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第二十章 繋がれる明日へ

繋がれる明日へ 第二節

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邪神ゾルドとの戦いが終結した後、三国と教会国の騎士達はもはや瓦礫しか残らない帝都ダリウスの廃墟を離れた。後で合流したエステラ王国の女王メアリーと教会国の大司教アイーダとともに、帝都のすぐ近くにある離宮ヘリヴェリアを暫定拠点として戦後の後片付けを行うことになった。

離宮に到着した当日の夜、ラナ達一行は何よりも優先して、ミーナとともにウィルフレッドの診査を行った。離宮の一室で、元の形へと戻った神器を携えるレクス達が見守る中、ミーナはウィルフレッドにかざした杖をゆっくりと収めた。

「どうだミーナ?」
「…うむ。問題ないぞウィル。アスティル・クリスタルからのマナの流れは非常に安定している。新しい体との協調性も完璧だ。肉体崩壊が起こることはまずないだろう。おぬしはどう感じる?」

「そうだな。もう痛みも異常も感じられないが…」
「何か気になることがあるのか?」
ウィルフレッドが感覚を掴むかのように手を何度か握る。
「なんて言えばいいんだろう…って感じがする。魔人アルマ化もできなくなってるし、体だけはまだ眠ってるような感じというか…」

「ふうむ…。新しい体にまだ慣れてないということか?一応、今のおぬしを我らの魔力的観点からみる場合、アスティル・クリスタルも加えてその質と格は非常に高いものになっている。マナの循環も特に異常はない」
杖で軽くウィルフレッドの・クリスタルをつつくミーナ。

「だがマナを帯びるようになったとしても、その基礎はやはり未知なる地球おぬしの世界の技術だ。ましてや初めての両世界の技術の融合ともいえるウィルには先例がないから、今の診査でも我にまだ理解できない箇所は結構ある。これからも常に観察し続けた方が良いだろう。エリー、後でウィル専用の魔法診査の仕方を教えるから、これからはおぬしが彼の面倒を見てやれ」
「はいっ、お願いしますっ」

レクスがポンポンとウィルフレッドの肩を叩いてサムズアップした。
「良かったねウィルくんっ、これで晴れていつまでもエリーちゃんとイチャイチャできるよっ!」
「レクス…っ」「レクス様っ!」
「ふふ、お二人さんとも可愛いですよっ」
首まで真っ赤になるウィルフレッドとエリネに、アイシャは至高の滋養を得たかのように顔をツヤツヤと光らせていた。

「こら、からかわないの」
「いてっ」「いたっ」
ラナの突っ込みチョップが軽くレクスとアイシャの頭に炸裂した。
「ちなみに先生、神器の方もあの時キースさん達のアスティルエネルギーを受けて変形してましたよね、そちらの方は特に問題ありませんか?」

「そういえばアオトさん達が離れたらフェリアはあっさりと元の姿に戻ったよな。あの時みたいなすんげぇパワーもなくなってるし」
フェリアを手にしてマジマジと見つめるカイ。
「うむ。武器関連は専門外だが、ドーネ殿も一応問題はないと言ってるからな。少なくとも悪い影響はないと見て良いだろう。やはりキース殿達のクリスタルの力を受けた一時的な形態だろうな」

カイ達に力を貸し、最後まで自分の身を案じて救ってくれたアオト、キース、サラの笑顔が頭を過ぎる。自分の手眺めては、自分の血肉と化してくれたネイフェのこと、その手助けを最後までしてくれた彼らののことを思い出し、ウィルフレッドは涙を誤魔化すように俯いた。それに察したラナが彼の背中を叩く。
「胸を張りなさいウィルくん。ネイフェ様も言ったでしょ、彼らの分まで生きなさいって」
「ラナ…」

「キースさん達と触れ合うチャンスは殆どなかったけど、ネイフェ様とともに貴方の命を繋いだことにきっと誇りに思ってると信じてる。そんな彼らのことを、私は決して忘れないわ」
「ああっ、俺もアオトさん達のこと絶対忘れないよ兄貴っ」
「僕達だってキースさん達から返しきれない恩を貰ってるしね」
「サラ殿のお陰で色々とインスピレーションも貰ったからな。色んな意味で忘れんわ」

エリネの両手がウィルフレッドの手を包んだ。
「私も、絶対に忘れませんよ…アオトさん達が…ネイフェ様がいたからこそ、私はこれからもウィルさんと一緒にいられるのですから…」
「エリー…」

我慢できずに零れた涙を拭い、ウィルフレッドは胸を張ってはラナ達に笑顔を見せた。
「みんな、ありがとう…っ」


******


離宮の城下町、元々あった犯罪者用の収容所。正門で見張りをした衛兵は、一人のエルフの女性が歩いてきたのが見えた。
「貴女は…ミーナ様?こんな夜遅くに何か御用ですか?」
「ご苦労様だ。例の奴に会いに来た。彼と二人きりで面会させて欲しい」

「二人きりで?ですが…」
「心配は無用だ。彼はもはや抵抗する力もないし、この我の魔法に抗う術もない。それとも我が信用できないのか?」
「いやっ、滅相もございませんっ。いまご案内します」

衛兵に案内されたミーナは、収容所の奥にある臨時補強された監房の柵の前までたどり着いた。
「それでは、どうか気を付けてください。曲がりなりにもあのザナエルの側近だったと聞きますから」
「分かっておる、感謝する」

衛兵が退散すると、ミーナは椅子を一脚引っ張っては柵の前に座る。壁や柵に魔法対策の多数の護符が張られた監房の奥で、手足に魔法封じの鎖が絡まれたエリクがベッドからゆっくりと体を起こした。
「ミーナ殿…」

「体の様子はどうだ、エリク?」
「おかげさまで大変良くなってますよ」
苦笑するエリクの顔は多少憔悴してはいるが、その青い目にはもはや彼を縛る赤いオーラはない。ゾルドの消滅に伴い、エリクはもはや邪神法は使えず、そして邪神の洗礼を受けていたため、一般的な魔法も短期内では使うことができなくなっている。

「…すみません、ミーナ殿、私の不徳ゆえに、貴方に、恩師に、そして多くの人々に取り返しのつかないことを…」
罪の意識に苛まれるかのように俯いたままのエリクに、ミーナはただ静かに目を閉じる。
「そうだな、そんなおぬしに色々と話たいことはあるが…もう少し寄ってくれぬか」
「はい…」

その方が話しやすいと思って、エリクはじゃらじゃらと鎖を引きずりながら柵の方へと近づいた。そして次の瞬間、ミーナの杖がその頭に思いっきり叩き込まれた。
「あいたぁっ!?」

「このっ!おおばかっ!ものぉっ!取り返しのつかない程度で済むかアホがぁっ!私がっ!どれほどっ!苦労したのかっ!ちゃんと分かってんのかーーーっ!」
「いたっ!いたぁっ!すみませんっ!すみませーーーんっ!」
ミーナの杖の爆撃はしばらく続いた。

「…これで少しはこっちの苦労が伝わったかバカエリクっ」
「はい…それはもう…」
腕を組んでプンプンとしているミーナに、ボロボロに殴られたエリクは深く反省しているかのように正座していた。

「…どうか安心してくください、ミーナ殿。自分がどれほど罪深いことをしてきたのか、一生忘れることはないのですから」
自分の足を強く掴むエリクを見て、ミーナはふぅと小さくため息をしては続いた。
「……そういえばウィルが言ってたな、あやつの世界は、サイバー技術のせいで他人の意識を改ざんした犯罪が多発していたと」
「え…」

指を無造作にいじりながら続くミーナ。
「そのためか、ウィルの世界の人は操られた人に対してはあまり罪の追及はしないと聞いたな。まあそもそも、他人への関心が極度低い世界ではあるが」
「ウィル殿とは…確かギルバート殿と同じ異世界の…」
「うむ。異なる世界の基準を並べるのはお門違いかもしれんが…、少なくとも我は、ザナエルがあんたを通して行った悪行を問うつもりはない。罪を意識してるのなら、これからそれを償うつもりで人々に貢献しろ。ラナ達が死刑宣告を下さなかったのも、その意図あってのことだからな」

自分を見下ろすミーナを暫く見つめては、苦笑するエリク。
「そう、ですね…。仰る通りです」
ミーナもまたようやく一抹の笑みを浮かべた。

「しかし、奇妙な縁もあるものですね」
「どういう意味だ?」
「オズワルド殿のことですよ」
「オズワルドだと?」
意外な名前に驚くミーナ。

「はい、私は言いましたよね。ザナエルの呪縛から解き放してくれたのはオズワルド殿のおかげだと」
巫女たちの力を借りてゾルドを再封印しようとするエリクの言葉を思い出す。
「そういえば、確かにそのようなことを言っておったな」
「はい、その理由が、また実に興味深いものでしてね」

――――――

帝都奪還戦が始まる二日前、夜も深くなったオズワルドの寝室に、エリクが頭を軽く押さえては入ってきた。
「う、うぅ…」
「やっと来たか、エリク殿」
「オズワルド、殿…」

オズワルドは窓を閉じてはカーテンをかける。
「メディナに頼んで消音の結界を張ってある。話の内容が漏れることはないだろう」
また痛みが走る頭を抑えるエリク。その目の中には依然として赤いオーラが揺蕩っているが、彼の意識は意外とはっきりとしていた。

「…あの景気づけのワインですか?」
「害ある呪術の魂への影響をある程度遮断できる無色無味の霊薬と聞く。呪術自体を解除するものではないから、すぐにザナエルにバレることはないだろう。もっとも、意識を保つには暫く継続して霊薬を摂取する必要はあるが」

軽く頭を叩いて、エリクは当然の疑問を投げだした。
「なぜです、オズワルド殿。ザナエル様に協力して願いを叶えようとする貴方が、なぜ私を彼の呪縛から解放するようなことを…」
ワイングラスにブドウワインを注ぎ、一口啜ってから椅子に座るオズワルド。

「エリク殿、貴方は運命を信じるか?…いや、正確には、運命をのだろうか」
唐突の質問に困惑するエリク。
「どういうこと、ですか?」

「私の人生は実に無味なものだった。何事にも感情を抱くことなく、ただオズワルドという人物を演じるだけの日々…そんな私に欲望という火を付けてくれたのが――」
「ラナ殿、でしたね」
グラスをゆらゆらと回すオズワルド。

「実に独特な感情だった。彼女の高ぶる目で自分の虚無の心を燃やしてほしいという欲求…、今でもそれを想像するだけで体が熱くなる。そしてザナエルが私にその欲求を叶える提案を持ちかけてきた時、私はこれを運命であると確信した」

「それで私達に…ザナエル様に手を貸したのですね」
「ああ。しかしな、意外にも私の心に別の欲求を植え付けてくれた方がいるのですよ」
「それは…」
「ギルバート殿だ」
「魔人が?」

再びグラスを傾けてはワインを飲み干す。
「先日ギルバート殿にお礼のワインを招待していた時、彼が言ってましたよ。運命に自分の人生を操られて、不満とか、反逆とか考えることはなかったのかと」
「運命に、反逆…ですって」

頷くオズワルド。
「実に面白い考えですよね。私達は運命自体を信じても、それに逆らい、掌握することなんて思いつきもしないのですから」
「なるほど、では貴方は…」

終始無表情だったオズワルドの顔がにやける。
「あの時から私の心は不思議と初めて、ラナ様以外の物事に興味を抱くようになった。教団に与する運命に、私は逆らえるかどうか、とね」
「それで私を…」

「残念ながら運命自体がどのような未来を編み出しているのか知る術がないから、運命へ逆らえたこと自体の立証はできない。だが少なくとも外なる世界から来たギルバート殿と出会えなければ、君を呪縛から解放することはしなかった。だからこの件だけは確実に私の意思によるものだと断言できるな。もっとも、ラナ様への欲求はどうにでもならないから、教団を抜けることまではしないゆえ、結局はちょっとした出来心なだけだ」

「…すべてに対して無感情な貴方から見れば、出来心があること自体異常事態ともいえますがね」
オズワルドはただ静かに笑っては、再びワインをグラスに注いだ。
「後は好きにしたまえ、エリク殿。この行動が、果たして運命を覆すことに結びつけるのかは証明もできず、見届けることも出来ないかもしれないが、私にはそれで十分だ」

――――――

「そうか…それであんたは思考操作の呪縛を振りほどいたのだな」
「はい。これを利用して巫女たちを助ける機会を伺ってましたが、結果は貴女もご存じのように失敗しましたし、しかもそれがギルバート殿によるものですから、皮肉なものですね。…けれど、それがきっかけでウィル殿の助けになられたのですから、分からないものです」

「例のナノマシンの話か?」
「はい、実はザナエルからそれを処分しろと指示を受けていたんですよ。思考操作がそのままだったら、すでに廃棄処分していたはずですが…呪縛が弱まると、まだ何かに使えるのではとつい手元に置いていたんです」

ネイフェが、ウィルフレッド達の存在によって運命が乱された話を思い出す。その話を聞いた時から、ギルバートの方も同じように運命を乱しているとは思ったが、このような形で巡り巡ってくるとは実に意外だった。ミーナが頷く。
「そうか、どうやら運命学に関してはその理論を大きく書き換える必要がでてくるな。…にしてもザナエル、か…」
顔をしかめるミーナ。

「エリク、ザナエルは千年前の最初のゾルドの大神官と言っておったな」
「ええ」
「そのゾルドの正体…我は三位一体トリニティの秘法を通して知ったが、あんたは知っているのか?」
「勿論です。教団にいた頃、ザナエルとは色々と彼の昔話をしてましたし、彼が蒐集した古文書なども色々と読ませてもらったのですから。…ゾルドは、大地の女神ガリアその方ですよね」

ミーナが頷く。
三位一体トリニティの秘法は教えてくれた。大地の女神ガリアはこの大地とその上に生まれた最初の命たちを産み落とした女神であった。しかし、千年前にザナエルによってゾルドという名前を押し付けられ、人々の感情に狂っては邪神へと変貌してしまったと」

「はい。ザナエルの話によれば、ゾルドと完全に化す前に、ガリアはその一部霊体を切り離しては自分の信徒が集う大地の谷へと逃げ込み、他の三女神達と協力して神器と三位一体トリニティの封印秘法を完成させては、霊体までも汚染される前に谷を満たす加護と化して消え去ったのだと。ガリアは自分に関する一部情報だけを谷の人たちにのみ託し、真実を三位一体トリニティの秘法にだけ留めるようにしました。感情ある一般人がガリア女神のことを思っても、その祈りの矢先は変貌した姿のゾルドに向かい、ゾルドの糧となってしまいますから」

「そこまでは我が受け継げた記憶と一致するな。大地の谷の民達が超然としていることにも繋がるし、命を産み落とすとされるガリアを母と例えれば、逆三角ネガ・トリニティの陣の真ん中の構築要素がというのも頷ける。だが我には一つ解せないことがある。ガリアは曲がりなりにも女神だ、確かに魔法において名前の定義による影響は大きなものだが、ザナエルといえどそれだけで女神たるガリアをあの邪神にまで変貌させることができるのか?」

「それについてですが…私も最初に聞いた時はかなり驚きました。ミーナ殿、私たちの知る女神達は、勇気や文芸、愛などの様々な体現だと言われてますよね」
「そうだな。誰でも知っている常識だ」
「それが、女神たちは最初からこれら性質を体現している訳ではなかったようです」

「? どういうことだ」
「ザナエルによれば、ガリアを含めた女神たちは、最初にこのハルフェンを創世した際、感情というものをまったく持ち合わせていなかったようです。いえ、そもそも最初は女性の形ですらなかったと」
「なんだと…」
ミーナが驚愕の表情を見せる。

「いやしかし、我ら心持ったものはみな女神達より作られし命なのに、その創造主である女神らが感情を持たないのは――」
「ミーナ殿、創世神話の記述を思い出してください。その冒頭はどう語られましたか?」
「そうだな…。『一人の女神は万物を照らす太陽を作り、一人の女神は闇夜を照らす月をもたらし、一人の女神は夜空に散らばる星々を与え、世界ハルフェンが創世された。その世界にやがて多くの生き物が生まれ、智慧あるものにより文明が築かれ』―――あ…」

「気付きましたね。『その世界に多くの生き物が生まれた』。その生き物が女神たちにより。自分たちが創った世界の中から知恵ある生き物たちが誕生したことは、女神達には予想外の出来ことだったのです」
「そ、そうだったのか…では、女神たちは…」

「ザナエルの言葉を信じますと、女神たちは知恵ある生き物たち、つまり私達人やドワーフ、エルフらが持ち合わせる心に、感情に惹かれていたのですよ。スティーナは人々の間に育まれる愛に、ルミアナは夢ある者たちが作り出す創造物に、エテルネは強き心を持った人たちの勇気に、そして――」

大地の谷のエウトーレの話を思い出すミーナ。
「…ガリアは、不幸にも死んでいった人達の魂に…」
「はい。そんな人達の境遇に引かれ、女性の姿をとった女神達は、心の感情への受容性は非常に高いものだと考えられます。ザナエルがどんな経緯でガリアと接触できたのかは分かりませんが、そんな女神達の関心を、彼が意図的に強い感情へと向けさせれば……」

「それが感情の混沌カオスか…。なるほどな。封印秘法の構築に欠かせない要素として、ガリアの事実を知ることが含まれてるが、事情を知った上で憐憫をもってゾルド彼女狂気強い感情を鎮める目的だったのか」
「そうでしょうね。激情では、そのまま感情の混沌と化してしまうのですから」
「ふむ…。にしても女神達が最初、感情を持ち合わさなかったとな…。なるほど、これならあの説への立証もできるかも」

「なんのことです?」
「ウィルとエリーのことだ」
ミーナは、ウィルフレッドの体質とエリネとの関係を簡潔に説明した。

「そんなことが…確かに、ギルバート殿を診査してた時、魔法が殆ど効かないことは気になってましたが」
「うむ。ウィルがこの世界に来た頃、エリーしか魔法が効かないのが今でも引っかかっていたのだ。ネイフェ殿は、二人は互いを補う何らかの要素があるからと推測していたが、案外、スティーナの魂の力を受け継いだエリーは、ウィルに自分の欲しい感情があるのを魂的レベルで無意識に知っていたのかもな。ウィルの方もまた、意識が同調しているクリスタルに、エリーに自分が求める物を察してこそかもしれない」

手を顎に当てて考え込むエリク。
「ふむ…では、あのメルセゲルというクリスタルがゾルドを受け入れたのも似たような理由でしょうか。何がゾルドに欲しいものを求めているのは分かりませんが」
「どうだがな。単に女神だったゾルドとメルセゲルが、ネイフェ殿のいうことわりレベルで近かった存在なだけかもしれんが…。やはり互いに何が欲しいものがあると解釈すべきかもしれんな、ここは」

「何かそう考えさせる理由があるのですか?」
「いや。ただ単に…」
少し止まってから、ミーナが答えた。
「その方向性の方がが感じられるからな」

エリクが驚いたように目を見開いて自分を見ていることに気付くミーナ。
「どうした?」
「いや、単に驚いただけですよ。まさかあのミーナ殿からロマンという言葉が聞けるとはぶおっ!」
ミーナの杖が容赦なくエリクの頭に叩かれる。

「次は容赦なくかち割るぞ」
「いやはや…失礼しました…」
痛そうに頭をさするエリク。腕を組んでご機嫌斜めだったミーナが鼻で小さく笑った。

「どうかしましたか?」
「いや、些細なことだ」
ミーナは先ほどのやりとりで思い出していた。封印の里で強引に自分に関わってくる彼のことを。一緒に魔法を研鑽し、熱が入っては何時間も論議を続けたあの頃を。けど彼女は決してそれを口にはせず、ただもう一度、懐かしそうに笑った。

「あんたがもう少し早く正気に戻れたら、こっちの荷も少しは軽くなると思っただけだ。これからはそれらの分も纏めて贖うよう容赦なくあんたをコキ使うからな。里の片づけに教団の情報、やるべきことはまだ山積みだ。それに…」
顔の表情を隠すようにとんがり帽子の鍔を深く被るミーナ。

「結果的ではあるが、あんたのお節介のお陰で我はこれで正真正銘のだ。その責任も合わせてしっかりと我の補佐をしてもらうぞ、覚悟しとけ」
ミーナの声は実に感情に富んだものだった。罪悪感と喜びが混ざり合う気持ちに一抹の感慨さを覚えながら、エリクも穏やかに笑っては頷く。
「ええ、どうぞ心の行くままに使ってください」



【続く】

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