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第2部.アドニア〜リムウル 第2章
10.酷薄
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男は酷薄そうな笑みを浮かべた。
「まぁいい。宿で待っていれば、いずれ帰ってこよう。
そこでお前が囚われたと知ったら、我々の言うことを聞かないわけにはいかないだろうさ。クク……」
“ああ、何とかして彼が捕まる前に、ここから逃げなくちゃ……だけど、どうやったら……”
自分は一度、魔力を使って幻獣を倒したのだ。あの時できたことが、できないはずはない。
「おい、こいつの記憶から、宿の場所を読み出せ」
部下の男が額に手を当ててきた。
「あっ…!」
心に侵入してくる不快な感覚に、思わず、アイリーンは苦痛の声を漏らした。
「く……うぅ……っ!」
歯を食いしばり、体が震えるほどの苦痛に耐える。
「……ダメです、読めません」男が、主人におびえた目を向ける。
男の手が額から離れたとたん、アイリーンはがっくりと首をうなだれ、肩で息をした。
「このっ! 無能者がっ!! えぇい、私がやる、どけっ!」
銀髪の男はアイリーンの髪を掴んで仰向かせ、額に手を当てる。
先ほどよりさらに強く心に押し入ってこようとする魔力に、アイリーンは必死に抵抗した。
「くそっ!」
やはりうまくいかないらしく、男は舌打ちしたかと思うといきなりアイリーンのみぞおちに拳を入れた。
気を失い、ぐったりとなった彼女の額に再度、手を当てる。
しかし結果は同じだった。
男は目を見開いた。
「意識を失っていても記憶を読ませないとは……女にしてはたいした魔力だな。それとも何か他の力が働いているのか……?」
彼は改めてまじまじと彼女の顔を眺めた。
なかなかに美しい。そして、まだ成長しきってはいないが、充分に娘らしさを備えた体に目が止まる。
あらわになった、ほっそりとした手足。
柔らかな曲線を描く胸や腰。きめ細かな白い肌は手触りが良さそうだ。
男は目を細めた。
「フム……女は、初めての交わりで魔力のほとんどを失うそうだな。試してみるのも一興……」
「し、しかしルバート様!」
控えていた男があわてたように言う。
「この娘は……恐れ多くも主君エンドルーア王の妹君、フェリシア様の娘。そのようなことをされては、後におとがめを受けるのでは……?」
「フン!……魔力を持つ者は見つけ次第殺せというのがこの10年、変わらぬ沙汰ではないか。
命令通り、身につけていた物と所持品のいっさいを送ってやれば文句はないだろう。
いざとなれば、知らなかったで通せば済むことだ。
どうせ本国にとってここは辺境の地……何もわかるまい」
男は部下にあごで合図した。
「したくをさせて、私の部屋に連れてこい。ぐずぐずするな」
「まぁいい。宿で待っていれば、いずれ帰ってこよう。
そこでお前が囚われたと知ったら、我々の言うことを聞かないわけにはいかないだろうさ。クク……」
“ああ、何とかして彼が捕まる前に、ここから逃げなくちゃ……だけど、どうやったら……”
自分は一度、魔力を使って幻獣を倒したのだ。あの時できたことが、できないはずはない。
「おい、こいつの記憶から、宿の場所を読み出せ」
部下の男が額に手を当ててきた。
「あっ…!」
心に侵入してくる不快な感覚に、思わず、アイリーンは苦痛の声を漏らした。
「く……うぅ……っ!」
歯を食いしばり、体が震えるほどの苦痛に耐える。
「……ダメです、読めません」男が、主人におびえた目を向ける。
男の手が額から離れたとたん、アイリーンはがっくりと首をうなだれ、肩で息をした。
「このっ! 無能者がっ!! えぇい、私がやる、どけっ!」
銀髪の男はアイリーンの髪を掴んで仰向かせ、額に手を当てる。
先ほどよりさらに強く心に押し入ってこようとする魔力に、アイリーンは必死に抵抗した。
「くそっ!」
やはりうまくいかないらしく、男は舌打ちしたかと思うといきなりアイリーンのみぞおちに拳を入れた。
気を失い、ぐったりとなった彼女の額に再度、手を当てる。
しかし結果は同じだった。
男は目を見開いた。
「意識を失っていても記憶を読ませないとは……女にしてはたいした魔力だな。それとも何か他の力が働いているのか……?」
彼は改めてまじまじと彼女の顔を眺めた。
なかなかに美しい。そして、まだ成長しきってはいないが、充分に娘らしさを備えた体に目が止まる。
あらわになった、ほっそりとした手足。
柔らかな曲線を描く胸や腰。きめ細かな白い肌は手触りが良さそうだ。
男は目を細めた。
「フム……女は、初めての交わりで魔力のほとんどを失うそうだな。試してみるのも一興……」
「し、しかしルバート様!」
控えていた男があわてたように言う。
「この娘は……恐れ多くも主君エンドルーア王の妹君、フェリシア様の娘。そのようなことをされては、後におとがめを受けるのでは……?」
「フン!……魔力を持つ者は見つけ次第殺せというのがこの10年、変わらぬ沙汰ではないか。
命令通り、身につけていた物と所持品のいっさいを送ってやれば文句はないだろう。
いざとなれば、知らなかったで通せば済むことだ。
どうせ本国にとってここは辺境の地……何もわかるまい」
男は部下にあごで合図した。
「したくをさせて、私の部屋に連れてこい。ぐずぐずするな」
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