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【紗耶香視点】血祭りの痕

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「な、何……これ……」

 紗耶香がオーナーを勤めるバーから連絡が入り、臨時休業を余儀なくされる。お客のキープボトルはほぼ割れて、ガラスや鏡も割れまくり、床やそのガラスは血だらけだ。
 警察に通報すれば傷害現場となり、取り調べや鑑識が入るだろう。喧嘩ならいい。だが、そうではない、と紗耶香には連絡が入っている。

「何ででやらなかったの!裕司!」
「あぁ?………この店は俺が店長なんだぜ?店長権限でしちまったんだよ」
「喧嘩?…………違う、て連絡入ってるのよ?」
「気のせい気のせい」

 ガラスを踏み付けながら、煙草を吸って、ガラス撤去を終わらせたカウンターに座る裕司。裕司は手には包帯を巻いている。怪我はしていた様だ。

「何をしたの!」
「紗耶香を守ってやったんじゃないか」
「…………私を?」
「ま、になるかもしれんが……」
「え?何て言ったの?」
「…………いや?……あ、泉は処分しといたぜ」

 紗耶香は、カウンターの椅子を立て直し、ガラス破片や血が付いて無いのを確認すると、裕司の近くに座る。

「如何やって?」
「男回して………ウリの店に売ってきた……アイツ、ドMでその線で売れるぜ……顔もテクもまぁまぁだしな………」
「喋んないでしょうね……」
「………さぁな」
「さぁな、じゃないわよ!」
「喋った所で、アイツの情報なんて、速水物産の常務がゲイ、てだけだろ?」
「………」

 紗耶香はバックから煙草を取り出し煙草を咥えると、裕司が火を着けた。

「その常務と演じときゃ良かったんじゃねぇのかよ………セックスする必要もねぇし、寂しかったら俺が相手してやるし?」
「………駄目なのよ……速水の子を産まなきゃ、私は白河酒造を継げないから」
「………ホント、あの爺さんいけ好かねぇ……何をそこ迄させるんだろな」
「知らないわよ」

 チリンチリン。

 バーのドアが開いた音がして、紗耶香と裕司が入口を見る。

「失礼、警察ですが」
「………何か?」

 裕司は煙草の火を消し、カウンターを降りると、目配りして紗耶香を逃がそうと紗耶香を自分の背に隠して立つ。

「開店準備しないんですか?」
「ご覧の通り、が出て退治したらこんな有様になりましてね………これじゃ、お客様に危険でしょう?」

 両手を広げ、紗耶香に小声で『逃げろ』とも告げる。しかし、紗耶香は逃げれない。逃げ場は警察官の後ろだからだ。

「小松 裕司さん……隠さなくてもいいんですよ?」
「…………何を?」
「小山内 航さん、ご存知でしょう?」

 一瞬、紗耶香かと思っていたが違う様子。

「知らないね」
「高校生の時、小山内さんとよく補導されましたよね?」
「知らない、て言ったでしょう?」
「最近、会った筈だ………彼と」
「…………」
「彼のお父さんが経営する割烹料亭の防犯カメラに貴方と小山内 航さんが映ってましてね………親しげに映ってましたな」
「あぁ……航ね………名字なんて忘れたから誰かと思ったよ……数日前、思い出して顔見せに行ったわ」
「…………その小山内さんがこの界隈に、
「…………それで?」
に入ったのを最後に、街を彷徨いた姿が無い………そして、1区画先の路地裏で大怪我の状態で発見された」
「俺を逮捕します?」
「今は任意同行をお願いしますよ、そちらのお嬢さんと一緒にね」

 裕司の表情が一気に固くなる。

「コイツは関係無いだろ!」
「このバーのオーナーでしょう?白河 紗耶香さん」
「なっ!私はこの店を荒らされたのよ!知らないわよ!」
「紗耶香は関係無い!俺1人行きゃいいだろうが!」
「そうはいかないんですよ、事情を聞くだけですから」

 逃げたら、心象は悪くなる。それは分かってはいるが、紗耶香は犯罪になる事を命令をしているのだ。任意だろうがリスクは高い。

「分かったわ………その代わり此処で話させてくれる?店片付けたいの」
「鑑識入りますから、触らない様に」
「私の店よ!」
「傷害事件現場です……既に片付けられた部分はあるようですが」
「逃げろ!紗耶香!」

 2人の警察官をタックルした裕司。だが、意味は無い。公務執行妨害になり裕司はもっと罪を重ねてしまうだろう。
 紗耶香もせっかくのチャンスをと思ったのだろう、走り出してしまった。しかし、タックルされた警察官は裕司より体格が良く、振り払われ、押し倒される。

「放して!私は無関係だってば!」
「貴方も公務執行妨害で現行犯逮捕しますよ?任意で来て頂けた方が身の為かと。大手酒造会社のご令嬢なら、素直に従った方が印象いいんじゃないですか?」
「っ!」

 紗耶香がこのバーに来たのは、裕司からの連絡では無かった。雇われ従業員の報告からだった。来なければ裕司1人で任意同行に応じたかもしれなかった。



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