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第十三章 ウィルフレッド

ウィルフレッド 第九節

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シート一枚だけ腰に巻いている俺は、斜めに立っている施術ベッドの上で固定されたまま、強化ガラスの向こうでいつもの無表情であるミハイルや技術者達を見つめていた。

「実験体ナンバーNA-001。心拍数、血圧、脳波、生体部品の動作も含め全て正常」
体にインストールされた生体部品が僅かに疼く。もっとも、ネット接続用生体部品など必要最低限なもの以外、俺やアオト達の肉体改造は最低限に抑えられている。アニマ・ナノマシンの注入先としてはその方が望ましいらしく、お陰で今までの任務で何度も死にそうな思いをした。もっともその感覚を覚えることもまた最高のアルマを作り上げる必須条件の一つだとミハイルは言っていた。

「アニマ・ナノマシン装填シリンダー1番から9番、動作確認」
自分を囲むシリンダーが確認動作を行う。その中に詰まれた改造型アニマ・ナノマシンが不思議な光沢を輝かせる。便宜上ナノマシンという名称を使ってはいるが、実際には俺達の知るどの物質にも当たらない未知のものだそうだ。生命の分裂や増殖の特性を持ち、プログラム等の情報によって様々な特性を持てるようになっている。

これに特殊な生物情報などを組み込み、生体に打ち込んで変異させたのが変異体ミュータンテスだそうだが、今シリンダに入ってる改造型は情報が一切組み込まれていない純粋なアニマ・ナノマシンだ。言い換えれば、これから行う第一次変異は、ある意味では人間をヒューマン変異体に作り替えるのと同義ともいえた。

普及されているサイバネ化の概念があっても、異星の技術により体を作り変えられることに抵抗がない訳ではない。だが、元より自分に選択肢はないし、覚悟も決めていた。

スピーカーからミハイルの声が聞こえる。
「第一次変異で打ち込まれる改造型アニマ・ナノマシンは君の全ての細胞や神経と融合、同化していく。その過程では激痛が伴い、拒絶反応が起きれば当然そのまま死ぬ。この後は本番のアスティル・クリスタルの移植が控えているから、耐え抜け」
気軽に言ってくれると密かに苦笑しながら、俺は自分の真上でアームにより保持されているる青き輝きを放つ結晶を見た。

アスティル・クリスタル。アウター1の機関部で動力源として使われた虹色のアスティル結晶体の残骸、通称マンサーラから抽出に成功したものだ。改造型アニマ・ナノマシン同様、不純物が一切混じらない純粋な結晶だそうだ。空間と時間の連続体に干渉することで一定量またはそれ以上のエネルギーを常に生成でき、その特性を利用して簡易的な量子式演算機能と、超集積による膨大な記憶能力メモリーをも有している。

だが『組織』はクリスタルの応用技術こそある程度掴んだものの、結晶自体がどのように作られたのかは未だに解明されていない。まさに現代のオーパーツだ。異星人と思しき遺体に類似した成分を発見したことから、異星人がその体内で精錬しているという説もあるが、定かではない。

そのため、作られたアスティル・クリスタルの数は非常に少なく、現状作られているのは自分の知る限り、たったの五つしかない。

まるで生きてるかのように淡い青色が揺蕩うクリスタルの輝きに思わず吸い込まれるような錯覚を覚え、俺は目をそらしては意識を手術の方に集中した。

「第一次変異シークエンス、開始」
まるでいつもの実験のような淡々とした技術者の声が響くと、シリンダーが一斉に動き、針が俺の頭部、両腕、両足、胸と腹へと一瞬に深々と差し込んだ。
「うっ!」
「アニマ・ナノマシン、注入」

意識が飛ぶような激痛が全身を走り、俺は絶叫した。まるで神経の中に図太い異物が入り込んだかのような痛み。ベッドの拘束具が暴れる自分の力で音を立てて、口に付けたベルトがきしむ。その様をミハイルや技術者達はただ冷たく観察する。

「ナノマシン定着率20%…骨格変異完了…30%…」
「あがっ、あがああぁぁーーーーっ!」
骨の芯、筋肉繊維の一本一本が焼けるような感覚。

「…全ニューロン再構成進行…心拍数増加、許容範囲内…50%…」
「がああぁぁぁぁぁっ!Oaaaaa----!」
絶叫が異質な声に変わっていく。

「筋繊維変異進行正常…脳神経変異進行中…70%…80%…」
「AAAAAAAAA-----!!!」
脳が攪拌され、意識が体から浮遊するような乖離感を感じ、また体の中に重く落下したかのような感覚に襲われ、視界が暗闇に覆われた。

――――――

「―――定着率100%。心拍数、血圧ともに安定値を維持。実験体、意識回復」
「…うぅ…ぐうぅ…っ」
再び意識が戻り、ゆっくりと目を開いたら、変わらず冷淡な顔をしたミハイルと技術者達が見えた。試しに指などを動かす。まだかすかに痛みが走るが、先ほどのような激痛はもはや感じない。

「1時間経過、拒絶反応なし。実験体ナンバーNA-001、アニマ・ナノマシンによる第一次変異終了」
スピーカーから再びミハイルの声が聞こえた。
「聞こえるか。ウィル」
「…はい…」
「第一の関門はクリアした。だが次こそが本番だ」

ミハイルが目を配ると、技術員が次の操作を行った。
「君の全身に融合したアニマ・ナノマシンは情報を一切組み込んでないため活性化していない。全ての情報、改造の設計図プログラム情報を持ったアスティル・クリスタルを移植し、そのエネルギーが全身のアニマ・ナノマシンを活性化させて君の体を今度こそ完全に作り変える。それに耐え、クリスタルが安定して君の体に定着すればようやく改造は完成する。ここから先は未だに成功例はないが、忘れるな。成功するかどうか、半分は君自身にかかっている」

技術員の操作によりアームが動き、真上で保持されていた青きアスティル・クリスタルが胸の上へと移動した。
「掴み取れ、力を」

アームに付いた針などの機構が一斉に動き、アスティル・クリスタルを胸の中へと押し込まれる。俺の変異した体がまるでクリスタルに呼応するかのようにそれを深く取り込み、繋がっていく。
「ぐぅっ!」
「アスティル・クリスタル付着。最終変異、開始」

装置から電流が走ると、クリスタルから発する激しい光が視界を満たした。迸るエネルギーが全身を走り、激痛をも超えた痛みに、自分では聞こえない絶叫を上げる。
(――活性率20%、ナノマシン再構成、進行――)
おぼろげに声が聞こえ、
(――塩基配列――コード増殖――各システム構築開始――)
全ての感覚が遮断され、
(――エネルギー逆行――生命活動低下っ!――)
意識が、沈んでいった。











周りを意識すると、そこは星の海だった。深遠なる闇で煌めく無数の輝き、宇宙そのもの。銀河の川に意識が流れていき、何かの声と景色が俺の中に入ってくる。
(((――メテウス3より本部へ。これから不明構造物内へ入る――)))
リーンヴァース社の調査チームが、舟の残骸に入ってくるのが見える。

(((――信じられん…これはまさか…っ――)))
そこには、の亡骸。の寝床。そして、虹色の、アスティル・クリスタル。

意識がさらに流れていき、膨大な情報が入っては流れていった。

(無限の)天体。(散りばめられた)宇宙船。(数多の)文明。(終わりなき)探求。(可能性の)地球。――(御座への)回帰。

我々は――違う。違うっ。俺が引張られていくっ。逃げることも隠れることもできないっ。赤裸々な俺の意識との間を遮蔽するものが何一つ無いからっ。我々が沈んでいく。命が生まれた海へと帰るがのように、星々の海の深淵へと…っ。



…なんと穏やかで心地良い静寂だろう。苦しみも悦びも何もない。あるのはただ永遠のまどろみだけ。このまま委ねよう。この宇宙の底の底で、意識を溶かしながら―――




「―――…んん」
(? なんだ?)
「―――ああーーん…」
(泣き声?)

声をする方向に俺は意識を向いた。間違いない。果てがない宇宙の中で、はっきりと聞こえた。幼い一人の子供の泣き声が。それがステイシス槽で浮かぶ子達の亡骸を想起させ、いまだに自分に流れ込んでくるイメージを全て追い出していく。
(…そうだ、俺はこんなところで終わってはいけないんだっ!)

暗く冷たい星の海の中で、俺と言う意識が再び形を成した。俺は必死に意識を保ちながら、この海にあるはずの無い水面を、出口を探すよう必死に泳いだ。

「う、うおお…っ」
どこを見ても、いくら進んでも、あるのはただ無限に広がる宇宙のみ。それでも俺は止めなかった。未だに聞こえる泣き声が、まるで灯台かのように俺に進むべき方向を示しているからっ。

「ああーーん…!」
今やはっきりと聞こえた。俺にとっての、が、すぐそこにっ。それを掴むよう、俺は存在しないはずの手をそこに向けて目一杯に伸ばした!

「あああああーーーーーっ!!!」




――――――

「状況は?」
「生命反応ロストしてから既に3分経ちました」
「ダメだったか。あと1分過ぎたら実験体を――」
「! 待ってください!アスティル・クリスタルの反応急激上昇!これは――」
「グアアァァッ!!!」

死体と化したはずの体が急激に強張る。さながら青き太陽の如くアスティル・クリスタルが輝きだし、光の奔流が全身を駆け巡る!青き電光が疾走し、改造室の電気機械が次々と爆発していくっ!

「なっ、どうなっているっ。状況を報告しろっ」
「ナノマシンが凄まじいスピードで再活性化!アスティル・クリスタルから膨大なエネルギーが実験体に流れて――」
クリスタルから段階的に発する激しい衝撃が地下施設全体を震撼させ、改造室の強化ガラスに亀裂が走る。電光が外へと飛び出て、ケーブル類が火花を散らすっ。

「改造室の隔壁を降ろせ!だがシークエンスは続行させろ!モニターも続けるんだ!」
「了解!1番から3番、全隔壁作動!消火装置さ―――」
強化ガラスを覆うように隔壁が下ろされ、消火装置が次々と作動し始めたその瞬間。
「ガアアアアァァァーーーーッ!!!」
改造室内部から眩い閃光がほとばしり、地上のエンパイアタワーさえも揺らぐ激しい衝撃が隔壁全てを吹き飛ばした。
「「きゃあああっ!」」「「うあああああっ!」」「ぐぅっ!」



―――暫く、部屋ではけたたましいサイレン音と明滅する緊急ライトやモニターしか動くものはなかった。やがてミハイル達はゆっくりと立ち上がる。
「くっ…救急班っ、至急S-54へっ。オペレーター、実験体の様子はっ?」
「けほけほ…っ、今、確認します…っ」
技術員達が破損したモニターやホログラムパネルで状況を確認しようとする。

「…あ、ああああれ…っ」
一人の技術員が、改造室を覆う消火装置の煙の奥に浮ぶ、青く脈動する輝きを震える手で指した。ズシンと、俺が前に踏み込むと、技術員全員が一歩後ずさる。大きく人ならざる吐息の声を発すると、煙の中から俺は歩み出た。

「「「おおお…っ」」」
技術員全員が驚嘆の声を挙げる。ミハイルがかつてない悦びに満ちた笑顔を見せた。

未だに煙立つ銀色の光沢をしたボディ。半生体の赤いカメラアイ。そして両腕や両肩などに、胸のクリスタルと同じ神秘的な青の輝きを発する結晶。その胸のクリスタルから青のエネルギーが、まるで心臓から血が流れるように全身を駆け巡っていく。異形の体と化した俺はゆっくりと改造室から歩み出た。

「アニマ・ナノマシンおよびアスティル・クリスタル、共に安定しています。実験体の生命的信号も全て正常、長官…っ」
興奮の混じった声で報告するオペレーター。ミハイルは臆もせずゆっくりと歩み、俺の前に立った。

「私のことが分かるか?」
一回息を吐いてから、異形の声で答えた。
「…はい、ミハイル長官」
「君は誰だ?」

まるで自分の存在を確かめるために拳を握り、もはや人でない目を光らせては、俺は毅然と答えた。
「ウィルフレッド…、ギルバート大尉のチーム所属のウィルフレッド、です」

ミハイルが再び悦びの笑顔を見せた。
「ウィルフレッド。計画プロジェクト成功者第一号。おめでとう。これで君はアルマ、地球の全てを超越した存在となった」

俺は大きく息を吸い込み、光となって胸から全身へ巡り、溢れる強大な力に衝き動かされ、大きく吼えた。
「ウオオオオォォオォァァァーーーーーーッ!!!」


******


改造に成功し、元の姿に戻った俺の身体検査が全て終わった翌日。施設内の広大な戦闘テストルームで、俺は人間の形態のまま一人立っていた。ルームを俯瞰できる上方の強化ガラスの向こうにある部屋には、これから行うテストをモニターしている研究員とミハイルの姿が見える。

「いいかウィル。さっきブリーフィングしたように、これからはまずアルマ化前…ノーマル形態の戦闘テストを行う。武器は勿論無い。今はもはや君自身が兵器だからな。思うがままに力を振るえ」

操作員達がテストの用意をしている最中、俺はいまや体の一体と化した、胸元で淡く脈打つアスティル・クリスタルに触れた。最初にクリスタルの輝きを見たときの妙な不安はもはや感じられず、完全に自分の体の一部として馴染んでいた。

「地形変化プログラム作動、タレット、ドローン展開」
部屋内の機構が作動し、地形に高低差が生じ、至る平面からオートタレット、飛行型戦闘ドローンが次々と展開されていく。俺は小さく息を吸うと、目のスキャンやズーム機能、耳の集音機能などの動作を起動した。電磁波やX線スキャン、赤外線スキャンの結果と音声情報が一瞬にして処理され、目のインターフェイスに地形や武器の位置、製造元などの情報が投影される。

クリスタルに予め組み込んだ設計図プログラムにより、俺の体の全てがアニマ・ナノマシンを主体に、現在の地球における最先端のサイボーグ技術に作り変えられている。もっとも、アニマ・ナノマシンの特性により、これらはより最適化するよう自己再構成されており、使用経験を積んでいけば、いまや脳と完全接続したクリスタルに蓄積される情報を基にさらに進化すると研究員達は言っていた。

「NA-001改めAT-01『アサルト』。ノーマル形態テスト開始」
自動兵器群が一斉に動き出す。俺が合わせて走り出したその瞬間、世界が緩やかになる。アニマ・ナノマシンにより強化された身体能力と反射ニューロンに合わせ、変異した脳の処理速度がクロックアップしている。タレットやドローンから打ち出される弾や小型ミサイルの動きがはっきりと見え、俺は悠々とそれを避けていく。

高速で打ち出される弾により編み出された包囲網とミサイルの爆風をかいくぐり、最寄のタレットに接近して目一杯拳を叩きつけると、まるで柔らかい団子のように凹んで破壊される。ほかの自動兵器たちが反応するよりも先に、次の、さらに次のタレットに走っては撃破し、それらの残骸や緩やかに飛来するミサイルを掴んではドローン達に投げ、まるで蚊を叩き落すかのように落としていく。

「アサルトの瞬間最高突進速度秒速、筋力、反射速度。すでにγシリーズサイボーグよりも高い数値を出しています」
「まだ予想内だ。レーザータレットを離れた位置に出せ」
「了解」
最後のオートタレットを引き抜いた瞬間、背筋に悪寒が走り、体をずらすと、体を貫くはずのレーザーがかすった。後方のかなり離れた距離のレーザータレットからのだ。

光の速さで打ち出されるレーザーを、発射直前に感知して避ける。体の機械的機能によるものじゃない。自分や他の兵士達に時折見られる、無数の戦いで鍛えられた直感というものだが、それが改造前の時よりもはっきりと感じられるようになっていた。
「統合索敵システム。120%以上の効果発揮を確認」

周りから次々とレーザータレットが出現し、俺は先ほど以上に体に力を込めると、胸のクリスタルから青の電光が走る。目が変異し、全身の力が増していくのを感じた。
「アニマ・ナノマシン組織の局部限定変異を検知。アサルト、先ほどよりも70%身体能力が向上」

「おおおおっ!」
先ほど以上の速度で走り、レーザーを全てかわしてはタレットを軽々と粉砕していく。始めて超常的な力を発揮するにも関わらず、俺の体や脳はまるで最初からこの力をどう使うか知ってるかのように動いた。

アスティル・クリスタルの演算補助、というのもあるが、多数の装備を使いこなし、命に関わる数多の任務からくる経験の積み重ねが、どう体を動かして適応する術を身に付けているのも大きいだろう。さっきの直感も含め、ミハイルが言う実験体の最初の選別にはこれを見据えてのことか。

程なくして全ての目標ターゲットが沈黙すると、部屋内の機構が作動して最初の広大な部屋の状態へと戻る。
「さすがだウィル。オートブルは終了だが、これからがメインディッシュだ」

ミハイルのその一言とともに、前方の地面が開き、人の三倍ぐらいの大きさがあり、下半部がキャタピラ、上半部が人型に似たロボットが出現した。YA-Geoヤクトジオ、ユグドラハガネ社製の拠点防衛用自立型アームドスーツで、その重装甲と重火力は拠点防衛用に相応しいレベルとなっている。

「さあ、手に入れた力を見せるがいい。――アルマ形態に移行しろ」
駆動音とともに起動するYA-Geoヤクトジオの赤いセンサーに当てられ、俺は一度瞼を閉じた。脳と直結して一体化しているアスティル・クリスタルに念を送り、再び瞼を開いては人外の赤い目を光らせ、思うがままに吼えた。
「――ガアアアァァッ!」

昨日のようにアスティル・クリスタルが小太陽の如く輝く。青き電光が体にまとわり、神秘の青き光とともに全身を流れていく。アスティル・クリスタルの膨大なエネルギーが血のように今の体の肉でもあるアニマ・ナノマシンに流れ込み、力と化していく。
「アスティル・クリスタルの励起を確認!励起率100%、200%…っ、全身のアニマ・ナノマシン組織が活性化していきますっ!」

一際大きな衝撃がテストルームを大きく揺らし、銀色のアルマ形態と化した俺は全身に漲る力で体を強張らせ、高揚する戦意とともに再び吼える。
「オオオアアアアアッ!」

パシュシュとYA-Geoヤクトジオから対戦車級ミサイルが雨のように浴びてくる。俺は片手を上げ、腕の結晶から発するエネルギーがバリアと化してそれら全てを遮り、「カアアッ!」一喝と共に飛び出し、YA-Geoヤクトジオの片方のミサイルポッドをそのままもぎ取って着地する。

「オオオッ!」
もぎ取ったポッドを捨て、YA-Geoヤクトジオが上半身を旋回して機関銃を掃射するよりも早く、片手を上げては腕の結晶からエネルギー弾を連射して打ち込む。その重装甲に次々と穴が出来上がる。
「ビーム弾射撃機能、正常。ビーム出力、制式レーザー銃の10倍…いえ、30倍以上と測定」

「PIGAPIPIーーー」
穴だらけのYA-Geoヤクトジオが揺れるのを見て、連射をやめてもう一度片手に力を込めては、腕の結晶の輝きとともに剣が生成される。
「デフォルト武装ウェポンの生成も確認。全て当初の設計とおりに機能しています」

「Piiiiii」「ルアアッ!」
YA-Geoヤクトジオに再び飛びかけてはもう片方の機関銃とミサイルポッドもろとも剣の一振りで切り落とし、突進の勢いで地面を抉りながら着地する。

「速度、パワーともに予想値を遥かに上回ってます。改造は完全に成功ですね、長官」
「うむ…」

「PiiiPiPi」
YA-Geoヤクトジオの胴体部が開き、内蔵した高出力レーザーを展開した途端、自分の高揚した戦意に応じて脳内でイメージが走り、先ほど変身したときのように全身に力を漲らせた。
「ヌゥゥ…ッ、結晶励起オオオオオッ!」

「! なんだあれはっ?」
「わ、分かりませんっ。アサルトの全身に、アスティル・クリスタルと同質の結晶が生成されていきます!これは…エネルギーが増幅されているっ?」

コーティングクアアアアッ!」
他のブースト結晶とともに輝き結ぶ腕の結晶に剣を当てて打ち滑ると、剣が青の電光を帯びて眩く輝いた。
「武装にアスティルエネルギーが定着したのを確認!こ、こんな機能、プログラムには――」
「カァッ!」

剣の眩い輝きが無数の軌跡を描く。まるで切り裂かれた絵画のように、YA-Geoヤクトジオがバラバラと細切りされ、重々しい音を立てて崩れた。背後の壁もろとも。
YA-Geoヤクトジオ、沈黙。…テスト終了、です…」
他の研究員同様不安な顔をしたオペレーターはミハイルに報告する。彼の顔は、昨日のように悦びに満ちていた。

「ご苦労だウィル。もうノーマル形態に戻っていい」
「ハァ…ハァ…」
ミハイルの声で我に返り、念を込めると元の姿に戻った。なんとなく、研究員全員が今の自分をどんな視線で見てるのかを感じた。
「第一号アルマとしては予想以上の結果だ。どうだ、全てを凌駕する力を手に入れた気分は?」

俺はすぐ答えなかった。気持ちも息も落ち着いては、俺は胸のアスティル・クリスタルに触れた。全てを凌駕する全能感よりも、あまり実感が沸かないことが正直の感想だった。二度目のアルマ化に、まだ少し混乱しているというのもあるかもしれない。

「よく、分かりません…」
「君らしい返答だな。ルームから出て研究班にチェックさせ、データを取り終ったら自室で待機したまえ。こちらはまだ他の実験体の改造スケジュールがある。全部終わるまでゆっくり休むといい」
その言葉で、俺はギルやアオトの身を案じた。全てを凌駕する力よりも、身近な人達の安否の方が大事だった。

今期の実験体の改造手術が全て終わるまで、アオトやギルバートたちの他の実験体との面会は禁止されている。ルーム内に入る研究員達のどこか畏怖を含んだ眼差しに、俺は少し心を締め付けられながら、彼らとともにそこを後にした。



【続く】
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