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第十二章 恐怖の町

恐怖の街 第二節

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「白猫亭にようこそいらっしゃいました、ラナ殿下。お待ちしておりましたよ、ご贔屓どうもありがとうございます」
「お久しぶり、女将さん。お元気そうで何よりですね」

一層古風で典雅な風味のある宿の前に、ラナが女主人と挨拶を交わした。それは入り込んだ道を幾つか越えた小さな巷にある三階建ての宿。白猫が描かれた可愛らしい看板が入口にかけられ、花の咲いた蔦がぶらりと宿を囲む壁に垂らされいる。観光地としてふさわしい趣のある意匠といえた。

「ほへー…。まさか巷の中にこんな風情のある宿があるだなんて。ラナ様が贔屓になるのも分かるなあ」
女主人がレクスに満面の笑顔を見せる。
「ふふ、ありがとうございます。宿の内装や温泉もよりをかけて仕上げてますから、ぜひゆっくりくつろいでください」

――――――

女主人の言葉に偽りはなく、リビングの装いはシンプルでありながら実に人を落ち着かせるような作りになっていた。目を刺激しない優しい色だけを使った天井や壁の色、適度に飾られた町の様々な顔を現す風景画、小さな空間に丁度良いスペースで設置されたソファに趣のある壷や彫刻、そして宿全体を包む、嗅ぐだけで疲れが取れそうな心地良いアロマキャンドルの香り。大通りからの声も殆ど届かず、女主人が飼ってると思われる白猫の、気だるそうに欠伸しては小さく鳴く声しか聞こえないぐらい、のどかな雰囲気に満ちていた。

「おお…、凄くいいな…」
「うむ。このスペースの利用の仕方、内装の色使いや家具のテイスト、そして位置。主人がどれだけ心血を注いでいるのかひしひしと伝わるな」
思わず感嘆の声を漏らすウィルフレッドとミーナ達。

「あっ、可愛い猫さんっ」
「ほんとだっ、猫さんよしよし」
アイシャとエリネは即座に愛らしい白猫を囲んでその毛並みを堪能する。

「ナイラちゃんも相変わらずね。旦那さんは仕事中?」
「はい、もう水道保守の現場からは離れてますけど、行政の方はまだまだ仕事が一杯ですから」

「キュキュ…」「…ニヤァア」「キュウゥッ!?」
じりじりと近寄ろうとするルルは、軽く鳴き出すナイラの声にビックリしてエリネの肩に逃げ込んだ。エリネとアイシャがくすりと笑う。
「ふふ、ルルったら」「お茶目さんですね」

「皆さん長旅で大変疲れてるでしょう。温泉も今日は貸切にしていつでも入れるのですから、存分に体を休めてくださいね」
「やったぁ!兄貴、レクス様っ、さっそく温泉に入ろうぜっ!」
「そうだねっ、今夜限りの温泉、思いきって楽しまないと――」
「待ちなさい。温泉に入るにはちゃんとした手順もあるのよ。しっかり女将さんに流れを聞いておきなさい」

「くす、ラナちゃん、教会の引率のシスターみたいね」
「うちの男性陣が子供みたいな人ばっかだからよ。少しはマティ殿やウィルくんを見習いなさい」
「ごめんなさいねぇ、だって僕田舎貴族なんだから、温泉が気になるのも仕方ないでしょー」
実に子供らしく頬を膨らませるレクスに一同が軽く笑い出した。


******


日が暮れて星々が空を綴り始めた頃。宿の丁度真ん中、壁や木々などで仕切られた露天風呂。三女神の彫刻から流れ出る温泉に浸かりながら、髪を纏めたアイシャは気持ちよく大きく手を伸ばして背伸びする。

「うっう~ん…っ、気持ち良いぃ~…。普通の熱湯に見えるのに、なんだか少しとろみがあるようで肌触りが凄く良いですよね。本当に肌に良く働く気がしますっ」
「うんっ、疲れもすうーって体から流れて出るような感じがしますし、癖になりますね」
極楽そうに四肢で軽く温泉に波を立たせるエリネ。

「入る前に体を洗って、先に蒸気に満ちた部屋で木の枝で女主人が体を叩いてたのも中々興味深い。あの枝、病への治療効果があるといわれるトリネコの木のものだ。それに薬草液で先に処理されてたなラナ」
「ええ、あのサウナ室は本来エステラ発祥のもので、本来の白樺の枝をトリネコに変えて温泉に組み込んだのがヘリティア式温泉よ。エステラの温泉文化は普通に体を洗うだけで入る簡素的なものだけど、ルーネウスはどうだったのかしら」

泉水を手にすくうアイシャ。
「三国の中で最も温泉の数が少ないこともあって、ルーネウスの温泉文化はそこまで発達してないんですよ。見つかった温泉は大抵、既存のルーネウス浴に利用されます。そうでしたよねエリーちゃん」
「はい、温泉を利用した大衆浴場ですよね。私もシスターと何回か行ったことあります。みんなで温泉を使ったサウナ浴でお話したり、別室で休むときには水と果物を食べたりと。結構楽しくて好きですよ」
「なるほど、私も一度試してみたいものね」

そんな中、ラナはふとアイシャの熱い視線に気づく。
「…どうしたのアイシャ姉様?」
「ううん、ただラナちゃんって、やっぱり凄く綺麗な肌してるなぁって思って」
「アイシャ姉様ったらまた…。そういうアイシャ姉さまこそ、昔よりもず~っとスタイルが良くなってない?」

珍しく先攻を始め、自分に寄ってくるラナにアイシャがたじろぐ。
「わわわ、ラ、ラナちゃんちょっと!?」
「ふふん、私がいつも守勢に甘んじると思ったら大間違いよ。ヘリティア第一皇女の実力、とくと味わいなさいっ」
「ひ、ひゃああああっ!」

「あ~、エリー、少し横に移動するか」
「ふふ、そうですね」
戯れるラナとアイシャから離れるよう移動するミーナとエリネ。

「にしても、温泉はあまり利用しないが、ここのは確かに質が良くて気持ちがいい。あとで一杯ミルクもあれば完ぺきだな」
「ミルク?」
「うむ。温泉上がりの質の良いミルクは体の血気やマナの巡りを整え、体もより健やかに成長させる俗説があるのでな」

「へえ、面白そうなお話ですねっ。ミーナ様は試したことあるのですか?」
「大昔、エリクの奴に唆されて里から一番近い町にある小さな温泉でやってたな。ただ泉質のせいか、あまり実感はできなかった。ミルク自体は美味しかったが…いかん、あの時のエリクめの笑顔を思い出すと妙に腹が立ってくるな」
「ミーナ様…」
毒づいてはいるが、彼女の声の表情に鬱憤以外の感情もあることはすぐに察した。

「エリーもにこやかで近寄る男どもには注意を払うのだぞ。エリクみたいな見勝手な奴とか特にな」
「ふふ、多分大丈夫とは思いますけど。気をつけます」

ミーナのその一言で、今日ずっと頭を過ぎる疑問を再び思い出すエリネ。
(((異性として今好きな人とか、気になる人とか誰もいないの?)))
その問いとともにウィルフレッドの優しい声が耳元に響く。彼女は首元まで体を温泉に沈めた。

(ウィル、さん…)

――――――

「まあっ、アイシャ姉様ったら暫く見ないうちにこんなに成長して~」
「あっ、ちょっ、ラナちゃんっ、からかってごめんだからっ、くすぐった、ひゃああっ!」
「…いやあ~、向こう、盛り上がってるよねえ」
壁で仕切られた向かい側、レクス達男性陣もまたゆったりと温泉に浸かりながら、ラナとアイシャの戯れの声を聞いていた。

「しかしここまで盛り上がってるとさすがにちょっと気になるなあ。…ねえ、覗いてみる、カイくん?」
さっきから色んな意味で体を温泉に深く沈めてるカイがさらに顔を赤くする。
「すっ、するかよそんなことっ!ラナ様にお仕置きされるのがオチなんだからっ」
「も~連れないこと言うなあ、ウィルくんはどうかな?」
「…うん?」
暫く間を追ってレクスに反応するウィルフレッド。

「? どうしたのウィルくん、ぼーっとして」
「いや、その、ここの温泉が思った以上に気持ちよくて」
水をすくって気持ち良さそうに肩にかけるウィルフレッド。
「兄貴の世界じゃこういう温泉はないのか?」

「一応似たようなものはあるが、みな人工化学成分による人造温泉だし、雰囲気とか泉水の感触とか何もかも違うんだ。もちろん、ここのが段違いに気持ちいいから、ついな」
「そっか、兄貴が楽しんで何よりだよ」
「ああ。それで、さっきレクスはなにを言っていた?」

「いやさ、ほらっ、隣、凄く賑やかだよね。ちょ~っとだけ覗きたくない?」
「いや、ダメでは?」
スパッと真顔で言い切るウィルフレッド。
「兄貴の言うとおりだよレクス様、ラナ様に締められても知らないよ」

レクスがいつもの調子でウィルフレッドの肩に手を置く。
「んもう~二人とも堅いこと言っちゃって~。特にウィルくんはだめだよ?この世界ではもっと気軽にならないと女の子にはモテないからね?」
「そういうものなのか…?」

「気にすんなよ兄貴、レクス様自分が覗きたいだけに言ってるんだから」
「んりゃまあカイくん、意外と堅いね。…まあそれ抜きとして、どうかなウィルくん、君だって女の子とか少しぐらい興味はあるでしょ?それとも実は、もう気になる子がいるんだとか?」
「アイシャみたいなこと言うなレクス」
ウィルフレッドが苦笑する。
「だから茶化さないの、実際どうなんだい」

「…正直、考えたこともない。元の世界は生きるだけに精一杯だし、誰かにそういう特別な感情を抱いたことは…」
「でもここでは違うでしょ?思いつきでいいからさあ、気になる子と言われて真っ先に頭に浮ぶ子ぐらい、一人は出てくるんじゃない?」

(((エリーって呼んで構いませんよ)))
エリネの満面の笑顔が、即座に彼の頭を過ぎる。無意識に自分の胸のクリスタルに触れては、黙ったまま俯いた。

それで何かを察したレクスは軽く彼の背を叩く。
「まっ、ウィルくんは僕達と違って色々と心配することもあるのは分かるけど、ここは女神様の加護がおわす世界ハルフェンだからさ、もしいつか気になる子が出てきたら、深く考えずにアプローチしてみるのも悪くないと思うよ」
彼は口元だけ礼を伝えるかのように微笑み返した。

ウィルフレッドから離れ、次の絡みの標的のカイに近寄るレクス。カイはずっと、依然と賑やかな女性陣の声が伝わる向こう側に顔を向けていた。
「なんだいカイくん、やっぱり覗きたくなっちゃった?」
「違うって!ただ…その、アイシャがとても楽しそうな声をしていて良かったなと思っただけだよ」
「ああ~確かに、最初に出会った時と比べて随分と明るくなったよねアイシャ様。それも間違いなくカイくんのお陰だよ」
「お、俺はただ、アイシャにはもっと楽しくなって欲しいと思っただけで…」
「ははは、謙遜だねカイくん」

暫く間をおいてから、レクスは真剣な眼差しでカイを見る。
「カイくん、アイシャ様と一緒にいること、それがどんな意味を持つのかちゃんと分かってるかい」
それが、王女と一緒ということだけを指すのではないと、カイは理解する。

「…ああ、分かってるさ。それを承知した上で、俺はアイシャと一緒にいたい。…まあ、その、まだアイシャから正式に返答を貰ってる訳ではないけど…」
「今はそれでいいと思うよ。君にその覚悟があればね」
ウィルフレッドにしたように軽くカイの肩を叩いては、ゆっくりと立ち上がるレクス。

「僕も覚悟を決めないとねえ」
「レクス様?」「レクス?」
強い決意を込めて意思表明したレクスは、仕切りの壁に近寄り、出っ張りを探しながらゆっくりと登っていく。

「ちょっとレクス様まずいよっ!?」「おいレクス…」
「しーっ、二人共静かにしてっ。…こんなところで覚悟を決めなくていつ決めるかということだよっ」
立ちはだかる壁をものともしない只ならぬ決心を胸に、レクスはついにその上端まで上り詰めた。

「ふぃ…思ったよりしんどい…。んふふ、でもこれでついに秘密の花園をこの目にっぶらぁぁあっ!?」
飛来する桶がドカンとレクスの顔面に炸裂し、さながら太陽に挑むイカロスの如く墜落して無様に地面へと墜落した。
「うおおぉぉぉんっ!鼻があっ!鼻がアアアっ!」
「今のはただの峰打ちよ、後で本番をしっかりと叩き込むから覚悟なさいっ!」

ラナの罵倒を聞く余裕もなく、地面でジタバタと悶え苦しむレクスに、カイとウィルフレッドは苦笑する。
「まったくレクス様、しょうがないよなあ」
「それがまたレクスらしいけどな」


******


「皆様どうぞ。今日はよりをかけてカスパーの名産、ヴィネーフィスクの五段活用料理を用意しましたよ」
宿のキッチンから、女主人と使用人により次々と豪華な料理が運び出され、温泉から上がったばかりの一行の前に披露される。

野菜やレモンを沿え、瑞々しく柔らかそうに煮付けられた、ボールぐらいの大きさもある魚頭が入った魚鍋。豪快な大きさに切り取られ、黄金色に綺麗に焼かれたその肉を綴るハーブの色でより色鮮やかに食欲をそそる魚肉焼き。そして軽く焼いただけで、新鮮そうなテカリ具合の魚卵や野菜とともにクッキーに乗せた料理。それらが羅列された豪華な食卓に、一行は思わず驚嘆の声をあげた。

「まあ、まあ…っ!すっごく美味しそうです女将さんっ」
「うんっ、ハーブの匂いも凄く香ばしくて、嗅ぐだけでも美味しいのが分かるぐらいですっ」「キュキュッ」
地球で言うローマ式なローブを着込んだアイシャやエリネ達がはしゃぐ。

「うん、栄養も満点そうだし、傷口には良さそうだよね」
「自業自得よレクス殿、舌を抜かなかったことに感謝することね」
ラナのお仕置きにより満身創痍なレクスに一同が笑い出すと、ミーナ達はさっそく食器を持ちあげる。
「バカのことはほっといて、さっさと食べよう」
「そうね。それじゃみんな、いつものように…」
「「「女神様、今日も慈悲深き食の恵みに感謝をっ!」」」

「――んまっ!何だこの煮付け!めっちゃ柔らかくてさっぱりしててっ、臭みもまったくなくてうめぇっ!」
「この魚焼きも凄いですっ、焼きすぎず、ハーブの味が美味く味を引き出してるっ」「キュキュ~ッ」
「鍋も野菜とかベーコンとかが入って凄く進みますっ、ほんと美味しいですよねウィルく――」

アイシャ達が固まる。声をかけた先のウィルフレッドは、その頬を大きく膨らませるほど口いっぱい焼き魚肉を入れていた。
「んぐ…んぐ…」
そして噛み締めるように目を閉じたまま、じっくりと、ゆったりと、骨の髄まで味を楽しむかのように咀嚼していく。

「んっ…ふぅー…」
ようやく魚肉を飲み込み、まるでこの世最上の美味を味わったかのように長い溜息をして、感涙極まりない口調で賞賛の言葉をあげた。
「…美味い…っ!」

喉を潤うかのように暖かいハーブティを飲むと、いまだに軽く震える声で感慨深く語るウィルフレッド。
「こんな美味い料理始めてだ…っ、味、食感、匂い、どれにおいても最高級で文句なしの傑作だっ。噛めば噛むほどにじみ出る肉汁がまた美味しいし、それに――」
ここに来てようやく彼は気付く。レクス達がそんな自分を実に温かな笑顔で見つめながら食事していることに。
「あっ、すっ、すまないっ、またいつもの癖が…」

レクス達がどっと笑い出す。
「あははっ、別にいいよウィルくん。もういつものことだし、美味しそうに食べる君を見るととこっちまで美味しくなるからさ。だよねアイシャ様」
「はい、ウィルくんと一緒に食事するの本当に楽しいです」
「最初に兄貴に出会ってからいつもこんな調子だったけど、今でも全然見て飽きないや」
「寧ろウィルくんのお陰で食事がさらに進むんだから、こっちこそ感謝したいぐらいね」

ラナ達も自分みたいに美味しそうに料理を食べてるのを見て、顔を真っ赤にしながら誤魔化すようにティーを飲むウィルフレッド。この世界で色々な料理を満喫してきたが、行軍ということもあり、しっかりとした上級レストランクラスの食事をするのはたとえフィレンスを含めても未だになかった。だから初めて高級な食材と腕のあるコックによる料理は、実に彼の人生今まで食べてきた全てを後にするほどの衝撃の味だった。

「にしても、相変わらず皇城料理人としてぜひ招待したいぐらいの腕だわ女将さん」
「うむ。ヴィネーフィクスは確かヴィネー大河特産の大魚で、その肉は脂身もあり味も良いが独特な臭みもあって処理が難しいと聞く。それをここまで美味く調理できて臭みも一切ないとは、実に大した腕前だ」
「ふふ、気に入ってくださってありがとうございます。うちには門外不出の秘伝のレシピがありますし、昨日で丁度良く生きの良いのが買えたのです。きっとラナ殿下…巫女様のご利益にあずかったお陰ですよ」

食堂で一行の歓談の声が暫くすると、料理は全て綺麗さっぱり平らげられ、エリネ達は誰もが満ち足りた顔を浮びながら食後のお茶をまったりと満喫していた。
「…ふぁ~、本当に美味しかった…温泉に入った後からかも知れませんけど、疲れも取れて腹も満腹で凄く幸せです~…」「キュウ~…」
彼女の賞賛に女主人も満面の笑顔を見せた。
「それはなにより。質の良い温泉だけでなく、美味しい食事、そして穏やかに休められる環境が、ヘリティア式温泉の醍醐味ですからね」

「そういやルーネウスで一度だけ温泉に浸かってたけど、ここみたいにこんなに満足して疲れが取れたって感じしないよな」
カイに同意するアイシャ。
「そうですね。女将さんありがとうございます。長い行軍のなかでこんなに素敵な宿に泊まらせてくれまして、温泉も食事もどれも最高でした」

「ありがとうアイシャ様。月の巫女様にそう言ってくださるだけで、がんばって用意した甲斐があったものです。戦争だけでなく妙な噂もあって少し不安でしたが、お陰様でこちらも久しぶりに嬉しい気持ちになれました」
「妙な噂、ですか?」

「ええ、数週間前からでしょうか。町に謎の失踪を遂げてる人達がいるという話がありまして。何分大きな町ですから、様々な理由で失踪することも時折聞きますけどね。ただ教団騒ぎもありますし、結構な数だそうですから、領主と騎士団も力を入れて対応をしているそうです」
ラナ達はお互いを見やった。


******


食事が終わり、宿の休息室で集まるレクス達。
「女将さんのさっきの話、皆はどう思う?」
「やはり気になりますね。確かに大きな町だと時に失踪は起こりますが、時期が時期ですし、何よりもソラ町の先例がありますから」
妖魔ライムの事件を今でもありありと思い出せるアイシャ達。

「うん。確かにこのまま放置しておくのは少し心配だね。今の行軍スケジュールならもう一日ここに残って調査する余裕はあると思うけど、どうかなラナ様」
「そうね。領主も既に調査してるそうだけど、私達でしか気付けないこともあるかもしれないし、なにより変異体ミュータンテス絡みの事件だったら、ウィルくんがいなければ対処は困難だわ」
頷くウィルフレッド。

「うむ、決まりだな。とはいえ、我らも道を急いでないわけではない。明日の調査はソラ町の時のように二手に分けて調査しよう。ラナと我、レクスが領主のところで詳細を聞く。残りの人達は町で聞き込み調査を行う。場合によっては軍の一部を動かすことも考慮しよう。議論はないな」
「異議な~し」
首肯するレクス達。

「まさかこっちに着てまで事件だなんてなあ、折角の温泉気分が台無しだぜ」
「お兄ちゃんったら、私達は元々観光目的でここに来た訳じゃないでしょ」
「まあまあ、カイくんの気持ちも分からなくはないよ。僕だってできればもう少し温泉を堪能したかったからね」

「温泉を堪能したいというより単に覗きがしたいの間違いじゃないレクス殿?」
ラナの冷たい視線にレクスはとぼけるように笑う。
「いやあははは、あれはちょっとだけ魔が差したというかなんというか…」
「…結構凄いやる気でいたんじゃなかったけレクス様」
「しーっ、そこは言わなくて良いのカイくんっ」

アイシャとエリネ達がくすりと笑うなか、ミーナが纏めるようにパンッと手を打つ。
「とにかく、明日の朝ですぐに調査を開始する。レクスはバカなこと言わないでこの旨をアランにちゃんと伝えるように、他に用事なければ解散。明日の調査に備えるように」



【続く】

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