薄明宮の奪還

ria

文字の大きさ
上 下
54 / 198
第2部.アドニア〜リムウル 第2章

10.酷薄

しおりを挟む
男は酷薄そうな笑みを浮かべた。

「まぁいい。宿で待っていれば、いずれ帰ってこよう。
 そこでお前が囚われたと知ったら、我々の言うことを聞かないわけにはいかないだろうさ。クク……」

“ああ、何とかして彼が捕まる前に、ここから逃げなくちゃ……だけど、どうやったら……”

自分は一度、魔力を使って幻獣を倒したのだ。あの時できたことが、できないはずはない。

「おい、こいつの記憶から、宿の場所を読み出せ」
部下の男が額に手を当ててきた。

「あっ…!」
心に侵入してくる不快な感覚に、思わず、アイリーンは苦痛の声を漏らした。

「く……うぅ……っ!」
歯を食いしばり、体が震えるほどの苦痛に耐える。

「……ダメです、読めません」男が、主人におびえた目を向ける。

男の手が額から離れたとたん、アイリーンはがっくりと首をうなだれ、肩で息をした。
「このっ! 無能者がっ!! えぇい、私がやる、どけっ!」

銀髪の男はアイリーンの髪を掴んで仰向かせ、額に手を当てる。
先ほどよりさらに強く心に押し入ってこようとする魔力に、アイリーンは必死に抵抗した。

「くそっ!」
やはりうまくいかないらしく、男は舌打ちしたかと思うといきなりアイリーンのみぞおちに拳を入れた。

気を失い、ぐったりとなった彼女の額に再度、手を当てる。
しかし結果は同じだった。

男は目を見開いた。
「意識を失っていても記憶を読ませないとは……女にしてはたいした魔力だな。それとも何か他の力が働いているのか……?」

彼は改めてまじまじと彼女の顔を眺めた。
なかなかに美しい。そして、まだ成長しきってはいないが、充分に娘らしさを備えた体に目が止まる。

あらわになった、ほっそりとした手足。
柔らかな曲線を描く胸や腰。きめ細かな白い肌は手触りが良さそうだ。

男は目を細めた。

「フム……女は、初めての交わりで魔力のほとんどを失うそうだな。試してみるのも一興……」

「し、しかしルバート様!」
控えていた男があわてたように言う。

「この娘は……恐れ多くも主君エンドルーア王の妹君、フェリシア様の娘。そのようなことをされては、後におとがめを受けるのでは……?」

「フン!……魔力を持つ者は見つけ次第殺せというのがこの10年、変わらぬ沙汰ではないか。
 命令通り、身につけていた物と所持品のいっさいを送ってやれば文句はないだろう。
 いざとなれば、知らなかったで通せば済むことだ。
 どうせ本国にとってここは辺境の地……何もわかるまい」

男は部下にあごで合図した。
「したくをさせて、私の部屋に連れてこい。ぐずぐずするな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】捨てられ令嬢は王子のお気に入り

怜來
ファンタジー
「魔力が使えないお前なんてここには必要ない」 そう言われ家を追い出されたリリーアネ。しかし、リリーアネは実は魔力が使えた。それは、強力な魔力だったため誰にも言わなかった。そんなある日王国の危機を救って… リリーアネの正体とは 過去に何があったのか

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

処理中です...