアの惨劇

しおりを挟む
 エレーナのマグネラ解放宣言から、4日目のことだった。
 
 東進を開始したオルコ共和国軍は、その全勢力を挙げて前進し、帝都は物家の殻になっていた。
 当然、駒を進める最初の一手は、エレーナ皇女軍による帝都奪還である。
 それは、戦うべき軍も皆無の無血占領である。

 そう、帝都奪還に時間をかけていられない、俺たちは帝都を速やかに掌握し、オルコ共和国軍の側背を突かねばならない。
 そのために、早急な追撃戦の準備に追われた、、、追われたのだが、ここで大きな、そして凄惨な問題が発生したのである。

「、、、、これは、いくらなんでも、、、こんなことって、、。」

 中世ヨーロッパや、古代の文明にはよくあることなんだろうか、俺はあまり、それを知らなかった。
 このようなやり方が、あるのだという事、そして人間は、こうも残酷になれるのだという事を。

 
 帝都に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。
 オルコ共和国軍が去った後、帝都は血の匂いで満ちていた。
 そして、一番驚かされたのは、帝都中心にある、オルコアの広場に一列に並べられただった。

 それを見た玲子君は、一瞬青ざめ、そして直ぐに目を反らした。
 それは人間として、当たり前の反応と言える。
 俺は玲子君の元に駆け寄り、肩を抱いて背中を摩った。

「雄介様、、、人間とはここまで残忍になれるのでしょうか?、私には理解の限界を超えています」

『あいつらよ、キル・ザ・ドールの発想だわ、この行いは!」

 シズもその光景に、嫌悪感と怒りで満ちていた。



 、、、、、オルコアの広場には、巨人族の人質となっていた、女性や子供の焼死体が張付け状態のまま放置されていた。

 
 太い丸太に縛られて、子供が生きたまま焼かれたのだ。
 巨人族の子供は、サイズ的には人間の成人男性ほどあったため、最初は住民が虐殺されたのかと思われたが、それが巨人族の子供だと解るや、同行していた巨人族は一斉に雄叫びを挙げ始めた。

 あの、マグネラ強襲の時のような勇ましい雄叫びではなく、悲しさと怒りの籠った、悲鳴のような、泣き声のような、なんとも言えないその叫び声は、いつまでもオルコアの広場に木霊し続けた。


「ユウスケ殿、、、、我々巨人族は、もはや怒れる獣の群れとなった。これまで行動を共にしてきたが、ここで独立的に行動したい。最後まで恩に報いることが出来ず、申し訳ない」

「おい、オル、、、ゼンガも!、この光景を見て、こちら側の人間は皆怒りに満ちている、単独行動なんてしないで、一緒に戦おう」

 ゼンガは、黙ったまま俺の言葉への回答を避けているようだった。
 そして、オルが重い口を開いた。

「ユウスケ殿、、、、実はな、あの焼死体の中に、ゼンガの妻と子供が含まれている、、、もう俺には奴を止めることは出来ない。友人として、奴に付いて行ってやりたい」

 、、、、、、俺だけではない、、、その場に居た仲間たち全員が息を飲んだ。

 身内が居たのだ。
 彼らは、家族の解放のために俺たちと共闘していたはずだ。
 それが、このような結果となってしまった。 
 人質が居るのだから、共闘すれば殺害の恐れもあった、しかし、まさかここまでやるとは、俺も思っていなかったのだ。

 、、、キル・ザ・ドール、、俺は絶対に彼らを許さない、これは現世か異世界かの問題ではない、人の矜持の問題だ。
 この世に、絶対悪など無いと考えていた俺が甘かったのだ。

 
 絶対悪は、、、存在したのだ。


 この時、ゼンガが一切涙を見せなかったことが、俺には忘れる事が出来ない。
 本当に絶望した時、、、、泣けないものなのだと、俺は知ったのだ。



 ゼンガは、変わり果てた妻子の亡骸の前に、いつまでも立ち尽くしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れた君と殻の僕

カギノカッコ
ミステリー
適正テストの結果、勇と仁は超能力者であると診断された。中学卒業後、二人は国の命令により超能力者養成学校のある島へと移送される。だが入学したその日に、仁は忽然と姿を消してしまう。学校側は「彼は再検査の結果、適性がないことが判明したため島を出た」というが、精神感応能力のある勇は、仁が島内にいると感じていた。仁はなぜ消えたのか。学校はなぜ隠すのか。親友を探すミステリー。

なんだこのギルドネカマしかいない! Ψギルドごと異世界に行ったら実は全員ネカマだったΨ

剣之あつおみ
ファンタジー
VR専用MMORPG〖ソーサラーマスターオンライン〗、略して〖SMO〗。 日本で制作された世界初の音声認識変換マイク付きフルフェイスマスク型インターフェイスを装着し、没入感溢れるVRMMOアクションが楽しめると話題を呼んだゲームである。 200名を超える人気声優を起用して、自分の声をAIで自動変換しボイスチャットが出来る画期的な機能を搭載。サービス開始当初、国内外問わず同時接続400万名以上を突破し社会現象にもなったゲーム。 このゲームをこよなく楽しんでいた女子高生「シノブ」はサービス終了日に一緒にプレイしていたギルドメンバーとゲームそっくりな異世界へと飛ばされる。 彼女の所属していたギルド〖深紅の薔薇〗はリアル女性限定と言う規約を掲げていた。 異世界に飛ばされた彼女は仲間達と再会するが、そこで衝撃の事実に直面する。 女性だと思っていたギルドメンバー達は実は全員男性だった。 リアルでの性別は男性、ゲーム内で自身をリアル女性を語るプレイスタイル・・・ 続に言う「ネカマ」だったのだ。 彼女と5人のネカマ達はゲームの知識を活かし、現実世界に戻る為に奮闘する物語である。

この満ち足りた匣庭の中で 二章―Moon of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
それこそが、赤い満月へと至るのだろうか―― 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 更なる発展を掲げ、電波塔計画が進められ……そして二〇一二年の八月、地図から消えた街。 鬼の伝承に浸食されていく混沌の街で、再び二週間の物語は幕を開ける。 古くより伝えられてきた、赤い満月が昇るその夜まで。 オートマティスム、鬼封じの池、『八〇二』の数字。 ムーンスパロー、周波数帯、デリンジャー現象。 ブラッドムーン、潮汐力、盈虧院……。 ほら、また頭の中に響いてくる鬼の声。 逃れられない惨劇へ向けて、私たちはただ日々を重ねていく――。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―

kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。 しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。 帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。 帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

黙秘 両親を殺害した息子

のせ しげる
ミステリー
岐阜県郡上市で、ひとり息子が義理の両親を刺殺する事件が発生した。  現場で逮捕された息子の健一は、取り調べから黙秘を続け動機が判然としないまま、勾留延長された末に起訴された。  弁護の依頼を受けた、桜井法律事務所の廣田は、過失致死罪で弁護をしようとするのだが、健一は、何も話さないまま裁判が始まった。そして、被告人の健一は、公判の冒頭の人定質問より黙秘してしまう……

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

BOOBY TRAP 〜僕らが生きる理由〜

鬼霧宗作
ミステリー
 【ルール1】――プレイヤーは全員で20名。そのうち19人は普通のプレイヤーですが、1名はゲームの犯人役となる【ブービートラップ】です。この犯人役を特定することが、プレイヤーの目的となります。ただし、誰が【ブービートラップ】なのかは本人さえも知りません。  【ルール2】――各プレイヤーはそれぞれ別々の地点よりスタートします。スタートするに伴い、各プレイヤーに物資と【サゼッションターミナル】を支給します。ただし支給される物資はプレイヤーにより異なります。また【サゼッションターミナル】内にあらかじめ提示されている【固有ヒント】も異なります。物資が役に立つものだとは限りませんし、全ての【固有ヒント】が正しいとも限りません。  【ルール3】――制限時間は24時間とします。この間に【ブービートラップ】が特定されない場合はプレイヤーの負けとみなし、街が焼き尽くされる仕様となっております。また、誰かが街の境界線を越えても、同様の結果となります。  【ルール4】――死亡者が出た場合は、その都度町内アナウンスで報告いたします。また、死亡者の物資を運営が回収することはありません。ただし、所有していた【サゼッションターミナル】の【固有ヒント】は各々が所有する携帯端末へと転送されます。  【ルール5】――【ブービートラップ】が分かった方は街の指定場所に設置されている【テレフォンボックス】にて解答して下さい。ただし、解答を行うには本人のものを含む5台の【サゼッションターミナル】からの認証が必要となります。また、ひとつの【テレフォンボックス】につき、解答が可能なのは一度限りです。見事【ブービートラップ】の正体を暴くことができればプレイヤーの勝利。全員が街より解放されます。ただし、間違っていた場合は、解答する本人を含む5台のターミナル所有者が死亡することになります。  【ルール6】――暴力行為などは自己責任であり、禁止はされてはおりません。本ゲームはプレイヤー同士が協力をして【ヒント】を集めるという、実に素晴らしいコンセプトの下に行われるものですが、20名もの人間がいれば、争いや対立も起きることでしょう。ゆえに規制はございません。ただし、意図的に殺害されてしまった方の死亡報告はいたしません。  【ルール7】街の特定の場所には、あらかじめ罠が仕掛けられています。また、罠が仕掛けられているエリアには、必ずマスコット人形である【トラッペ君】があります。もし【トラッペ君】を見つけたら警戒してください。罠にかかってしまった場合【トラッペ君】が助けてくれることもあります。  【ルール8】――万が一にも【ブービートラップ】が何かしらの理由で死亡してしまった場合、ゲームは強制的に終了させていただきます。この時点で生存されているプレイヤーの方々は無条件で解放となります。 絵:本崎塔也

処理中です...