薄明宮の奪還

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第3部.リムウル 第3章

15.目覚め

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アイリーンはベッドの中で目を覚ました。

長い、長い夢を見ていた気がするのだが、今は何も思い出せない。

ぼんやりと、丸太を組んだ天井を見つめる。

“……ここ、どこかしら……?”

今まで見たことのない、知らない場所だった。

素朴だが心休まる雰囲気の、小屋の中だ。

窓からは明るい光が差し込み、小さなテーブルと椅子が居心地良さそうに並んでいる。


しかしアイリーンは、ひどく気分が悪かった。

状況を把握するために周りをもっと見回したかったが、体に力が入らない。

上半身を起こそうと考えただけで、天井がぐるぐる回るような錯覚を覚えた。


扉の開く音がしたのでそちらを見ると、ギメリックが入ってくるところだった。

なぜか、心臓がドキッと跳ね上がる。

あわてて飛び起きようとすると、体の節々が悲鳴を上げた。

「あっ……痛…」

「起きるな! まだ無理だ!」

見えない力で、ベッドに押さえつけられた。


持っていた薪を床に置き、急いで枕元にやってきたギメリックは、アイリーンの額に手を置いた。

見えない力がすっと遠のく。

「無茶をするな。丸3日も眠り続けてたんだぞ」

気遣わしげにアイリーンを見つめ、やがて彼は安堵の息とともにつぶやいた。

「……やっと、体温も戻ったな」

額に置かれていた彼の手が降りてきて、サラリと頬をなぞる。

「気分はどうだ?」

「……ここは、どこ?」アイリーンの声はかすれていた。

「安全な場所だ、心配するな。話は後だ。今、薬を作るから、それを飲んでもう少し休め」

そう言い置いて、ギメリックは部屋の向こう側へと歩いていく。

アイリーンはぼんやりと、その背中を見送った。


いったい、何がどうしてこうなったのか……よく思い出せない。

けれどアイリーンは、生まれて初めて、不思議な安心感に包まれている自分に気が付いた。

視界の中に、ギメリックの姿がある……それだけで、彼が言ってくれたとおり、何も心配はいらないのだという気がした。

彼に全てをまかせて、自分はただ体を休めればいいのだと……。

そう、彼は生きている……だからもう大丈夫……。


いつの間にか目を閉じ、うとうとしていたアイリーンは、そっと抱き起こされ、目を開いた。

「ほら、飲めるか?」

緑色の液体が入った木の器が、口元に差し出される。

毛布にくるまれているので手を添えることができず、アイリーンはぎこちなくそれに口をつけた。

一口すすって、あまりの苦さに顔をしかめる。思わずそっぽを向くと、

「全部飲め、必要な量だ」と言われ、器が突き出された。

しかしとても飲む気がしない。

思わずまた顔を背けると、ギメリックは一瞬、怒ったような顔をした。

それからついと手を引っ込めると、自分でそれをぐいとあおった。

器を放してアイリーンの顔を引き寄せ、口移しで飲ませる。

アイリーンはびっくりして暴れようとしたが、それを見越していたギメリックにしっかり押さえ込まれていて逃げられそうにない。

それに抵抗しようにも、体に力が入らない上に両腕は毛布にくるまれているのだから、どうしようもなかった。

仕方なく、注意深くゆっくりと流し込まれる薬を、懸命に飲み下した。
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