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第3部.リムウル 第3章
26.気配
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深い眠りからアイリーンを揺り起こしたもの。
それは、首にかかったペンダントから流れ込んできた、ある恐ろしい“気配”だった。
アイリーンはもう知っていた。
その気配の正体が、エンドルーアの王宮、薄明宮の地下深く封じられた魔物のものであることを……。
どうしてなのか、アイリーンにも、よくはわからない。
石の主として力を得て、ティレルにかけられた封印が解けてしまったのか……眠り続けていた間、彼女の魂はまたも体から浮遊し、遠くエンドルーアへと旅をしていたのだ。
ギメリックがそのことに気付かなかったのも無理はない。
戦いで魔力を消耗していた上に、アイリーンの魂は距離とともに時間を超えていたのだから。
魔物への恐怖にうなされながら、アイリーンは目覚めた。
静まり返った小屋の中に視線をさまよわせ、そこにギメリックの姿がないことを知る。
半ば無意識に魔力を使って探ってみたけれど、小屋の外にも彼の気配はなかった。
“行ってしまった……私を置いて……どこへ……?”
アイリーンの脳裏に突如、彼が自ら命を絶とうとしていた姿がまざまざとよみがえった。
永遠に彼を失ってしまったのだという恐ろしい喪失感に目の前が真っ暗になる。
同時に襲ってきた激しい頭痛に悲鳴を上げ、恐怖と不安に押しつぶされそうになりながら、アイリーンは思わず心話でギメリックを呼んでいた。
すぐに返ってきた返事に少しだけホッとしたものの、一刻も早く彼の無事な姿が見たい。
アイリーンはまだ痛む体を無理矢理起こし、ベッドから降りて戸口へと向かった。
けれども二、三歩歩いたところで倒れそうになり、そのままうずくまってしまった。
テーブルの足につかまって、頭痛と気分の悪さに耐えて目を閉じていると、眠り続けていた間に見てきた様々な場面が頭の中に押し寄せてくる。
混乱と悲しみの巨大な渦に飲み込まれ、心がバラバラに引き裂かれてしまいそうだった。
「……っう……あぁ……っ!!」
苦しみに耐えかね、頭を押さえて叫んだとたん、部屋の中の物がいっせいに宙に浮き、空中を飛び回り始めた。
ガタン!ドンッ!と派手な音を立てて壁や天井に物が当たる。
「きゃっ!!」
ヒュッとすぐそばを飛んで行った大きな物をよけて、アイリーンが首をすくめたとき。
バタン!とドアが開いた。
「何をやってるんだ!!」
声と同時に、浮いていた物の動きがピタリと止まり、ゴトゴトと落ちてきた。
自分の上にも落ちてくるのではないかと首をすくめたままだったアイリーンは、強い腕に抱き上げられるのを感じ、やっと目を開けた。
それは、首にかかったペンダントから流れ込んできた、ある恐ろしい“気配”だった。
アイリーンはもう知っていた。
その気配の正体が、エンドルーアの王宮、薄明宮の地下深く封じられた魔物のものであることを……。
どうしてなのか、アイリーンにも、よくはわからない。
石の主として力を得て、ティレルにかけられた封印が解けてしまったのか……眠り続けていた間、彼女の魂はまたも体から浮遊し、遠くエンドルーアへと旅をしていたのだ。
ギメリックがそのことに気付かなかったのも無理はない。
戦いで魔力を消耗していた上に、アイリーンの魂は距離とともに時間を超えていたのだから。
魔物への恐怖にうなされながら、アイリーンは目覚めた。
静まり返った小屋の中に視線をさまよわせ、そこにギメリックの姿がないことを知る。
半ば無意識に魔力を使って探ってみたけれど、小屋の外にも彼の気配はなかった。
“行ってしまった……私を置いて……どこへ……?”
アイリーンの脳裏に突如、彼が自ら命を絶とうとしていた姿がまざまざとよみがえった。
永遠に彼を失ってしまったのだという恐ろしい喪失感に目の前が真っ暗になる。
同時に襲ってきた激しい頭痛に悲鳴を上げ、恐怖と不安に押しつぶされそうになりながら、アイリーンは思わず心話でギメリックを呼んでいた。
すぐに返ってきた返事に少しだけホッとしたものの、一刻も早く彼の無事な姿が見たい。
アイリーンはまだ痛む体を無理矢理起こし、ベッドから降りて戸口へと向かった。
けれども二、三歩歩いたところで倒れそうになり、そのままうずくまってしまった。
テーブルの足につかまって、頭痛と気分の悪さに耐えて目を閉じていると、眠り続けていた間に見てきた様々な場面が頭の中に押し寄せてくる。
混乱と悲しみの巨大な渦に飲み込まれ、心がバラバラに引き裂かれてしまいそうだった。
「……っう……あぁ……っ!!」
苦しみに耐えかね、頭を押さえて叫んだとたん、部屋の中の物がいっせいに宙に浮き、空中を飛び回り始めた。
ガタン!ドンッ!と派手な音を立てて壁や天井に物が当たる。
「きゃっ!!」
ヒュッとすぐそばを飛んで行った大きな物をよけて、アイリーンが首をすくめたとき。
バタン!とドアが開いた。
「何をやってるんだ!!」
声と同時に、浮いていた物の動きがピタリと止まり、ゴトゴトと落ちてきた。
自分の上にも落ちてくるのではないかと首をすくめたままだったアイリーンは、強い腕に抱き上げられるのを感じ、やっと目を開けた。
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