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航の友人

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 割烹料亭おさない。
 店裏口で、仕入れの荷を車から下ろしている航。

「っと!………で終わりだな」
「よぉ、航……久しぶりだな」
「……………裕司?……裕司か?お前」
「元気か?」

 煙草を更かし、両腕をズボンのポケットに突っ込んで立つ裕司。サングラスをしていたが、航は見間違えない程、裕司の事を知っていた様子。

「お前、高校出てムショ入ったって聞いたが、それから音沙汰無しで何してたんだよ!」
「………お前、親父さんの店継ぐのか?」
「あぁ……まぁな……高校出てから調理師免許取って親父と一緒にやってるよ」
「お前、当たる場所に行ったんだな……」
「…………お前……足掻いてんのか?まだ……」
「…………」

 裕司は灰を駐車場に落とし、煙草をまた咥える。

「おい!店汚すんじゃねぇよ!ほらよ、携帯灰皿」

 航は投げて裕司に携帯灰皿を渡す。

「なんだよ、灰ぐらい風で飛ぶだろうが」
「あぁ?………てめぇ、俺がどんだけ努力して這い上がって来たと思ってやがる!高校卒業して、殴られようと蹴られようと、昔に対抗していた奴らが諦める迄、地獄見たんだ!お前もムショで地獄見てた様にな!店は俺の家族の次に大事なんだよ!てめぇにもあるだろうが!大事なもんがよ!」
「…………まぁな……だが、手に入らねぇ高嶺の花だ……」
「裕司………」
「だからな………航……店は諦めろよ……家族もよ……」
「…………はぁ?」

 航は、裕司に近付いて行く。血の気の多い性格の航は、幾ら更生したと言っても根本は変わりきれない部分もある。

「俺のの邪魔なんだよ、お前の妹がな」
「あぁ!?………お前……白河酒造の回しもんか!」
「今日は警告だ……気を付けろよ、航」

 ―――アイツの大事なもん、て何だよ……あ、まさか………

 裕司の後姿は航と似ている。雰囲気も似ていたのもあり、気が合っていて高校生の時の親友だったのだ。身分証明書さえどうにかすれば、少しメイクで航に似せれば、警察に晃司の事を取り下げる事を考えていたかもしれない。

「ふざけんなよ………アイツ……何しようってんだ、また……」

 もう、連絡先等知らない。家にも行った事もあるが、裕司が刑務所に入った事で、一家離散していると、航は耳にしている。

「親父!ちょっと出掛けてくる!開店迄には戻るから!」

 航は裕司の行きそうな所を探しに出た。しかし、10年以上会って居なかった者の行き場等分かる筈も無かった。
 だが、航は見つける。1人では如何する事も出来ず、翌朝繁華街のとあるビルのゴミ捨て場に傷だらけで発見された。
 打撲や捻挫、殴られた痕、包丁を持つ手が特に酷く、全治3ヶ月の診断だった。

「誰にヤラれたか教えて貰えませんかね、小山内さん」
「…………」
「航、答えろ!」

 料理人の命である腕を負傷し、店に立てる事も出来なくなった航。心配な航の父は、警察の質問に答えない航に痺れを切らす。

「………コケたんだよ」
「転んでそんな切り傷ありませんよ、刃物やガラス破片が身体中に付きますか?小山内さん」
「俺、器用っすから」
「航!」

 何を言っても、誤魔化す航に一旦引くが、警察も馬鹿では無い為、探し出すだろう。

「お兄ちゃん!何で言わないの、警察に!」
「正攻法で説得しようとして、返り討ちにあっただけだ………俺を殴ってお前に害が無きゃそれでいい………まぁ、無理だろうがな」

 入院翌日に、律也と病院に来た羽美は、酷い傷の航に泣いて懇願する。

「お兄ちゃんが黙ってたって、警察に捕まるのがオチよ!ただ、証拠固めで聞いてるんだから!」
「分かってる!………分かってるさ……バレて余罪追求されたら、またムショ行きになる奴が俺をヤッたんだからな………」
「庇ってるんですか?航さん」
「…………庇ってねぇよ…別に……ただソイツのが何か知りたかっただけだ……白河酒造と繋がりあるんでな………業務提携なんて事するんだろ?速水物産……馬鹿な俺でも分かる……警察沙汰になりゃ、立場悪くなるだろ?白河酒造もな」
「誰ですか、航さんを殴った人間の
「知らね……白河酒造が経営してるバーやクラブを渡り歩いて、漸くソイツに会えて、『会わせろ』と言ったらこの有様さ」
「…………バー……クラブ………なる程ね…大人しくしてなかった、て事か」

 律也は、誰か分かった様だった。

「話してくれて構いませんよ、航さん」
「相手をか?」
「えぇ、業務提携なんて結末にはしません、警察沙汰大いに結構……航さんは、隠してる人物を助けたかったかもしれませんが、そこ迄されといて見せたら、それは相手には屈辱的な結果になりますよ」

 航は納得したのか諦めたのか、息を吐いて整えてから、言葉を噤む。

「…………警告されたのさ……ソイツのの敵が羽美だと言ってきた……そのに会わせてくれれば、俺だってこんなになる前に逃げて来る……羽美を敵と見做す奴は俺の敵だ、足掻くに決まってるだろ」
「お兄ちゃん………だとしても、包丁握れなくなったら如何するのよ!切り落とされてたかもしれないのに!」
「そしたら、ある手で料理人続けるさ」

 航は晴れやかな表情を見せる。身体中痛いだろうに、窓の外を見つめた。
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