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爆買いも程々に

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 紗耶香を追い返した日の翌朝。ベッドに居ない律也に気が付き、目が覚めた羽美。
 裸で、微睡みながら身体を起こすと、リビングの方から話声が聞こえた。

『…………助かったよ、母さん…うん………え?何で俺達が行かなきゃならないんだ、今忙しいよ……嫁さんの写真、送る………2ショット?裸ん時ならある……はいはい……で?母さんは帰ってこないのかよ、親父寂しそうだぞ…………ふざけんな、誰が親父と住むか……はい、口座に振込んだら移行して………じゃ…』

 ―――お母様?

 羽美は、ベッド下に落とされたパジャマを着て、リビングへと出る。

「律也さん、おはようございます」
「あぁ、羽美おはよう」
「国際電話ですか?」
「まぁね、母親と………頼んでた事あったから」
「指輪、ですか?」
「それもあるけど、今のはまた別件………まだ出社には少し早いな」
「朝食作りますね、私」

 電話の会話から、憎しみあって律也の両親は離婚した感じではないようだが、踏み込んで話す内容でもないので、触れないように羽美はキッチンへ行く。

「羽美、朝の運動しない?」
「しません………昨夜もかなりシたと思いますけど」
「可愛いかったなぁ………悶え狂った姿……思い出して抜ける……」
「………どうぞ、トイレで」
「夜は可愛いのに、朝は辛辣だな、羽美」
「朝から卑猥なんですもん………しかも夜はハード過ぎて……体力考えてくれてますけど、縄の痕とか隠すの苦労するんですから……」

 律也の趣味には付き合う羽美だが、社会的にその趣味は隠した方が律也の為だと思っている羽美。
 昨夜も縄が使われ、胸や腹、背、二の腕に縄の痕が付いている。服で隠れる結び方をしているのは、律也自身が隠しておきたい、と思っているからだと、羽美の想像でしかない。

「可愛いと縛りたくなるのは、羽美が度が過ぎる可愛いさだからだろうな」
「律也さんだけですよ、私をなんて言うのは」

 珈琲豆をミルで挽き、1杯ずつフィルターをマグカップにセットし、沸いた湯をゆっくり落とす羽美。
 律也が珈琲はそうやって飲むのが好きだと言うので、羽美も同じ様に飲み始めた。

「ブルーマウンテン?」
「少し、ロースト系の豆も入れました……コクが欲しいな、と」
「味覚の好みが合う奥さんで、癒やされる………」
「危な………もぅ……溢れますよ、いきなり抱き着いてきたら」

 期間限定なのか、それとも無期限なのか曖昧な結婚なのに、律也は甘い言葉を絶やさない。勘違いしてしまうんじゃないか、と思ってしまう。恋人の期間が短過ぎて、羽美はこの結婚に自信等無かった。
 その律也は、冷蔵庫から野菜を取り出し、器用にピーマンや玉ねぎを千切りにし始めた。卵もあるのでおそらくオムレツだろう。手際よく準備されて、主婦になった羽美は面白くない。それでも、律也の母親との会話で気になった事は聞いた羽美。

「お母様に、私の写真送るんですか?」
「落ち着いたら、とは思うけど……何分、いろいろ通り越して端折り過ぎた結婚だからな………羽美の手続きも大変だろうし」
「私、昨日の内に銀行は名前は変更しておきました……給料の事もあるし……保険や免許証はまだ出来てないですが」
「免許あったのか」
「ペーパーですけど」

 羽美の横で、パパッとオムレツをひっくり返す律也。

「料理上手でムカつく……」
「俺ん家………母さん料理作れなかったからな………家政婦の負担軽減で、料理を教えて貰ったんだよ……兄貴も一通り出来るぞ」
「だから、調理器具も揃えてあるんですね………私のお気に入りは無水電気圧力鍋ですが………」
「ズボラ飯最高……もし、欲しいのあれば言えよ、買うから」
「充分過ぎますよ、パスタ迄作れるんだから」
「料理は趣味だからな……出来たし食べよう」
「はい」

 オムレツだけではない、他の常備菜やヨーグルトも準備し、ダイニングに運ぶ律也。綺麗好きな為、無駄に汚さない徹底振りだ。
 バスタカッター迄あるキッチンに、これ以上何を求めていいか分からない。

 ―――どっちがか分からないなぁ

 珈琲を運ぶ羽美。いつの間にかペアのマグカップを使うようになっていた。

「ちょっと今からニュース読む」
「あ、はい」

 新聞は取ってはいない様で、スマートフォンで新聞記事を読む律也は、朝食時に行儀は悪いが仕事が忙しいので、仕方ないのかもしれない。
 羽美も朝食だけの間の行動なので、朝を一緒に迎える様になってから慣れていかなければならない。

「私、お弁当作らせてもらいますね」
「俺のも作れる?」
「今日は外回りの予定は無いんですか?」
「重役会議になると思う」
「え?予定ありましたっけ」
「作った………今」
「作った?………重役会議を?そもそも係長で重役会議に参加ありませんよね?」

 弁当箱に炊き立てのご飯を詰め、おかずを作りながら会話する羽美。律也は朝食を食べ終え、食器を運んで来た。

「母さん名義でとある会社の株を買占めてな………金は俺の金だが」
「買占めて、て………どれぐらいを……?」
「今30%かな………まだ奪ってくつもりだが」
「一体何処の会社を………」
「白河酒造」
「…………業務提携しないつもりですか?」
「先に喧嘩を売ってきたのは、向こうだ……買いやすい所から徐々に蝕んでいってる」
「そ、そんなに安い買い物じゃないですよ……ね……」
「まぁ、ちょっとしたさ………買い戻させるつもりだが、どう出るか、だな」

 株主になるつもりではないようだが、律也が何を考えているかは羽美には分からなかった。
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