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第1部.アドニア 第2章
12.石の魔法
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男は薄笑いを浮かべ、一歩、アイリーンに近付いた。
アイリーンは思わず後ずさる。
彼女は悟っていた。抵抗しても無駄だ。
どんなことをしてでも、この男は石を奪って行くだろう。
“どうせ取られてしまうなら……!!”
アイリーンはとっさに頭を巡らせた。
「待って!! 石を渡しても、いいわ」
男は猫科の猛獣のような目を細めて彼女を見た。
「本当よ。彼のことを教えて。そしたら、渡してもいいわ」
「……取引と言うわけか」
男は何か考え込むように、腕を組んだ。
アイリーンを見つめる目に、奇妙な表情が浮かぶ。
相反する2つの心の葛藤とも、過去の苦い記憶とも思える苦しみの影のようなもの。
「……いいだろう。何が知りたい?」
「彼は誰なの? 彼も、エンドルーアの王族の一人なの?」
「そうさ。奴は現エンドルーア王の息子だ」
「それじゃ……あなたの弟? あなたはギメリック、エンドルーアの第一王子でしょう?」
「……」
男の口元が歪み、笑いを形作った。しかしその目は笑っていない。
「ああ、そうだとも。俺の名はギメリック」
"冷酷で残忍、刃向かう村や都市を情け容赦なく…… "
兄の言葉が脳裏に浮かぶ。恐怖でくじけそうになる気力を奮い立たせ、アイリーンはさらに尋ねた。
「あの石は何? なぜ、石を欲しがるの?」
「あれはもともとエンドルーア王家に代々伝わる、秘められた力の泉。フレイヤの涙と呼ばれる宝石だ。俺こそが、石の正当な持ち主なんだ」
「……それがなぜ、私のところに?」
ギメリックの目に突然、激しい怒りの炎が燃え上がった。
「知ったことか! 俺が聞きたいくらいだ! 俺はその石をもう何年も探していたんだ、やっと見つけた、さあ石をよこせっ!」
ギメリックの剣幕に思わず、さらに後ずさりながら、それでもアイリーンは食い下がった。
「待って、力って何? あなたのその不思議な力と関係があるの?」
「石を手放せばお前には関係ないことだ。もういいだろう、石を渡せ!!」
「だめよ。ちゃんと教えてくれなくちゃ」
「……俺を怒らせない方が身のためだぞ」
トパーズの瞳が冷たく光る。
アイリーンは脅えを隠そうと、キッと頭を上げて、彼を睨みつけた。
だが小刻みに体が震えてくるのをどうすることもできない。
せめて声は震えませんように……。
「石の隠し場所がわからなくても、いいの?」
ギメリックは喉の奥で笑い声を立てた。
「見かけによらず気の強い女だな……。いっぱしの魔女みたいに生意気な口をきくじゃないか。だがお前は致命的な勘違いをしてる。あの石にかかっている魔法のことを知らないのだろう。ペンダントがお前さんの首に掛かっている間は手を出せないが、お前の体を離れているとなると話は別だ。俺にはお前を殺すことだってできるし、その気になれば、石を見つけ出すことくらい簡単なのさ」
アイリーンは息をのんだ。
恐ろしさで、声が出なかった。
「しかしもう一つだけ、教えてやろう。なぜ石が必要なのか?」
ギメリックはあざけるような笑いを浮かべた。
「俺なら、あの石から、世界を滅ぼすほどの力を引き出すことができる。その力で、ティレル……奴を殺すためさ!」
「……!!」
トパーズの瞳が一層光を増したように見え、次の瞬間、アイリーンの目の前で巨大な、真っ黒な獣が牙を剥いていた。
アイリーンは思わず後ずさる。
彼女は悟っていた。抵抗しても無駄だ。
どんなことをしてでも、この男は石を奪って行くだろう。
“どうせ取られてしまうなら……!!”
アイリーンはとっさに頭を巡らせた。
「待って!! 石を渡しても、いいわ」
男は猫科の猛獣のような目を細めて彼女を見た。
「本当よ。彼のことを教えて。そしたら、渡してもいいわ」
「……取引と言うわけか」
男は何か考え込むように、腕を組んだ。
アイリーンを見つめる目に、奇妙な表情が浮かぶ。
相反する2つの心の葛藤とも、過去の苦い記憶とも思える苦しみの影のようなもの。
「……いいだろう。何が知りたい?」
「彼は誰なの? 彼も、エンドルーアの王族の一人なの?」
「そうさ。奴は現エンドルーア王の息子だ」
「それじゃ……あなたの弟? あなたはギメリック、エンドルーアの第一王子でしょう?」
「……」
男の口元が歪み、笑いを形作った。しかしその目は笑っていない。
「ああ、そうだとも。俺の名はギメリック」
"冷酷で残忍、刃向かう村や都市を情け容赦なく…… "
兄の言葉が脳裏に浮かぶ。恐怖でくじけそうになる気力を奮い立たせ、アイリーンはさらに尋ねた。
「あの石は何? なぜ、石を欲しがるの?」
「あれはもともとエンドルーア王家に代々伝わる、秘められた力の泉。フレイヤの涙と呼ばれる宝石だ。俺こそが、石の正当な持ち主なんだ」
「……それがなぜ、私のところに?」
ギメリックの目に突然、激しい怒りの炎が燃え上がった。
「知ったことか! 俺が聞きたいくらいだ! 俺はその石をもう何年も探していたんだ、やっと見つけた、さあ石をよこせっ!」
ギメリックの剣幕に思わず、さらに後ずさりながら、それでもアイリーンは食い下がった。
「待って、力って何? あなたのその不思議な力と関係があるの?」
「石を手放せばお前には関係ないことだ。もういいだろう、石を渡せ!!」
「だめよ。ちゃんと教えてくれなくちゃ」
「……俺を怒らせない方が身のためだぞ」
トパーズの瞳が冷たく光る。
アイリーンは脅えを隠そうと、キッと頭を上げて、彼を睨みつけた。
だが小刻みに体が震えてくるのをどうすることもできない。
せめて声は震えませんように……。
「石の隠し場所がわからなくても、いいの?」
ギメリックは喉の奥で笑い声を立てた。
「見かけによらず気の強い女だな……。いっぱしの魔女みたいに生意気な口をきくじゃないか。だがお前は致命的な勘違いをしてる。あの石にかかっている魔法のことを知らないのだろう。ペンダントがお前さんの首に掛かっている間は手を出せないが、お前の体を離れているとなると話は別だ。俺にはお前を殺すことだってできるし、その気になれば、石を見つけ出すことくらい簡単なのさ」
アイリーンは息をのんだ。
恐ろしさで、声が出なかった。
「しかしもう一つだけ、教えてやろう。なぜ石が必要なのか?」
ギメリックはあざけるような笑いを浮かべた。
「俺なら、あの石から、世界を滅ぼすほどの力を引き出すことができる。その力で、ティレル……奴を殺すためさ!」
「……!!」
トパーズの瞳が一層光を増したように見え、次の瞬間、アイリーンの目の前で巨大な、真っ黒な獣が牙を剥いていた。
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