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重役会議
しおりを挟む重役会議が、朝から行なわれた。
律也が会議室に入ると、末席に座る。
「おや、森本君も居るのかね」
「専務お疲れ様です」
「係長が重役会議に出るとはね……」
「…………」
やれやれ、と顔が出ている専務は、不服そうに椅子に座った。『係長風情が』と言われている様だ。
「律也、もう来ていたか」
「……新参者ですからね」
常務である大河も来ると、専務の空気は変わる。
「朝、母さんから連絡が来たが、えげつない事やるね」
「いいじゃないか、腹立てさせてくれた代償だ」
「じ、常務?……森本君とはどういうご関係で?」
「弟ですが?速水が多くなると、紛らわしいでしょう?律也は母の姓で仕事していただけで、事実上父の後継者ですよ」
「え!常務が次期社長じゃ……」
「僕は、サポートに徹します。弟の方が経営に向いてますからね」
「俺は兄貴の下でいいと言うのに、俺を持ち上げるのは止めてくれよ」
「そ、そうでしたか………い、いやぁ……森本君が……」
長い物には巻かれろ、とでも言うのだろうか、急にヘコヘコとし始める専務に呆れる律也。
「律也、父さん……社長が人事異動もすると言っていたから、律也の役職変わるかもね」
「俺はまだいい」
「言うと思った……言われたら自分から断れよ………一応、嫌がるから止めたら、とは言っておいたけど」
「昇進は誰かが定年退職したらでいいし、態々役職を空ける事もないだろ」
と、律也は専務をチラ見する。先程の礼も兼ねてだ。その律也の目に萎縮する専務。
「律也、揶揄うんじゃないよ、専務も仕事が出来る人なんだから、敵にするなよ」
「………失礼、専務」
「い、いえ………」
続々と、重役達が入ってくると会議が始まる。業務提携の話が主であったが、途中経過で提携に難色を見せる重役も居る中で、噂にもなっていた見合いの話が出て来た。
「業務提携に白河酒造のご令嬢と縁談もあったと聞き及んでおりましたが、何故常務ではなく森本君だったのか分かり兼ねます」
「それは、私の息子だからだ」
「「「え!」」」
社長であり律也の父、勝真が公表する。
「律也の希望であったのもあり、知っていたのは人事部長と常務しか居ない………それを何処から調べたのか、白河酒造が律也に白羽の矢を立て、紗耶香嬢との結婚をチラつかせて業務提携を提示してきた。我社は何も業務提携せずとも利益率はあまり変わらん、意味が無い……律也がそれを考え、兼てより交際していた社員と結婚をした程だ。それを白河酒造がどう出るかは動向を見ている。買収等はさせるつもりもないので、先手を打った」
「な、何を……」
「律也は先日から白河酒造の持ち株、グループ会社の持ち株を買い続けている」
「そ、それは……我社が白河酒造を買収すると?」
業務提携ではなく買収する行為。
「律也の名義ではない……私の元妻、森本 萌の名義だ………事実上、筆頭株主になれば白河酒造も無謀な事はしまい………現に律也の妻、羽美の実家は白河酒造の妨害を受けたのでな」
「妨害を続けるなら、業務提携等はしなくていいのでは」
「勿論、そうだ……たが、律也は業務提携後の収益向上の計画も起てている………業務提携をするなら、我社が優位に立てねば意味は無い、あの白河酒造の古狸は引退してもらわねば、また妨害が起こり得るからな………重役達も白河酒造の者との付き合いを注意するように」
その他重要案件の会議を終わらせ、朝から続いた会議は昼休憩直前だった。
―――腹減ったな……
律也が会議室を出ようとすると、忽ち律也は囲まれる。
「感服致しましたよ、律也さん」
「社長も安泰ですな」
「常務といい、次男の律也さんといい、素晴らしい後継者が2人も」
掌を返す様な重役達の態度に、専務の時と同じ感覚を味わう。
「皆さん、仕事を抱えていらっしゃる筈。私も重要案件を抱えてる為、失礼します」
さっさと出てしまおう、とPCを抱えて律也は会議室を後にした。
「律也、飯食いに行かないか?」
「愛妻弁当があるから行かね……言ったろ?重要案件て」
「…………フッ……ご馳走さん……」
営業部に戻ると、弁当を持って来ている社員達が、ミーティングルームに集まって、先に食べていた。
「お疲れ様」
「係長、会議お疲れ様でした」
「俺もここいい?」
「あ、はい!どうぞどうぞ!奥様の隣開けます!」
「ち、ちょっと!」
「何だよ、いいじゃないか」
羽美は照れ臭そうにしていて、顔が赤い。奥様と呼ばれ慣れていないのもあるだろう。
「係長は小山内さんを呼び捨てにしてましたが、小山内さんは係長の事なんて呼んでるの?」
「おい、高田……もう小山内じゃないだろ」
「あ、そっか……森本さんだ」
「………あぁ、そうだ……その内発表するが、実は俺達、速水だから」
「速水?」
「社長と常務の名字ですね……親戚とか?」
「親父と兄貴……速水の名だと、皆畏まるだろ?係長なんて役職でも」
色目も使われるし、と律也は続ける。
確かに赴任当初から、速水姓だと、社長や常務の近親者だと勘ぐってしまっただろう羽美。そうなれば恋心も直ぐに消し去る様にしていたかもしれない。
「お、驚きました……」
皆、食べるのを止め、固まっている。
「お、美味そう……羽美、頂きます」
「あ、はい……」
「愛妻弁当ですねぇ、係長」
「羽美のお父さんは料理人だからな、何を食べても美味いよ。親の仕事見て育てば味も似るしな」
麗らかな昼下がり、会社の営業部内は平和であった。
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