薄明宮の奪還

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第3部.リムウル 第1章

9.トパーズの瞳

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相変わらず、すぐにはぐれてしまいそうになるアイリーンに腹を立て、ギメリックは彼女の肩を抱いて町を歩いていた。

彼女は嫌そうだったが、もはや隠す必要のない怒りや苛立ちの気配が彼女をおびえさせるのだろう。

半ば無理矢理にマントの下に引き入れると、彼女はおとなしくされるままになった。


体が触れ合っていると、相手の心の動きはいっそう伝わりやすくなる。

アイリーンも魔力を持つ者として、理屈抜きの恐れを自分に感じていることをギメリックは悟っていた。


店を出て行く直前にポルが自分に投げかけてきた視線を思い出し、ギメリックは微かに、自嘲の笑みを口の端に浮かべた。

恐れられることには慣れている彼だった。



彼が生まれたときから、人々はその黒髪と、トパーズの瞳におびえた。

明るい色彩を持つ北方民族であるエンドルーアの民には珍しいことだったが、強い魔力を示す黒髪は、魔力を受け継ぐ血筋に時折、現れる。

しかしトパーズの瞳は、神世の時代まで遡っても、片手の指で数えられるほどまれなものだった。

そして黒髪とトパーズの瞳、その両方を併せ持つ者は……エンドルーア王家始まって以来、およそ1000年の歴史の中でも、ギメリックただ一人だけだった。

ギメリックが成長するにつれ魔力を増し、未だかつてないほどの魔力を備えていると知ったとき、さらに人々は彼を恐れた。

実の母親でさえ、彼がそばへ寄ることすら嫌がった。

そのことが多少なりとも、彼の性格に暗い影を落としたことは間違いない。

しかしおおむね彼が健全な成長を遂げられたのは、父であるエンドルーア王と、ヴァイオレットの存在に寄るところが大きかった。

 “災いを招く黒髪の王子……? 何を言う。
 お前は我らの希望だ。
 魔力は神々からの恩寵、だからお前は、神々から最も祝福されて生まれてきた子供なのだ。
 言いたい奴には言わせておけばよい、お前は何も、気にすることなどない”

その言葉と共に自分に向けられた大らかな父の笑顔。

ギメリックは激しい胸の痛みに耐えきれず、その記憶を無理矢理、意識の奥底へと押さえつけた。



“俺が殺したのだ……父も、ヴァイオレットも”

彼が心の中でそうつぶやいた時。

アイリーンの様子に、激しい動揺の気配が感じられた。

“……?”

ギメリックは不審に思い、彼女の顔をのぞき込もうとした。

「あっ……!!」

一言叫んで、彼女は地面につっぷした。

ギメリックはとっさに魔力で彼女を支えようとした。

しかし突然のことで、力の加減が難しかった。

周りに人が大勢いるこんな場所で、勢い余って彼女の体を宙に浮かすわけにはいかないからだ。

幸い怪我はない様子だったが、体を起こしたアイリーンの顔は見事に砂にまみれていた。
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