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第3部.リムウル 第1章
23.闇の中
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アイリーンは眠れなかった。
闇の中、もう随分長いあいだ横になっている気がするのだが、胸の内に様々な思いが浮かんでは消え、また浮かんできて、ちっとも眠りは訪れてこない。
夜が更ければ更けるほど、ますます目は冴えてくるようだった。
とうとう彼女はベッドの上にそっと身を起こし、ギメリックの方をうかがった。
彼は戸口のそばでマントにくるまり、壁に身をもたせかけるようにして座っている。
少しうつむいて、眠っているようだ。
アイリーンは一つ、密やかなため息を吐いた。
遺跡からの帰り道、アイリーンはティレルの言葉をよくよく思い返してみて、彼が“新月の夜”アイリーンの魔力が2倍になると言っていたことを思い出した。
しかしおそらくそれは自分の聞き間違いか、彼の思い違いだったのだろう。
どうやら、自分の魔力が2倍になるのは新月の日の昼間だけらしい……。
それに気づいたのは、ギメリックの回想が終わらないうちにどんどん彼の心の声が聞こえにくくなり、やがて完全に聞こえなくなってしまったからだ。
それは、太陽が遺跡を囲む木立ちの向こうに没し、やがてその最後の残光が空からも消えてしまうのと、ほぼ同時だった。
その後しばらくして、相変わらず何の説明もなく、無言で彼女を解放したギメリックは一人で馬に乗ろうとした。
アイリーンはまだ少し怖いからと言って一緒の馬に乗せてもらい、ダメもとでいくつか質問を投げかけてみた。
しかし、彼には完璧に無視され、やはり彼の心の声も聞くことは出来なかった。
“結局、ティレルのこと、何にもわからないままだなんて……!!”
アイリーンは意気地のない自分が嫌になっていた。
昼間のうちに、なぜもっと勇気を出してギメリックに質問しておかなかったのかと、悔やまれて仕方なかった。
それにしても……どうしてギメリックは、あんな格好で眠っているのだろう?
あんな姿勢でよく眠れるものだ、と思う。
そう言えば、最初の野営の夜も、彼は木にもたれかかって眠っていた。
アイリーンはそうっとベッドから降りると、彼に近寄った。
息を詰めて、手を伸ばせば届きそうなところまで近づいてみる。
しばらく様子をうかがい、彼が本当に眠っているのを確かめてから、アイリーンは自分も同じように壁に背中をあずけて床に座ってみた。
“……ダメ……眠れそうもないわ……こんなの疲れる……”
すぐそばに剣が立てかけてあるところを見ると、敵の襲撃を警戒しているのだろうか……。
アイリーンは彼の横顔をじっと見つめた。
真っ暗闇でも充分に見えるのは、魔力のお陰だと今ではわかっていた。
眠っているギメリックはそれほど怖くない。
それは、あのトパーズの瞳の射るような輝きが隠され、強大な魔力の気配も、今は心なしか和らいでいる気がするせいだ。
クセのない、さらっとした黒髪が、彼の男らしい整った眉の上に落ちかかっている。
くっきりとした二重の、涼やかな目元。
高く通った鼻梁、引き締まった唇、そして鋭角的なあごのラインへと続く完璧とも思える造形の美しさ。
人を威嚇するような瞳の鋭さと恐ろしい魔力の気配のため、普段はどちらかというと野性味と精悍さを感じさせる風貌だった。
が、こうしてみると貴族の血統が示す繊細さや優雅さをも兼ね備えた、充分に王族としての気品漂う端正な顔立ちだ。
闇の中、もう随分長いあいだ横になっている気がするのだが、胸の内に様々な思いが浮かんでは消え、また浮かんできて、ちっとも眠りは訪れてこない。
夜が更ければ更けるほど、ますます目は冴えてくるようだった。
とうとう彼女はベッドの上にそっと身を起こし、ギメリックの方をうかがった。
彼は戸口のそばでマントにくるまり、壁に身をもたせかけるようにして座っている。
少しうつむいて、眠っているようだ。
アイリーンは一つ、密やかなため息を吐いた。
遺跡からの帰り道、アイリーンはティレルの言葉をよくよく思い返してみて、彼が“新月の夜”アイリーンの魔力が2倍になると言っていたことを思い出した。
しかしおそらくそれは自分の聞き間違いか、彼の思い違いだったのだろう。
どうやら、自分の魔力が2倍になるのは新月の日の昼間だけらしい……。
それに気づいたのは、ギメリックの回想が終わらないうちにどんどん彼の心の声が聞こえにくくなり、やがて完全に聞こえなくなってしまったからだ。
それは、太陽が遺跡を囲む木立ちの向こうに没し、やがてその最後の残光が空からも消えてしまうのと、ほぼ同時だった。
その後しばらくして、相変わらず何の説明もなく、無言で彼女を解放したギメリックは一人で馬に乗ろうとした。
アイリーンはまだ少し怖いからと言って一緒の馬に乗せてもらい、ダメもとでいくつか質問を投げかけてみた。
しかし、彼には完璧に無視され、やはり彼の心の声も聞くことは出来なかった。
“結局、ティレルのこと、何にもわからないままだなんて……!!”
アイリーンは意気地のない自分が嫌になっていた。
昼間のうちに、なぜもっと勇気を出してギメリックに質問しておかなかったのかと、悔やまれて仕方なかった。
それにしても……どうしてギメリックは、あんな格好で眠っているのだろう?
あんな姿勢でよく眠れるものだ、と思う。
そう言えば、最初の野営の夜も、彼は木にもたれかかって眠っていた。
アイリーンはそうっとベッドから降りると、彼に近寄った。
息を詰めて、手を伸ばせば届きそうなところまで近づいてみる。
しばらく様子をうかがい、彼が本当に眠っているのを確かめてから、アイリーンは自分も同じように壁に背中をあずけて床に座ってみた。
“……ダメ……眠れそうもないわ……こんなの疲れる……”
すぐそばに剣が立てかけてあるところを見ると、敵の襲撃を警戒しているのだろうか……。
アイリーンは彼の横顔をじっと見つめた。
真っ暗闇でも充分に見えるのは、魔力のお陰だと今ではわかっていた。
眠っているギメリックはそれほど怖くない。
それは、あのトパーズの瞳の射るような輝きが隠され、強大な魔力の気配も、今は心なしか和らいでいる気がするせいだ。
クセのない、さらっとした黒髪が、彼の男らしい整った眉の上に落ちかかっている。
くっきりとした二重の、涼やかな目元。
高く通った鼻梁、引き締まった唇、そして鋭角的なあごのラインへと続く完璧とも思える造形の美しさ。
人を威嚇するような瞳の鋭さと恐ろしい魔力の気配のため、普段はどちらかというと野性味と精悍さを感じさせる風貌だった。
が、こうしてみると貴族の血統が示す繊細さや優雅さをも兼ね備えた、充分に王族としての気品漂う端正な顔立ちだ。
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