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第2部.アドニア〜リムウル 第2章
21.俺を信じろ
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一瞬の気の迷いによって力が霧散していくのを感じ、アイリーンはハッと我に返った。
“いけない……!!”
あわてて再び力を集め、元通りに結界を張った。
しかし動揺のため、少し時間がかかってしまった。
アイリーンはまた、体が震えてくるのを感じながら、しばらくじっと息を潜めていた。
“……大丈夫だった……?”
ほんの僅かの間だったから、よほど近くにルバートがいなければ、わからなかっただろうとは思う。
しかし不安がつのり、アイリーンはそっと葉陰から下の方をうかがった。
「……!!」
息が止まるかと思った。
すぐそばの木の下に、ギメリックの姿があったのだ。
彼も自分の気配を隠しているらしく、今までちっとも気づかなかった。
先ほど漏らした自分の気配を、感づかれたに違いない。
一つ一つ木の上を探りつつ、彼が近づいてくる。
アイリーンは恐怖に凍り付いた。このままでは、見つかるのは時間の問題だ……。
パニックになった頭の中で、ある考えに行き当たり……アイリーンは今度こそ、息の根が止まるほどの恐怖を覚えた。
自分は一番肝心なことを忘れていた!
ルバートはエンドルーアの密偵、と言うことはギメリックの命を受けてここにいるのだ。
とするとギメリックの目的地は、部下が待つここだったのではないか……?
だからギメリックも今ここに来て、自分を探しているのだ……。
“もうダメだわ……! ギメリックとルバート、二人が相手では……とうてい、逃げられない……!”
アイリーンが絶望に打ちのめされ、ぎゅっと目をつむったとき、彼女の真下で声がした。
「アイリーン……様! 良かった! ご無事でしたか!」
恐る恐る下を見ると、ギメリックが自分を見上げて立っている。
「いや、来ないで……」
「アイリーン様……?」
真っ青な顔をした彼女に、激しい恐怖を湛えた目で見られて、ギメリックは気がついた。
“俺も、間抜けだな!”
心の中で舌打ちをする。
彼女を捜すことに必死になるあまり、エリアードに化けるのをすっかり忘れていたのだ!
「アイリーン様、私です、エリアードです! 敵の目をあざむくため、ギメリックに化けているのですよ」
「……ウソ! わかってるわ、あなたはずっと私をだましていたのよ……どうして? 私をここで、殺す気だったの?」
やっとギメリックは、彼女が自分の正体を悟ったのだと気がついた。
“何でこんな時に……やっかいな!”
しかしもう、ごまかしは効きそうにない。とにかく彼女を連れてここから脱出しなければならないのだ。
ルバートに見つかっては、ますますやっかいなことになる。
ギメリックは一瞬のうちに心を決めた。
「確かに俺はギメリックだ、しかし、断じて、やつらの仲間ではない!」
すぐには、彼の言葉が理解できないのか、アイリーンは恐怖におびえる目で彼を見つめたままだ。
動こうとしない彼女に、ギメリックは手を差し伸べて叫んだ。
「俺を信じろ! 来い!!」
彼女の混乱が波の波動のように伝わってくる。
「……わからないのか? お前を守ると俺は決めた! だから助けに来た……さあ、ここから逃げるぞ、来い!」
しびれを切らした彼の魔力がアイリーンを包み込み、彼の元へと運びおろす。
彼女を抱きとめ、ギメリックはしっかりとその体を胸に抱きしめた。
「……どうやら無事だな」
つぶやかれた安堵の声に、アイリーンはギメリックの心が偽りでないことを感じ取った。
“ああ……!! わからない、この人は味方なの……? そうじゃないの……?”
そう思いながらも、自分を抱きしめる力強い腕の存在に、ホッとしている自分がいる。
少なくとも今は、一人きりではないのだ……。そう思うとありがたくて、涙がこぼれた。
懸命に嗚咽の声をこらえ、体を震わせる アイリーンを、ギメリックはさらに強く抱きしめた。
細い手首に残る痛々しい鎖の跡や、裸足で走り回ったために傷だらけになり、所々血のにじむ彼女の足を見て、ギメリックは顔をしかめた。
「ひどい目にあったな……悪かった。こんなことなら、お前を一人にするのではなかった……」
泣き顔を見せまいとするのか、自分の胸にしがみつき、顔を押しつけている彼女に、既視感を覚える。
“そうか……ティレルに化けて姿を見せた、あの時も……こんな風に泣かれたな……”
だぶん、あの時からもう……自分はこの少女を、守ってやらずにはいられなくなっていたのだろう。
彼女の心にある孤独と寂しさに、知らず知らず自分を重ね、同調していたのかも知れない。
それは彼にとっても、長い間慣れ親しんだ感情だったのだから……。
“いけない……!!”
あわてて再び力を集め、元通りに結界を張った。
しかし動揺のため、少し時間がかかってしまった。
アイリーンはまた、体が震えてくるのを感じながら、しばらくじっと息を潜めていた。
“……大丈夫だった……?”
ほんの僅かの間だったから、よほど近くにルバートがいなければ、わからなかっただろうとは思う。
しかし不安がつのり、アイリーンはそっと葉陰から下の方をうかがった。
「……!!」
息が止まるかと思った。
すぐそばの木の下に、ギメリックの姿があったのだ。
彼も自分の気配を隠しているらしく、今までちっとも気づかなかった。
先ほど漏らした自分の気配を、感づかれたに違いない。
一つ一つ木の上を探りつつ、彼が近づいてくる。
アイリーンは恐怖に凍り付いた。このままでは、見つかるのは時間の問題だ……。
パニックになった頭の中で、ある考えに行き当たり……アイリーンは今度こそ、息の根が止まるほどの恐怖を覚えた。
自分は一番肝心なことを忘れていた!
ルバートはエンドルーアの密偵、と言うことはギメリックの命を受けてここにいるのだ。
とするとギメリックの目的地は、部下が待つここだったのではないか……?
だからギメリックも今ここに来て、自分を探しているのだ……。
“もうダメだわ……! ギメリックとルバート、二人が相手では……とうてい、逃げられない……!”
アイリーンが絶望に打ちのめされ、ぎゅっと目をつむったとき、彼女の真下で声がした。
「アイリーン……様! 良かった! ご無事でしたか!」
恐る恐る下を見ると、ギメリックが自分を見上げて立っている。
「いや、来ないで……」
「アイリーン様……?」
真っ青な顔をした彼女に、激しい恐怖を湛えた目で見られて、ギメリックは気がついた。
“俺も、間抜けだな!”
心の中で舌打ちをする。
彼女を捜すことに必死になるあまり、エリアードに化けるのをすっかり忘れていたのだ!
「アイリーン様、私です、エリアードです! 敵の目をあざむくため、ギメリックに化けているのですよ」
「……ウソ! わかってるわ、あなたはずっと私をだましていたのよ……どうして? 私をここで、殺す気だったの?」
やっとギメリックは、彼女が自分の正体を悟ったのだと気がついた。
“何でこんな時に……やっかいな!”
しかしもう、ごまかしは効きそうにない。とにかく彼女を連れてここから脱出しなければならないのだ。
ルバートに見つかっては、ますますやっかいなことになる。
ギメリックは一瞬のうちに心を決めた。
「確かに俺はギメリックだ、しかし、断じて、やつらの仲間ではない!」
すぐには、彼の言葉が理解できないのか、アイリーンは恐怖におびえる目で彼を見つめたままだ。
動こうとしない彼女に、ギメリックは手を差し伸べて叫んだ。
「俺を信じろ! 来い!!」
彼女の混乱が波の波動のように伝わってくる。
「……わからないのか? お前を守ると俺は決めた! だから助けに来た……さあ、ここから逃げるぞ、来い!」
しびれを切らした彼の魔力がアイリーンを包み込み、彼の元へと運びおろす。
彼女を抱きとめ、ギメリックはしっかりとその体を胸に抱きしめた。
「……どうやら無事だな」
つぶやかれた安堵の声に、アイリーンはギメリックの心が偽りでないことを感じ取った。
“ああ……!! わからない、この人は味方なの……? そうじゃないの……?”
そう思いながらも、自分を抱きしめる力強い腕の存在に、ホッとしている自分がいる。
少なくとも今は、一人きりではないのだ……。そう思うとありがたくて、涙がこぼれた。
懸命に嗚咽の声をこらえ、体を震わせる アイリーンを、ギメリックはさらに強く抱きしめた。
細い手首に残る痛々しい鎖の跡や、裸足で走り回ったために傷だらけになり、所々血のにじむ彼女の足を見て、ギメリックは顔をしかめた。
「ひどい目にあったな……悪かった。こんなことなら、お前を一人にするのではなかった……」
泣き顔を見せまいとするのか、自分の胸にしがみつき、顔を押しつけている彼女に、既視感を覚える。
“そうか……ティレルに化けて姿を見せた、あの時も……こんな風に泣かれたな……”
だぶん、あの時からもう……自分はこの少女を、守ってやらずにはいられなくなっていたのだろう。
彼女の心にある孤独と寂しさに、知らず知らず自分を重ね、同調していたのかも知れない。
それは彼にとっても、長い間慣れ親しんだ感情だったのだから……。
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